第9話 「取り憑かれた」

「え、あの、誰ですか?」


 突如父からのアドバイス本から出現したのは、妖艶な美魔女だった。あまりに唐突過ぎて思考が追いつかない。


「私か? 私の名前は既に聞いているだろう?」


 いや知らん。


「私の名はアド・ヴァイスだ」

「は?」


 思わず呆けた声を出してしまう。いやでもこれは仕方なく無い?


「すいませんあの、もう一度お願いできます?」

「アド・ヴァイス」


 2回も聞いたからもはや聞き間違いは通用しない。

 この人の名前は、間違いなく、アド・ヴァイスだ。

 父がやけに発音をケアしていた理由が今になって分かった。まさかアドバイス本という事じゃなくて本当にアド・ヴァイスという方が入っているなんて。先に言えや。


 が、依然、この状況は理解の範疇を超えている。

 まず、このアド・ヴァイスという方は何者なのか。

 そして何故この主の背中に乗ってたのか。

 あとこの奇怪な周辺状況と関連はあるのか。


「私が何者なのか、そして何故此処に私がいたのか、あとこの状況と関連性はあるのか。そんなことを疑問に思っている顔をしているな?」


 めっちゃピンポイントに当ててきますやん。いや、聞く手間が省けてイイんだけど。


「まぁ、こういうのは手っ取り早い方が良かろう? こういう事に尺を取るのは良くないからな?」


 そうそう話の進行についての心得が良くわかってるじゃないかってちょ待てよ。


「もしかして、心読んでる?」

「それはそうだ。私とお前は既に契約関係にあったのだから」

「えっいつから? あと契約関係ってどういうこと?」


 いつの間に心を読まれるブラック企業と契約してたんだ? 訴えるぞ?


「その辺りも含めて簡潔に端的に説明してやろう」


 と、言う訳で説明してもらいました。

 まずこの人は悪魔の類で、昔色々悪さをしてたけど、父に懲らしめられて本に封印されてたらしい。

 彼女の権能は叡智、つまりめっちゃ物知り。人間魔族関係なく、寿命と引き換えに知りたいことを教えるという契約関係を持ちかけ、寿命を荒稼ぎしてたらしい。

 だからこんなに若作りなんですね。実年齢何歳か知らないけど。


「3000飛んで8歳だ」


 だそうです。勝手に心を読んでくれましたねありがとうございます。


 いつ契約したかに関しては、僕がこの本を手にした時点で契約完了らしい。そんなんお前のさじ加減やんけ。


 で、この状況との関連性について。

 僕がこの場所に置いてっちゃったばかりに、簡単に言えば封印を解くための魔力を得るために主から魔力を吸い取ってたんだって。


「実際はもっと遠くに飛んでったんだがな。それを追いかけて背中に張り付いて魔力を吸収してやったわ」


 封印されてる状態でも全然動き回れてるじゃねぇか。


 それで、魔力を吸収しきってシワシワになったコレを連れて、スタート地点まで戻ってきた、と。


「……わざわざ見つけやすいように戻ってくるとか、意外と甲斐性あるんですね」

「契約者に見つけてもらわんと困るだろう、常識的に考えて」


 割と早口でまくし立てられた。照れ隠しかな?


「殺すぞ?」


 おっと読まれてた。


「ていうか、こういうのも教えて貰ったら寿命持ってかれるんです?」


 こんなんで持ってかれたらおちおち世間話もできない。


「流石にこんなもので寿命を貰うほど守銭奴では無いのでな。もっとお前にとって重要な時に、何がなんでも知りたい事を、教えてやるのさ。大きな寿命と、引き換えにな」

「なるほど、つまりめっちゃ性格悪い人って事ですね」

「なんとでも言えばいいさ。私とお前は、既に離れられない関係にあるのだからな。どちらかが、死ぬまで」


 いやん、そういうと何かエッチな関係みたいですね。


「殺すぞ」


 それ口癖なの?


 要は父に厄介事を押し付けられただけなんだろうが、これはこれでいつか役に立ちそうなので彼女についてはとりおくとして。


「この状況をどうやって納得させよう……」


 僕の悪魔が魔力を食いもんにしてました☆なんて言ったらそれこそ魔女狩りに遭う勢いで追い立てられそう。


「私が洗脳させても良いが?」


 アドさんからの魅惑的なお誘い。倫理観的にどうなの? という内なる自分が突っ込んでくる。


「それオプション料かかる?」

「いや? 単なる厚意だよ。これから長い付き合いになるしなぁ?」


 やっぱり彼女は甲斐性高いですね。今流行りのツンデレというやつだろうか。


「デレて無いだろ殺すぞ」


 おっと殺される殺される。


「じゃあ取り敢えずこの下にいるハルヤ君に特に問題なく主は死んでいたって感じで洗脳してもらって、僕がこの主をもっと遠くに蹴り飛ばすから」

「了解した。たった1人なら楽な作業だ。あぁ、あと本は忘れるなよ。私の本体はそれなんだからな」


 流石に同じ轍を踏む程マヌケではない。しっかりと本を手に持ち、主から飛び降りた。


 ハルヤ君を見るとなんだか呆けた表情で突っ立っている。今洗脳中だろうか。


 これで僕は心置き無くコイツを蹴り飛ばせるんだけど……。


「いやぁ、やっぱりキモいわぁ」


 なるべく視界に入れない様に、目を逸らしながら思いっきり蹴り飛ばす。


 ……今度こそ遥か彼方まで飛び去って言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る