Interlude

「……とうとう、送ったのね?」


 狭い石室に書かれた魔法陣をぼうっと眺めていると、背後から声を掛けられた。

 振り向く必要も無い。この声を、別の誰かと間違えるなんてありえない事だ。


「あぁ……」


 返事をするも、思ったより声が出ない。何故か乾いていた喉に違和感を抱き、唾を飲んだ。


「何よ、折角の子の門出なのに随分とナーバスじゃない」


 コツコツ、と石と靴がぶつかる音と共に、背後の気配も移動する。歩く度に揺れる白髪は膝裏まで届き、黒いドレスとのコントラストが眩しい。

 やがて魔法陣の中心に立ち、向かい合った彼女の青い瞳は、一点の淀みも無く、私を真っ直ぐと見つめていた。


「……私のやったことは、正しかったのだろうか」


 ふと、漏れてしまった本音

 いつも、彼女を前にしてしまうと、自分の弱い部分が出てしまう。

 彼女は、そんな私を見て、ただ、優しく微笑んでいた。


「バカね。正しいかどうかはあの子が決める事じゃない。私達はただ、あの子の行く末を見守るしか、無いのよ」


 彼女は、いつも強かだ。私が迷っている時に限って、私の背中を強く押してくれる。


「私は、弱いな。魔王失格だ」

「別にいいんじゃない? 私が好きになったのは、魔王としての強いあなたじゃなくて、強くて弱い、私が支えたくなるあなたを好きになったんだから」


 そう言いながら、彼女は私の背中に腕を回し、背伸びをして私の頭を撫でる。

 私も、そんな彼女を好きになったのだ。


 私も彼女を強く抱き締める。私の持つ愛情を全て、そのか細い体に注ぎ込むように。


「……2人目を作るか」

「この雰囲気でそういう事言う?」

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