第152話試練の塔再び
「はぁぁぁ!!」
アレクサンドラはナイト目掛けて走り出す。
ナイトは二体とも大盾を構えてアレクサンドラを待ち構える。
アレクサンドラは小さい利点を生かし、盾の死角から敵の背後に一気に回り込む。
いい動きだ。
アレクサンドラはそのまま剣で敵の背中を斬ろうと剣を振り下ろす、がナイトは後ろも見ないで剣を躱す。
「なっっ!?」
アレクサンドラは躱されると思わなかったんだろう。
一瞬止まってしまい、ナイトの振り向きざまの蹴りを食らってしまう。
アレクサンドラは転がされるがすぐに体制を立て直す。
しかしすぐにもう一体のナイトが迫り剣を振り下ろす。
彼は剣を盾で受け止めるが力は相手の方が上で、さらに後ろに飛ばされてしまう・・・。
「・・・エリザベス。」
「・・・まだよ。彼が気づくか私達に助けを呼ぶか、どちらかまで待ちなさい。」
僕はエリザベスに助けに行っていいか確認したが、駄目だった。
恐らくそれでは彼は成長しないと判断したのだろう。
この戦闘にはカラクリがある。
そこに彼が気づいてくれれば・・・。
アレクサンドラは再び立ち上がり剣を構える。
ナイト達はすでに先ほどと同じように盾を構え待ち構えていた。
「・・・「雷神衣威」!!」
アレクサンドラは雷に包まれる。
そのまま正面から剣を振り下ろし、盾ごと敵を叩きつける。
ナイトは一瞬よろめき、その隙に再び死角に入り込む。
今度は鋭い突きで背中を狙うが今度はナイトは背後を見ないで剣でアレクサンドラの攻撃を捌く。
「・・・くそ!!なんでだ!?」
アレクサンドラはまだ気づいていないようだ。
何もしていない猫こそがナイト達の本体だということに・・・。
ナイト達は猫の糸のような魔力に操られている。
そして常に猫を守るように戦っている。
死角の攻撃はナイトが見えているわけではなく、猫が客観的に見てナイトを操り攻撃を防いでいる。
そこに気づけなければここの攻略は難しいだろう・・・。
アレクサンドラは二体の剣を盾でもろに受けてしまう。
「・・・ぐっっ・・・。」
そのまま彼は僕らの方まで飛ばされてくる。
「大丈夫?手伝おうか?」
「・・・大丈夫です!邪魔しないで下さい!!」
アレクサンドラは僕らにそう吐き捨てて再び駆け出す。
その後何度も攻撃を繰り返すが全て防がれてしまう。
彼からしたらナイトは背中に目があるように感じていることだろう・・・。
それでも彼は諦めず何度も何度も剣を振るい戦うが全て防がれ、再びこちらに飛ばされてしまう。
彼のHPは残り3割を切っている。
・・・もう限界は近いだろう・・・。
「・・・くそっ!!なんでだ・・・。僕は英雄にはなれないのか・・・!?僕には・・・力がないのか・・・!?」
歯を食いしばり地面に額を叩きつける。
顔を上げた時、彼の額からは血が流れていた・・・。
もう見てられないな・・・。
「・・・英雄って何なんだろうな・・・。」
「・・・え?」
ナイト達は猫を守るように待ち構えこちらには来ない。
彼を説得するならもう今しかないだろう・・・。
「初代国王の勇者ってさ、一人で世界を救ったのかな?」
「・・・いえ。確かパーティメンバーがいたはずです。」
「そうだね。パーティメンバーがいたはずだ。彼は一人ではできないことを仲間と共に成し遂げたんだ。」
「・・・だから何なんですか?」
「ん。人生のほとんど全ての不幸は自分について誤った考え方をすることから生じてる。できること、自分には何があるか、周りには何があるか、それを判断することが出来れば目標に一歩近づくことが出来ると思う。」
「・・・・・・・・・・。」
「君の周りには今何がある?君の目的はあの敵を一人で倒すこと?それともこの塔を攻略する事?」
「・・・僕の目的・・・。」
アレクサンドラはゆっくりと敵を見て、自分ん手を見つめ、そして僕らを見る。
「・・・そうか・・・。一人でやる必要はなかったのか・・・。」
「そうだよ。一人で岩を持ち上げられなかったら皆で持ち上げればいい。簡単な事さ。人が一人でできるこ事なんて案外限られているからね。」
アレクサンドラはゆっくりと目を瞑り考えた後、再び目を開く。
その眼にはもう迷いはなくなっているように見えた。
「・・・手を貸してくれませんか?僕一人ではあいつらを倒すことが出来そうにありません。でも僕は先に進まなくてはなりません。手を貸してください!!」
「「「「「もちろん。」」」」」
僕は彼の肩を掴み立たせ、エリーゼは彼の治療をする。
「いい?アレクサンドラ。まずは相手をしっかり見なさい。目でだけでなく、魔力を使って。」
「・・・魔力を・・・?・・・あっ。」
彼にも気づいたようだ。
ナイトはただ操られているだけで本体は猫であることが・・・。
「・・・アレクサンドラ。僕たちはどうしたらいい?」
「・・・はい。エリーゼさんは皆にブーストを。クリスさんがまずは牽制で猫に矢を射って猫とナイトの距離を引き離してください。ウィルさんとアイリスさんはナイト二体の足止めを。エリザベスさんは猫の背後に魔法を放って逃げ場を奪ってください。その隙に僕が猫をやります。」
