第13話 「自己と思考」
少し遅めの昼食をハルヤとかき込み、満腹感と共にソファに座り込む。
ふかふかのソファに包まれ美味しい昼食で腹を満たされた多幸感とは裏腹に、僕はほんの少しの焦燥と、大きめの絶望感に襲われていた。
「……どうする?」
「どうするもこうするも、やるしかないだろう」
思ったよりもハルヤはそっけなく返答する。
「平気そうじゃん?」
「大ババ様に命じられたら、もうそれを実行するしかないからな」
これまでもそうだが、ハルヤは大ババ様に命じられたことには絶対に逆らわない。
本人にとって不服な命令であっても、結局は彼女に従ってしまっている。
「別に嫌なら断ればよくない? ハルヤは関係ないんだし」
こう言ってしまうのも薄情な気がするが、それでもこれは事実だし。ハルヤのことは好きだが僕の苦行に巻き込ませる必要もない。
「ダメだよ。俺にとって大ババ様は絶対なんだ」
「絶対って、どういう意味?」
頑なに大ババ様を至上とするハルヤの姿勢が気にかかり、少し声を荒げてしまう。
実は付き合ってるとかは無しだぞ。
「……俺には両親がいない。正確には、物心ついた時には大ババ様と一緒に暮らしていた」
回想入る?
「大ババ様が言うには、俺は雨の降る夜、生まれたままの姿で村の入り口に捨てられていたらしい。村の住民の誰に聞いても知らぬ存ぜぬで、仕方なく大ババ様は俺を引き取り育てることにした」
ハルヤから以前聞いた話だと、この村以外に周辺に集落は無い、ということだったから、犯人はこの村にいる!! 状態なんだけどそれはどうなの?
「大ババ様は俺を育てることと引き換えに、俺に呪いと言っても良い、言いつけを授けた。それは、大ババ様の言う事には、絶対に従うこと」
「呪いって……実際にそういう術とか掛けられたの?」
「いや、掛けられてないさ。だが、本来ならば別の子である俺を育ててもらった恩義が、俺を縛り上げる。それに、大ババ様はこうも言った。『私の言うことに従っていれば、お前は幸せに生きることができる』、と」
あー、確かにハルヤは義理堅いというか、律儀な性格だもんなぁ。
「けど、流石にこれは話が別じゃない? あんなん一歩間違えたら死ぬかもしれないんだし。……ていうか、僕ら、もう18歳だぜ? そろそろ独り立ちしてもいいんじゃないの? 流石にやりたいことの一つや二つ、あるんじゃないの?」
流石にこの歳になってグラマザコンは、ちょっとねぇ。
「やりたいこと、ね。俺は一生この村で平和に暮らす事が一番の幸せだと思っているし、何より今も何不自由なく生活できている」
「いやそれは違くね?」
「……何だと?」
思わず出た否定に、ハルヤは険しい顔で僕を睨みつける。
「それは今が一番幸せなんじゃなくて、単に考える事を放棄してるだけでしょ? 大ババ様の言う事だけに従ってれば取り敢えず安牌、みたいな固定観念に囚われてるんじゃないの? まだ1か月しか一緒にいないからまだ分からない事もあるけど、ハルヤって別に安定志向な人間でも無いじゃん」
負けず嫌いなところも、創作料理が好きなところも、ハルヤは安定だけを求める人間ではないように思える。
……まぁ、僕も別にやりたい事とか無いけど。魔王討伐はやらされてることだし。
強いて言うなら静かに暮らしたい。
「考える事の、放棄……」
「いや、本当は考えた上でそういう決断を下してるんだったら、僕は何も言えないし、それを否定する権利も無い。ただ、僕は断固たる自分の意志無しに危険な事をして、それで命を落としたりでもしたら可哀そうだなって思っただけ。もしやりたくないんなら僕も大ババ様に直訴するし」
やらされた事なんですー、つって、死んだ後に言い訳できれば良いんだけど、できないし。
結局自分の命は自分で責任持たなきゃ、報われないでしょ、自分が。
ハルヤは、目の上まで伸びた赤い髪を指でつまみながら、うつむきじっと黙り込んでいた。
憂いている横顔を見ると、ハルヤってイケメンだなって改めて思った。
女子みたいな長いまつ毛に、高くスラっとした鼻、鋭くも大きく開かれた瞳。
ぶっちゃけ村で一番のイケメンなんじゃないかと思う。
というか、こういう系統の顔がまずいない。
とか思ってたら、ハルヤはいつの間にか顔を上げ、こちらをまっすぐと見据えていた。
「やっぱり、俺はやる。ゴーレムを、絶対に倒してみせる」
ハルヤの目には決意が見られた。確実に、自分の意志であることが感じられた。
こんな目をされたら、こちらとしても止める理由がない。
「そっか。じゃあ戦略でも練る?」
「いや、それは1人でやる。俺とお前では戦力的にもタイプ的にも違いすぎるからな」
そっけない返事を返されてしまった。
……さて、僕は僕で、考えなきゃいけない事がある。
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