第15話 「課題と再考」
と、言う訳で。
僕とアドは村周辺の森に来ていた。
生えている木は殆どが広葉樹で、背はあまり高くない。
木々の密度も晴天の日光を妨げる程高くは無く、温かな木漏れ日とそよ風が気持ち良い。
で、ここに来た目的は、というと。
『蹴る衝撃で鎌鼬の様な現象を起こす、という事か』
アドの確認に僕は自信満々に頷いた。
「その通り。事実として、思いっきり蹴った時は衝撃波や風が起きてたからね。上手く力を調整すれば、風の刃を飛ばせるかもしれない」
我ながら名案だと思った。
これなら近付く必要もなく、効果的な攻撃を繰り出せる。
ただ、問題が一つだけあった。
「さて、どう蹴れば良いのかな?」
深刻な問題だった。
そもそも蹴り方が分からない。
漠然と思いきり蹴るだけでは無闇に暴風と衝撃波を流すだけでゴーレムにダメージを与える事はできないだろう。
僕が求めるのは、鋭く、指向性を持った衝撃波だ。
『こればっかりは私も知らないな。完全にお前の感覚の問題だ』
アドもこれに関してはお手上げのようだ。
肝心なところで使えないなぁ全く。
『……』
とか思ってたらアドが手に闇のエネルギーを集中させてこちらに発射しようとしている。
ごめんなさい冗談です。
『全く……とにかくトライアンドエラーだろう、こういうのは』
まぁ、それしか無いよね。
という事で、取り敢えず練習してみることに。
眼前の適当な木に狙いを付け、感覚的にその木にだけ衝撃波を当てる感じで空中を高速で蹴る。
その結果、衝撃波の方向的には間違ってなかった。
が、全く一点に集中される事は無く、眼前の木々が漏れなくなぎ倒れるという事態に。
相手が集団の人間とかだったらこれでも良いが、あのゴーレム相手だと効果は薄いだろう。
「衝撃波の収束ってどうやるんだろう」
その後も何度か試してみるが、クリティカルな感覚を掴めない。
ただただ木々がミシミシと音を立ててへし折れたり倒れたりしてるだけだ
これじゃ花粉に親を殺された木を目の敵にしてる人みたいだぁ。
アドは僕の後ろでずっと腕組みをして僕の試行錯誤を無言で見ている。
何か、アドヴァイスはないんですか? アドヴァイスは。
『……少しは全部自分で考えろ』
くそぅ、頼みの綱がこんな有様だよ。
けど、とか言っときながら最後の最後には教えてくれんじゃないの?
『そう言われるのが非常にムカつくので今回の件に関しては絶対に助言しません』
おっと、やっちまった。
こういうのはトライアンドエラーだとさっきアドも言っていたが、あまり環境破壊の一助となってしまうのも気が引ける。
一度、無闇に練習するんじゃなくて、考え直してみよう。
アドが言っていたように、結論をまず設定して、過程を作り上げる。
多分、遠くから強力な斬撃を飛ばすという発想は間違ってないと思う。というか、その前提を崩すとまた一から考え直しだから、それだけは避けたい。
問題は、どうやって遠距離から斬撃を食らわせるか、だ。
単純に風の刃を魔術で飛ばすことはできる。
が、対魔術加工がなされているゴーレムには効果が薄いだろう。
かと言って、ただ蹴る風圧と衝撃波を斬撃に近いものまで指向性を付け、収束させるのは僕の体の加減ではどうにもならない気がする。
正確には、1週間という準備期間ではその技術は実用可能なものにまでならないだろう。
じゃあ、どうするか。
足がもっと鋭い形状になっていれば、蹴るだけで斬撃波を出せたかもしれないのに、現実はそうはいかない。
『……おいおい。そこまで来てまだ思い付かんのか』
アドが呆れ声で愚痴を漏らす。え、どういうこと?
『足をもっと鋭い形状にできれば、だと? すれば良いだろう』
いやいや、だからそれができれば苦労しないんだって……。
『何もメタモルフォーゼしろとは言っていない。結果として、足が剣の形状になれば良いのだろう? 簡単な話だ』
結果として、足が剣の形状になれば良い。
なんだか謎かけみたいだ。僕は頭が良くないんだから勘弁して欲しい。
……足先に剣でも取り付ける?
『それでも良いが、別に実物にする必要は無いだろう? 要は、鋭くて空間を裂けるモノを足に取り付ければ良い』
鋭くて、空間を裂けるモノ。
……そうか、相手がゴーレムだから勝手に選択肢から外していた。
風刃の魔術を、足先に固定すれば良いんだ。
『……フッ』
最適解を見つけ出した僕を見て、アドはドヤ顔ともとれる笑みを浮かべていた。
……結局全部教えてくれたね。ありがとう。
『……チッ』
舌打ちと共にそっぽを向くアド。
耳が少し赤くなっていた。
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