「了解。」
「いいよー!!」
「ふふっ。わかったわ。」
「ん。頑張ってね。」
「いい指示じゃない。これならうまくいきそうな気がするわ。」
僕らは彼の指示通り、クリスが矢を射る瞬間駆け出す。
ナイトは先頭にいるアレクサンドラを攻撃しようとするが僕とアイリスがそれを防ぐ。
「ちょっと邪魔しないでもらえるかな?」
「そうだよ!!ここを通りたければアイリス達を倒していきなさい!!」
僕らは敵の足止めに成功。
アレクサンドラは僕らの間を走り抜けていく。
猫はクリスの矢ですでに後方まで下がっている。
「アイスウォール!!」
エリザベスが猫の両側に壁を作る。
「はぁぁぁ!!「雷神衣威」!!・・・これで終わりだ!!」
猫が逃げ場を失って慌てているところをアレクサンドラが真っ二つに切り裂いた・・・。
僕らは最後の階段を上る。
そしてついに最上階にたどり着いた。
最上階には壁はなく、周りに柱が何本かと石でできた天井があるだけだった。
完全に建築基準法を無視する造りだ。
そして中央には一つの宝箱があった。
「・・・いよいよですね。お父様がここにはお前の求める物があるだろうと仰っていました。」
アレクサンドラはゆっくりと震えた手で中央の宝箱を開ける。
そこには一枚の紙があった。
「おめでとう。これで君も一人前だ。ここにはこの紙切れしか入っていない。だが君が欲しかったものはすでに見つけたはずだ。・・・尚この紙はまた使うので宝箱に戻してほしい。」
「・・・なんですかこれ・・・。こんなものの為に・・・。お父様は僕にいったい何を・・・。」
アレクサンドラは怒りで肩を震わせているようだ。
彼はまだ気づいていないのだろう。
この塔の意味を・・・。
「・・・なぁアレクサンドラ。もう一度聞くけど君は何になりたいんだ?」
「・・・だから英雄になりたいんだって言ってるじゃないですか。」
「英雄になって何をしたいんだ?」
「・・・英雄になって・・・?・・・え?」
「英雄になれればそれでいいのか?そこが終着点なのか?」
「・・・僕は・・・。皆を救いたい・・・。この大繁殖期から皆を。」
「そうだね。初代国王もそうだったんじゃないかな。初めから英雄って呼ばれていなかったんじゃないかな。勇者は、英雄になるってのは結果論なんだよ。誰かを救って、感謝された先に英雄があるんだと思うよ?」
「・・・勇者は初めから勇者じゃなかった?」
「そうね。貴方は大事な物にまだ気づけていないわ。そして目的と目標を勘違いしている。目的はあくまで皆を救うこと、そしてその先に英雄という目標があるの。その二つは同じようで全然違うものなの。それより貴方はこの塔で何か学ばなかった?」
「この塔で・・・?」
アレクサンドラは一度紙を見て、しばらく考える。
そしてゆっくりと辺りを見渡し、そして僕らを見る。
「・・・いえ。この塔で僕は色々な事を学びました。人生焦っても意味がない事、自分を見失わな事。そして皆さんに助けられた事・・・。そう言えばクイズでもさりげなくヒントを頂きましたね。」
「あら、気づいていたの?」
「ええ・・・。と言っても今思い返せば・・・ですが。そうか・・・。僕は知らず知らずのうちに皆さんに助けられていたんですね。なんでも一人でやったような気がしてました。」
「人は一人で生きていく。確かにそうかもしれないけど結局一人でできることなんてたかが知れてるんだよ。」
「・・・勇者も色々な人に助けられたりしたのでしょうか?」
「前に情報屋から聞いた話だとエルフやドワーフ、獣人をまとめ助けたのは勇者だったらしいね。でも彼らも助けられてばかりじゃなかったんじゃないかな。勇者は皆を助けたくて旅に出て、同じ思想を持った仲間に巡り合って、誰かを助け、助けられて。その果てに世界を救って勇者に、英雄になったんだと思うよ。」
僕らはまぶしい光に思わず目を伏せる。
気づけばすでに日は落ち始め綺麗な夕日がその姿を現していた。
「・・・僕にもなれるでしょうか。英雄に・・・。」
「・・・どうかしら。でも焦って自分を見失い、人に助けられていることも分からないような子供には無理なんじゃないかしら。」
「・・・そうですね・・・。ありがとうございます。おかげで目が覚めました。もう目的と目標を間違いたりはしません。」
その日の夕日はとても綺麗だった。
きっとこの夕日は彼の為に沈むのだろう。
今日という一日が終わり、そして新しい朝が来る。
その時には彼はまた少し大人になっているのだろう。
もしかしたらこの試練の塔で爺さんが伝えたかった事はこのことなのかもしれない。
内容は単純だった。
力を示し、知力、忍耐力、そしてチームワーク。
生きていくうえでこれはどれも、とても大切なことだ。
それを簡単なゲーム感覚で気づかさせたかったのかもしれない。
なんだかそんな気がした。
僕らは塔から降り馬車を飛ばして帰った。
こうして今日という一日が終わり、また新しい今日が始まる・・・。
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