第11話 「才能と成長」
「……やめろ、やめろ……パンにライスを挟むな、そんな炭水化物のバケモノみたいな食い物を食わせるな……やめろ、やめろ……よく見たらプレートの底にパスタが敷いてあるじゃないか……ああぁぁぁぁぁ!!!!???」
ドガァッ!!!
「……最悪な夢を見ていた気がする」
ボサボサの頭を掻き、カーテンから漏れる微かな光に目を細める。どうやら今日は晴天な様だ。
ベッドから落下し、打撲したケツを撫でながら、鈍鈍と立ち上がりカーテンを開く。
一気に光量が増した日光は部屋を明るく照らし、机に座っていたアドは顔をしかめた。貴女日光嫌いですよね。吸血鬼か。
「……今日で1ヶ月か」
そう、僕がこの村に滞在してから、1ヶ月が経過していた。
◇◇◇◇◇
「いただきまーす」
「……いただきます」
目の前に出された朝食は、ベーコンエッグにトースト。良かった、ライスサンドイッチ、パスタも添えてなくて。
「いやぁ、相変わらず料理が上手いねー!! 流石!」
「黙って食え」
僕と対面してトーストを頬張っているのはハルヤ・ツヴァイル。僕に衣食住を提供してくれる、凄い良い人だ。
「ハルヤ、今日、午前は僕が見回りだっけ?」
「そうだな」
出会った時は君付けだったが、流石に1ヶ月も経てばお互い慣れて呼び捨てだ。ハルヤも漸く最近名前で読んでくれるようになった。
「ご馳走様ー」
食器を流しに持っていき、一足先に外出の準備をする。
ハルヤは食べるのが結構遅い。めっちゃ咀嚼してるからだと思うけど、くちゃくちゃ音はしないから品が良い。そういうとこ好きよ。
「先出てるわー」
「……ん」
季節は春。暦の上では4月。
天気は晴天だが、風も心地よく体感温度は高過ぎなくて非常に良い。
「お、エンド君! 今日は君が見回りかい?」
「おはようございますー。今日は僕でーす」
挨拶をしてくれたのは、ハルヤ宅の近くに住むサンドラさんだ。恐らく畑に仕事に行く途中だろう。
ほぼ毎日村の内外を見回りしている為、最早村の住民全員と知り合いになった。
僕は引きこもっていたが、コミュ力は実はある、ハイブリッドニートなのだ。えっへん。
『ここに住むわけでも無いのに、随分と親しく挨拶するものだな』
嫌味を言うのが日課のアドは、律儀に僕のあとを付いてくる。
ちなみに本体の本は部屋に置いてってる。アレを持ち運ぶには少し重い。あと魔導書みたいであんなん小脇に挟んでたらやべぇ奴みたいじゃん?
「愛想悪くする理由も無いしね」
『やはりお前は変わってるな』
アドはよく僕に変わってると言う。
嘆きにも似たそのセリフは、何故か僕にとって耳障りの良いもので、言われる度に少し嬉しくなる。
大ババ様と呼ばれる村の長が張っていたという結界が無い現在は、意外に村の近辺に魔物が出没するので、結構仕事は多い。
と言っても、出てくる魔物は大抵下級なので、苦戦する事もなく、そして修行にもならない。
そんな訳で。
「ハルヤー! 剣の修行しようぜー!」
「……ああ」
見回りから帰ってきて、昼食までの間、いつもハルヤと剣の修行をする。
最初は剣の持ち方からさっぱりだったが、今ではすっかり慣れた。
「フォイ!!」
「っつぁっ!?」
僕の渾身の1振りがハルヤの剣を弾き飛ばす。
……どうやら本当に僕はポテンシャルがあったらしい。
この1ヶ月で、僕はハルヤの剣の腕を上回ってしまった。
「クソっ……」
でも、ハルヤもこの1ヶ月で前とは比べ物にならないくらい強くなった。
多分これまで競争相手がいなかっただけで、ハルヤもセンス自体はかなりのものだろう。
「もう1回やろう」
そう言ったのはハルヤ。
最初は僕の方がやる気があったが、今ではハルヤの方が競争心を燃やしている。
「勝った方が昼食にオプションを付けられるってのは?」
「イイだろう」
「よっしゃやろう」
僕の方が上回った、と言っても、まだほぼ互角だ。
6:4で僕が勝ち越すくらいで、まだまだ油断はできない。
なので、こういう大事な時に限って。
「負けた……」
「っし」
剣戟に意識を集中していたところに足払いをくらい、尻餅をついたところに切っ先を首先に当てられた。完敗だわ。
「さて、そろそろ昼時だ。飯にするぞ」
最後に勝ってしたり顔のハルヤは、剣を鞘に収めている。くそ、勝って終わるつもりか。
確かに結構お腹もすいてるし、これくらいでイイか、と腰を上げる。
と、その時僕らに向かって走ってくる人影が。
「ハルヤくーん!! エンドくーん!!」
走ってきたのは大ババ様の家事手伝いのシジリさん。
30代で独身の現代が生んだ闇である。
「どうしたんです?」
「ハァ、ハァ……。大ババ様が2人を急いで呼んでこいって言われてね。悪いけど、大ババ様の所へ行ってくれるかい?」
大ババ様に呼ばれる事なんて滅多にない。
ハルヤも違和感を感じている様で少し顔をしかめていた。
……少し嫌な予感がするなぁ。
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