第17話 「分析と打開」

 ゴーレムとの戦闘開始から、数十分が経過していた。

 実際時計は見ていないから、1時間位経ってるかもしれない。


 状況は、依然として好転せず。

 何度か斬撃波で攻撃を試みるも、与えたダメージは即座に再生される。

 向こうも無抵抗な訳がなく、高速の突進、長いリーチを活かした薙ぎ払いや打撃等、意外にもバラエティに富んだ攻撃をしてくる。どれも一撃食らったらアウトな破壊力だ。


 そろそろ目からビームとか撃ってきそう。


『大分困っている様だな』


 見りゃ分かるでしょ!


『助言でもやろうか?』


 珍しくアドヴァイスに乗り気なアド。

 取り敢えず目からビームするかどうかだけ教えてくれる?


『しない』


 なら良かった。

 ……ちょっと残念な様な。


 ぶっちゃけ1から10までアドに教えてもらいたいんだけど、なけなしの理性とプライドがそれに歯止めをかける。

 アドにおんぶにだっこでは、もしもの時に自律思考ができなくなってしまうという懸念があるのだ。


 この程度の試練は恐らく今後幾度となく僕の身に降りかかるだろう。せめて最初のこれくらいは、できるだけ自分の手で対処したいのだ。


『志だけは立派なものだな。それで死んでも知らないからな』


 なんだかんだ言って心配してくれるアドさんマジ甲斐性の塊。


『お前一対二になってもいいのか』


 それだけは勘弁。


 ともかく、対処法を考えなければならない。

 度々来る攻撃を何とか躱しながら、これまでの戦闘からゴーレムについて分かることを探る必要がある。


 何らかの法則性とか、弱点のヒントとか。


 大ババ様が設定した試練、という事は、目に見える状況打開の道筋が用意されているはず。


 取り敢えず、これまで得た情報の整理から。


 ゴーレムには物理攻撃に対する耐性があり、僕の全力の飛び蹴りでもノーダメージ。

 恐らく対魔術加工が施されており、僕の半人前な魔術じゃ大した効果は無いだろう。


 斬撃でダメージを与えたとしても、生半可なものでは即座に再生モードに入り、一瞬でその傷は無かったものになる。

 再生に限度はあるのかは知らないが、今のところ底は見えない。


 そして攻撃性能についてだが。

 こちらが思っていた以上に厄介だった。


 まず機動性が高い。動きは直線的だが、およそその体からは想像もできない速度で移動する。


 そして、力は言わずもがな強い。

 打撃を一発でも食らえばアウトだ。具体的に言うと弾け飛ぶ。ッパーンって。もちろん僕の体がね?


