第16話 「挑戦と誤算」
「準備は、いいな?」
村から外れ、森の中にわざわざ作られた円状の広場にて、その中心に立つ大ババ様は僕達にそう告げた。
大ババ様の傍らには起動を待った状態のゴーレムが2体鎮座している。
今日はとうとう、試練の日だった。
これまでの1週間、何とか戦略を固め、それを実行する為に修練を積んできた。
意外というか、ハルヤ本人たっての希望で、2人別々で修練を行ってきた。その為ハルヤがどんな策を練ってきたのかも知らないが、彼は彼なりに色々準備をしているだろう。
それよりも、今は自分の問題に集中しなければ。
「もう一度、試練の概要について説明してもらって良いですか?」
念の為の最終確認だ。実際は1人で2体相手にしなければならないとかだと死ぬ。
「お前達にはこれからこのゴーレムと戦ってもらう。それぞれ一対一で、戦闘手段は問わない。終了条件は、ゴーレムを機能停止まで追い込むか、お前達が降参するか、命を落とすか、だ」
命を落とすか。
その言葉は、僕達がギブアップしない限りはゴーレムの侵攻を止めない事を意味する。
死という概念が目の前に迫り、少しだけ体が震えた。
「やりましょう。俺達は、とっくに覚悟はできています」
ハルヤは力強い眼差しで大ババ様を見つめ、抑揚の無い声でそう言った。
……いやいや、勝手に僕の覚悟も完了させないで?
「ま、やるしかないんだけどね」
今更うだうだ言ってもしょうがないのは事実。
屈伸運動と軽くジャンプをして、戦闘準備を整える。
「良し。では、最初はエンドからだ。30秒後、ゴーレムを起動させる。勝負はそこからだ」
大ババ様はゴーレム達に詠唱を施し、片方を広場の外へ追いやると、本人も広場の端まで歩いていった。
「……死ぬなよ」
ハルヤはそれだけ言うと、僕に背を向けて端へと歩いていく。やけにカッコつけるじゃん。
けど、そんなキザなエールが僕の臆病な性根を少しだけ、勇気づけた。
もう、ゴーレムの起動までは20秒も無いだろう。それまで、僕は必死に魔力を足先に集中させる。
これまでの1週間、これだけを練習してきた。手応えも得てきた。
最後の本番で、失敗させる訳にはいかない……!!
永遠にも思える十数秒が経過する。
眼前10m先にいるゴーレムの目が、突如赤く光る。
それが、開戦の合図だった。
ギギギと軋む音を立てながら動き出すゴーレム。
どんな動きを見せるかは分からないが、何はともあれ。
「先手必勝だオルァァァァァアア!!!」
右足先に可能な限り鋭く風の刃を生成し、前方に向かって思いっきり足を振り払う。
一瞬の無音。
その後、シュルルと空間を裂く音が聞こえた。
この感覚は、成功だ。
見えない斬撃波が、斜めに線を形成し高速でゴーレムに襲いかかる。
地面を削る跡の速度が、斬撃波が如何に高速かを物語っていた。
ゴーレムは起動直後の為か、鋭い動きを見せることなく、回避能わず左肩を切り裂かれ、腕がボトリと地面に落ちた。
「っしゃあ!!」
喜びの余り思わず声が出る。
これまでの訓練の成果が存分に出す事ができたのもそうだが、ゴーレムにダメージを与える事ができたという事実が、僕の自信の裏付けとなる。
が、ここから予想外の出来事が起こる。
ゴーレムの目が青くなったかと思うと、切り裂かれた断面がボツボツと隆起し始める。
「……まさかぁ?」
そのまさかだった。
ほんの数秒で急速に肩口から突起が飛び出し、元通りの腕の形に再生が完了した。
「聞いてないよこんなの!!!?」
「だってワシ言ってないもん」
遠くで返答する大ババ様はやけにしたり顔だ。
敢えて言ってなかったなアンタ。
攻撃が通用するのは分かったが、再生するのは完全に予想外の事態だった。
どの程度なら再生するのか、それに限度はあるのか等を確かめるという余計なプロセスが増えてしまった。
理想は一撃で弱点を仕留めることだが、ぶっちゃけそれは厳しい。
まだ斬撃波の正確な照準合わせができないし、何なら成功率も6,7割位だ。
とか途方もない道のりに歯を噛んでいたのもつかの間。
ゴーレムの目が再び赤くなる。
それはおそらく、攻撃行動の始動を意味していた。
体を強ばらせ、前方に意識を集中させる。
ぶっちゃけあの図体だしそんな素早い動きはできないだろうが、一応念の為警戒は怠らない。
それが功を奏した。
バゴンッ!!! という地面を蹴る轟音が響いたかと思えば、一瞬で距離を詰めたゴーレムが眼前にまで迫ろうとしている。
「はやッ!?」
直線的な動きではあったが、その速度は相当なものだった。僕が放った斬撃波と張るレベルだ。
ほぼ目の前にまで迫ったゴーレムは、両手を組み、頭上に振りかぶっている。
これは、ヤバい。そう直感が告げる。
即座に横に飛び退く。やや加減を間違えて10mは飛び出してしまった。
次の瞬間、ゴーレムは振りかぶった拳を振り下ろす。
素手で地面を殴った音とは思えない程の轟音と共に、ゴーレムを中心として地面が割れる。
まるで僕が最初に脚力の加減を間違えたかの様な風景だ。
先日攻撃性の高さは見せられていたが、ここまでの威力は完全に想定外だ。
食らったら大怪我なんて次元じゃない。木っ端微塵だわこんなん。
「……どうすんの、これ」
アドは、相も変わらず僕の斜め後ろにいるが、ずっと沈黙を貫いている。
ふと、横目で見てみるとそこには腕組みをしたいつも通りの様子のアド……いや、違う。
眉を寄せて目を細め、険しい、とも言い難いような形容しがたい表情をしている。え、それどういう感情?
『……フン。なるほど、な』
どうやらアドヴァイスをくれる気は無いらしい。
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