第8話 記憶に残る物と残らない物
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記憶に残る物と残らない物。
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ふらりと歩いて行くと偶然にも、昔から使われていたという「室」が。
残らない物って・・・。食べてしまえば残らない。
形を変えてこんにちは。
「記憶に残らない物っていうのは、その物から受ける印象が、他の周りの物に負けているからですかね。」
「自分で知らずとジャッジを心の中で決めているのかも知れませんよ。」
「覚えて無きゃいけない事を、忘れては困る。何で見て聞いて、体験までした事を忘れてしまうのか?勝手な判断を脳みそが下しているんですかっ?
記憶装置が万全では無いのが意外といえば意外。」
「よくそんな風に都合よく考えられますねぇ、必死になって、英単語を覚えているのに、もう、諦めちゃってるみたいじゃない。諦めないんだよ。
記憶してる人はね。無駄にしないって訳。だから、こういった古い室が残っているんだろうね。」
「さっさとガレージセールで片付けてしまった日用品を、十年後に思い出すのって、高く売れても、ちょっとくやしい。」
「質屋に入れて、買い戻す?質屋の場合は、ちと踏ん切りが付いている感じはするよねぇ。詫び錆びだねぇ。」
「古手川さん、どうします?
こういった建物って興味ある方々、年齢層は高そうで。それなりに維持費もかかるし、こういうものを好む人って、マニアでしょ。もう。」
名所巡りの一環で、観光客を集めて連れて来るにしては、地味ですよ。
あまり、大袈裟にフューチャーしてもねぇ・・。
どうですか?」
茶見子は、室に興味はあるものの、遠く高速道路とビル街に押された町並みを見て、 生産特急の無いものねだりに腹が立ち、小石をけった。
「持ち主は、誰なんですかね。この隣のお宅でしょうか?」
そこへ____、
タタタッと数名の子供達。
わいのわいのとほっこり風を呼び込んだか、私達の方へ学校帰りの小学生が駆け寄ると、あたり前のようにその室の前で立ち止まり、屯い 始めた。
喋くっては、ランドセルについている防犯ブザーを振り回し、学校から持って来たのか、手提げから、小さなプラスチックの算数セットやおはじき、計算用の教材、チョークなどを広げ、遊び始める子供達。
周りを確認し、室の周辺に生えている雑草を引っこ抜き、私が蹴った石
を拾うと、室の入り口の年季の入った木製ドアの隙き間を引っこ抜いた雑草で埋めていた。
井戸らしきポンプが残っていて、転がったボールめんきに水を汲むと、木の根元から、乾いた土を両手で集め、落ちている枝で、かき混ぜ始めた。
枝が短過ぎて、両手は泥だらけ。
終いには手でこねくり回し、先に雑草を埋めた箇所に塗っていた。
前にも塗っていたのか、ヒビだらけの土の固まりが室のドアに。サナギにも見える。
ペンペン草やら、にらばなやら、子供達が引っこ抜いて遊んでいるので、室の周りは踏み固められ、日影になった部分には苔がしんしんと。
その緑色のクッションからは、所々クローバーが育っていた。
鳥居でもあったら小さな神社とも思えるが・・・。
「どうしますか?古手川さん、子供達、修復してるみたいですけど。
まぁ、かなり状態は良く見ると傷んでいますよ。」
「あーっとぉ、できたぁ。かんせいですぅ。ここがいたんでいましたからね。なおしといたよぉ。
まさひろくん、つちのじゅんびしといてぇ。つぎのかべもふさがないと。
あめがもれるといけないからねぇ。」
「よぉぉし、ふさげぇ、ふさげぇ。」
まさひろくんは、土を必死にかき混ぜて、ついでに横に生えていた細長い龍の髭を鷲掴み、勢いづけ、手際良く次の修復場所へ駆けて行った。
「遊び場になってるね。」
「この楽しんでる所を撤去できませんよぉ。強行突破シマスカ?
できないですよぉ。」
「では、そのままでいいでしょ。
安全確認の為にドア叩くから、まさひろ君に聞いてきて。」
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現状維持する事でのリスク
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一、
栄養情景の差を感じさせない為の見えない次元にいる神経細胞への負担。
二、
こだわって、夢中になっている為に、アドレナリンの過剰な分泌に気が付
かない。知らず知らず興奮状態になっている事。
三、
時代遅れと言われないよう、露出する事での保存活動と、パフォーマンスにも捉えられる派手な修復。
室の持ち主は、まさひろくんのおじいさんだった。
「ぼくんとこ、ぼくにやるって。ぼくが遊んでいればいいさぁって。じぃちゃんのさけがあるもんだからね。うめとかないとぉうめられちまうってぇ、ぼくがなおしているんだよ 。」
まさひろ君のおじいさんを訪ねてみると、無精髭に痩せこけた御老人で、ゆがんだいかり肩をかばうように伏し目がちに茶碗を置くと、外の通りを眺めては髭をさすり、疲れた様子で小声で話した。
「室があるから、誰か、じゃまになったかと、なかなか面白いもんだけど、こないだ来た人かと。店をやるからとかなんとか話されたって、来るのは構わないが使えるものじゃないと、昔のもんだからしょうがないって、壊れちまえば、埋っちまうから。
足が痛くなきゃ、酒があるもんだからね。
好きな人には、今でもちょっと飲んでもらってるけど、危ないなんて言われたがね、壊れちまえば、埋っちまうから。
埋っちまうって。だいぶ古いが、まぁ良くしてやりたいもんだが、丈夫なもんだがね。
ここいら、皆知ってる者多いもんで、珍しくもないがねぇ。」
少し寂しそうに話す表情に、古手川さんはお辞儀をすると、再び室へ歩いて行った。
「長く使っていると、愛着が湧きますからね。流行である物に、ライバル心や不必要さの苛立ちで、無理矢理我慢してしまう謙虚さがあるわけ。
そのおかげで、何となく、落ち着いてしまう事ってある。」
「若いうちはきゃぴきゃぴ。
子供って子供。
自由を求めて、不自由な事をあえてしているのってなんというかぁ、単純に言うと、真面目さん。
やらないからって、それはその人。ジャンルによるでしょうけど。」
「そのこだわりに注目はされるよね。なかなか出来ない事だしね。」
「ただ・・・時代が変わっている事を、少し理解しないと、出来なくなった時に、物凄く残念で肩を落としてしまうでしょうね。燃え尽きたいってことでしょうか?バトンは渡したいのかなぁ。」
「先の事を心配し過ぎているとね、せっかく持続できてるのに、年代だけどんどん先回りして、耳年増もいいところ。
頭の中に記憶された情報が多くなると、なんだか年を取っているような気がする。
物知り博士が白髪なのはそのせい?」
「老けちゃう訳?脳は元気になるんじゃないの?」
「内容にもよるだろうけど、ある一定の量を超えて記憶し始めると身体が消耗するんですかねぇ。」
「まぁ、かなり老後のイメトレになるかも。」
「いやいや、自分が携わってる間は、変わらないのが前提だから、もう定番の秘伝のたれ。」
「持続というのは、自分の人生を、半分は捧げて、半分は自分で、合わせたら自分じゃないですか。」
「だから、継続出来なくなってきたら、その自分を否定されているような気持ち。潰されて無くなった・・・。その自分の一部分が潰れて失われた気持ちになっていると。」
「新しく創造する事に切り替えて、そこでまた自分になれたのなら、少しは気が晴れるだろうけど。」
「新たな火種を作って、メニューが増えてったら、真ん丸のこぶたが一匹。
いやいや、肥やしていくのも大変なんだからね!」
「そこから、発酵していく訳ですね。フフフ。」
「長期熟成。」
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