 ここまで考えて、いや勝てんだろという何度目か分からない絶望が襲う。

 現に、ここまでダメージを与える事はできていない。ただ徒に体力を浪費しているだけだ。


 が、ここまでの戦闘で分かってきた事もある。


 まず、攻撃行為と回復行為の乖離についてだ。

 ゴーレムは攻撃中は目が赤いが、損傷を受け回復に移る際、目が緑になる。その間は移動する事もなく、ただ回復行為に努めるのみだ。


 その間は言ってしまえば隙ができる。

 が、その回復行為は数秒しか続かない。無闇に近付いてカウンターを食らったら元も子もない。


 次に気になった点だが、同時に2つ以上の動きができない、というのがある。


 例えば、移動しながらパンチをする事ができない、とか。

 突進だけで攻撃をしてくる場合もあるが、打撃で攻撃してくる時は高速で近付いてから「止まって」打撃モーションに移る。

 だから移動も直線的にしかならない。


 その為、動き自体は速いが対応しやすく、何とかこれまでダメージを負わずにいられている。



 さて、ここまでがこれまで分かってきたことだが。


 これらを踏まえて、ゴーレムを倒すプランを再構築する必要がある。


 まず、弱点があるのかどうかについて考えよう。

 これが大ババ様から与えられた試練である以上、一見無敵に思える再生にも何らかの弱点というか、釣り合いをとる為の別の切り口があったりするはずだ。


 ここまで僕が与えたダメージは全て斬撃波によるもの。それによって切り裂いたのは腕だったり足だったり腰だったり様々だが、どれも問題なく再生されてしまっている。


 つまり、一閃で切り裂くだけではダメージが与えられない、という事だろう。

 となると、再生できないまでに切り刻むか、これを破壊すれば再生出来ないコア的なのをを探り当てて一撃で破壊するか。


 より現実的なのは切り刻む方だ。それが本当に有効策なのかは置いといて。


 ただ、より現実的ってだけであって、それも相当に難しい選択肢だ。

 斬撃波を連続で放てる程練度は高くない。それにゴーレムも回避をしない訳では無いので連続で当てれる確証も無い。


 再生の隙もほんの数秒。何発も当てれる程猶予も無いし……。


『考え方が凝り固まり始めたな』


 アドが突然発した言葉に気をとられ、突撃するゴーレムの回避が遅れた。

 何とか紙一重で躱したが、流石に肝が冷えた。こうやって考えてる間にもずっとゴーレムの攻撃は続いているんです。


「え、なに!?」

『数秒の隙を作ることは出来る。有効と思われる攻撃策はバラバラに切り刻む事。ここまで来たら後はこの前と同じだろう。結論は出ている。過程はお前次第だ』


 結論は出ている。

 ……はーん。


 数秒の内に、バラバラに切り刻む攻撃をすれば良いと?

 別に連続で斬撃波を当てる事が必須なのでは無く、要は短い間にバラバラにすれば良い、と。


 ある、一つの策を思いついた。

 ただ、これも確実性は無い。

 必要なのは、僕のセンスと、集中力。


「さて、反撃といこうかぁ!」


 一度ゴーレムと距離をとり、意識を足先に集中させる。狙いは大雑把で良い。とにかく、ゴーレムを損傷させればそれで良い。


 ゴーレムが接近してくる前に、こちらから斬撃波を放つ。

 シュルル、という音を立てて発生した斬撃は地面を削りながらゴーレムに向かって一直線に進んでいき、ゴーレムの右肘あたりに命中した。


 肘から下が切り取られたゴーレムは目を緑にし、再生モードに移る。


 今、この瞬間。

 勝負の時だ。


 地面を蹴り、ゴーレムに向かって飛び出す。

 ゴーレムの突進に勝るとも劣らない突進の中で、僕の意識は変わらず足先にあった。

 既にゴーレムは再生を始めている。

 キメるなら、一瞬だ。


 斬撃波を発生させる為に取り付けた風の刃。

 その形状を、変化させる。

 というか、刃を増やす。


 1本だけでは足らない。

 2本でも心許ない。

 3本でも心細い。


 そう、何なら。

 5本くらいにしてしまおう。

 足先から扇状に5本の刃を展開し、できるだけ鋭さを保ったままゴーレムに突っ込む。


 ゴーレムは一度に並行動作ができない。

 だが、僕は違う。


 一度に斬撃波を沢山出せないなら。

 僕自身が沢山の刃となって、突っ込めば良い。


 既に再生は八割方終わっている。今、キメるしかない。


「うぉぉおおおおおらあああああ!!!!!」


 突進の速度のまま、ゴーレムに風の刃をぶち当てる。如何に対魔術加工が施されていても、刃物であることに変わりはない。勢いのままに風の刃は肉をいともたやすく切り裂いていき。

 ゴーレムの体は、キレイに横に6枚に切り裂かれた。


 それぞれの体が地に落ちた。

 ここまでやっても再生したらもうどうしようも無い。


『やったか……?』


 あ。

 そのセリフは。


「終わった……」


 が、僕が危惧している状況になる事は無かった。


 頭だけになったゴーレムの目から色が失われていく。

 その後、ゴーレムの切り身はピクリとも動かず、活動を停止した。


「……危ねぇ」


 禁句を言ったアドをジト目で見つめながら、安堵の息を吐く。


『な、何だ。私が何かしたか?』


 しでかしたことを理解できないアドは珍しく狼狽えていた。


 ……いやぁ、「やったか!?」でホントにやれるとは。貴重な体験。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る