第6話 「主に襲われた」
前方で腰を抜かし、僕の事を悪魔だとのたまう若い男は、その体勢と目こそ怯えているものの、その場を動こうとはしない。
「あ、あの、怪しい者では」
「ひぃやぁぁ!? 喋ったァァァ!?」
自分で言っといてこのなりで怪しくないは無いよね。
イヤでも、ホントに怪しくないなりよ。
「お、俺が村を守らなきゃ……!!」
そう言うと、男は震える足を殴りながら立ち上がり、剣を抜いた。
まず、この時点で分かった事が2つ。
1つは近くに村があるという事。これは朗報。
そしてもう1つは、盛大に勘違いされて敵視されているという事。悲報。
コチラとしては敵対する理由も無いため、両手を上げて弁明する。
「いやいやいや、落ち着いて! 僕は悪魔でも何でもないし、村に何をしようって訳でもないから!」
「そんな格好でこの状況で言っても説得力あるかぁ!! 良くて露出魔だよ!! 最悪だよ!!!」
くそっ、正論すぎて何も言えねぇ!!! 何で服着せなかったあの野郎!!
前回とは本当にうってかわってハードモードだな、ここまで違うとチュートリアルの意味無いでしょ。
「俺だって、村で1番の剣の使い手だ……! ただで済むと思うなよ!!」
ロングソードを構え、今にも斬りかかりそうな様子を見ると、どうやら話を聞いてくれる余裕は無さそうだ。
……さて、どうするか。
仮に撃退しようものなら簡単だろうけど、加減できる保証は無い。
しかも、敵対する理由自体こちらには無いし、折角見つけた集落と敵対する事だけは避けたい。
となると、どうにか説得して和解しなきゃいけない訳だけど。
「うおおおおお!!」
うわもう斬りかかってきた。厳しい。
村1番の剣の使い手らしいけど僕から言わせれば大した事は無い。普段魔王軍の猛者ばかり見てきたからだろう。
まぁ僕は剣とか握ったの10年前とかだけど。
特に脚に余計な力を入れる事無く、スイスイと斬撃を躱していく。
けど、この男の剣の勢いは結構強い。普通に当たったら死ぬんだけど。ちょっとは手加減してくれないだろうか。
このまま相手が疲れるまで踊ってるしか無いかなーとか思ってたら、足元から違和感を感じた。
いや、むにゅ、とかでは無い。
地面が揺れている。
それも、一定のリズムに合わせて地響きが起きている。
まるで、巨大な何かが歩みを進めるように。
そんな異変を男も感じ取った様で、攻撃を一時中断した。
「な、なんだ……!? ま、まさか……!?」
まさか、って何? 心当たりあるの?
どんどん大きくなっていく地響きと共に、男は狼狽を強めていく。めっちゃ焦ってるんだけど。僕を見つけた時よりも焦ってる。
「な、なんで村にまで……!? 結界が張られているはずなの……ハッ!? まさかさっきの衝撃で!?」
……もしかして僕、やらかした?
「あの、一体何が来ると言うんです?」
聞いてみると、男は口を震わせながら、掠れた声を出す。
「……主だ。この森の主が来る……!!! ていうか来たッ!!!!!!」
男は僕の後方を指差し叫ぶ。
振り返る。見る。
そこにはバケモノと言って差し支えない異形があった。
簡単に説明すると、数十m大のヒルに手足が生えて四足歩行ででっかい口がついてる。歯がぎっしり生えてる。
「……キモぉッ!?」
一応説明させてもらうと。
僕はこういう気持ち悪い生き物が生理的に無理であって。
先程みたいな反射的な拒否反応を示してしまうんだけど。
「キモいんじゃオルァァァァ!!!」
今回もその例に漏れず、気づいた時には森の主に向かって飛び蹴りを食らわしていた。
「ピギョオオォォォァァァ……」
流石にサイズがサイズだから爆発四散はしなかったが、遥か彼方まで吹っ飛んでいった。外見にぴったりの気持ち悪い呻き声を添えて。
「す、すげぇ……」
後ろで男が感嘆の声を漏らす。
いいぞ、もっと僕を褒めろ。
「あー、どうやら僕が村の結界? とやらを間違って壊してしまったらしい。どうもすいませんでした。代わりと言っては何だが、主を退治した、ということで許してはくれないだろうか?」
「……あんた、一体何者だよ」
お、ようやく対話してくれる様になった。
「……僕はエンド・ファイザー。決して悪魔なんかじゃない。魔王を殺す存在だ」
高らかに宣言してしまった。
これで後には引けなくなったよ。
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