いちご惑星
水菜月
苺型ロボット
ぼくの誕生日は、あろうことかバレンタインデー、2/14だ。
「母よ、せめてあと一日、ぼくを押し込めておくことはできなかったのか」
「自分が嬉しくなってあわてて出てきちゃったくせに、よく言うわよ」
めっちゃ軽くあしらわれている。
男がこの日生まれっていうのは、なんとも複雑だよ。いらぬ同情を買うんだ。どことなく哀れが滲んじゃうんだよね。
*
さあ、またこの日がやって来た。
ひとつもチョコをもらえなかったぼくが意気消沈して家に帰ると、いつものように小包が届いた。
都会に住む母方のおばあちゃんからの、律儀なバースデープレゼント。
ぺこり。ぼくは、おばあちゃん家の方角に向いて頭を下げる。
今年は、有名な高級フルーツパーラーの箱だ。
まず、包み紙を丁寧にはずす。テープで紙をビリっと破いてしまうと、なんだか不吉だからね。
それに、後でブックカバーにするんだから大事にしないと。包むのはラノベだけど。もちろん自宅専用のだけど。
フルーツ柄のしおりも一緒に作ろうか。乙女か、ぼくは。
箱を開けると、整然といちごたちが並んでいた。
おお、それぞれが、右斜め45度の角度できっちり整列している。
4×8=32個の大粒の苺。一糸乱れぬいちごの兵隊みたいだな。宝石のように美しい。
まだ誰も帰ってこないけど、ぼくの誕生日だし、いいか。
ひとつ取り出して齧ってみる。まだ、ちょっと堅い。
でも、いちごのシャーベットみたいで、味は濃厚。うわ、おいしい。
ぼくは残りを箱ごと、冷蔵庫にしまった。
今思えば、確率は32分の6。32のうち26があいつらだったから、たべられるカモフラージュ苺は6個だけだったことになる。
夜ごはんの後に、デコレーションケーキが登場したこともあり、結局家族はその夜はそのいちごに手を付けなかった。
*
夜中に水を飲みに行ったら、冷蔵庫の中から、がさがさ音がするんだよね。
なんだろうと、扉を開けてみたら……。
何粒か、いちごたちが歩いてた。足がありやがる!
のん気に歩いていたが、こちらの視線に気付いて、あわてて足をひっこめてそのまま動かなくなった。
でも、揺れてるよ。「だるまさんがころんだ」で止まりきれなくて、ぐらぐらしてる小学生みたいだ。
上段や下段に、いちごが分散している時点で、ごまかそうとしてもおかしいだろ。
一つをサンプリング。
手のひらにのせてよくよく観察していると、めちゃくちゃ汗をかいている。
頬赤らめてるのか、妙に熟したみたいになってるぞ。おい。
いちごのほっぺには、アルファベットが刻印されてる。こいつはBか。
じぃーっと見つめる。ぼくの視線の強さに限界に到達したらしく、あわてて箱の中に逃げていった。
他のいちごたちも、急いでイン。みんなで力を合わせて、箱のふたをよいしょよいしょと閉めている。
そう、こいつらは、実は送り込まれた苺型ロボット(刺客)だったのだ!
宇宙からの(かどうかは甚だ謎だが)の使者!
「おやすみなさーい」
って合唱する声が、聞こえた気がした、深夜0時。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます