第14話 「対策と工夫」

 大ババ様の試練までは1週間ある。

 既にゴーレムは完成している為、村の警備はゴーレムが行う。その為、一日中ゴーレムの対策並びに訓練を行える訳だが。


「実際、どうしよう」


 今のところ、有効な対抗策が浮かばない。

 とりあえず、ゴーレムの情報を整理するとしよう。

 森の主の亡骸を材料に造られたというあのゴーレムは、その主よりも耐衝撃性能が大幅に強化され、打撃は全く効かないと言っても過言ではない。

 寧ろ、強く叩けば叩くほどめり込み、動きが制限されてしまうだろう。

 更に、基本的にゴーレムというのは対魔術加工がされており、生半可な魔術は通さない造りになっている。例に漏れず、大ババ様もそういった加工を施しているだろう。


 そして、攻撃性能も相当に高い。

 高速で射出された岩石に対し、無傷で対応したその反応速度と破壊力は今まで経験したことの無いレベルだ。


 打撃が効かないなら斬ればイイじゃない、とは言うものの、懐に潜り込めば攻撃する隙も無く反撃が飛んでくる。

 そもそも僕の剣術であのムニムニボディを切り裂けるとも限らない。


 要は、反撃を食らわないように懐に潜り込み、一撃で切り裂いて倒せば良い訳だ。


「無理だろ……」


 思わずポロリと出た本音。

 ハルヤが聞いたら怒るかもしれないが、今は自室だ。僕とアドしかいない。


「どうしたらいいと思う?」


 自分ではいくら考えても最善策が思いつかない。思わずアドに助けを求めると、彼女は呆れたように眉を歪め、深いため息一発。


『その程度のことで私に教えを乞うな……』


 えー。ケチー。


『私の価値が高いんだ。その位自分で考えろ』

「えーでもどうしようもなくない? ワンチャンスかけて懐に飛び込んでみるとかしかないよ」

『ならばそれでイイだろう。一撃を極めれば、それも有効策だ』


 何その、パンが無いなら食べなくても生命活動できるようになればいいじゃない的なの。

 身も蓋もなさ過ぎるでしょ。


『……しょうがない。一つだけチャンスをやろう。過程から考えるから上手くいかなくなる。結末から考えるんだ』


 ふむ、つまりどういうこと?


『困難に対して、今ある手札で策を講じるのではなく。最適解を先に導き出してから、それに見合う手札を作れということだ。簡単なことだろう?』


 なるほど、分からん。

 近づけばぶっ飛ばされ、遠くからでは有効な攻撃方法は無い。そんな状況から入れる最善策があるんですか?


『だから、自分から手札を狭めるな。要は、自分がどう対応したいかを考えれば良い』


 僕が、どうしたいか?

 極論言えばお家に帰りたい、なんて戯れ言を言うと怒られそうなので言わないでおく。


 あのゴーレムを、どう倒したいか。

 そんなの答えはシンプルだ。

 なるべく無傷で倒したい。つまりはなるべく近寄らず倒したい。

 ということは、遠くから有効な攻撃がしたい。

 そこから導き出させる答えは。


「……遠くから強力な斬撃を浴びせたい」


 そこまで辿り着くと、アドはニヤリと笑った。


『ほう? では、どうする?』


 どうする、と言われても、斬撃と言うのは剣から生じるもので、つまりは剣を伸ばすしかやりようはない。

 けど、流石にそれは現実味に欠ける。


『剣を伸ばす、というのも発想としては悪くない。ゴールを設定したんだ、そこからは今自分が持っている能力を工夫して手札を作らなければならない』


 今自分が持っている能力。

 それなりの剣の腕と、攻撃魔術。

 あと、強化された脚力。

 こんなもんだ。


 そこから新しい手札を用意する。遠距離から斬撃を食らわせられる新たな攻撃手段を。


 ……遠距離から斬撃?

 遠くから、斬撃。

 遠くへと、斬撃。


 何だかどこかで聞いたことがあるような。


「……飛ぶ斬撃って、知ってるか?」


 アドは、また愉快気に恍惚の笑みを浮かべていた。

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