第5話 「悪魔扱いされた」


 ハッとして気がつくと僕は全裸で森に倒れていた。


 ……あの大臣ぶっころがす。


 前回との相違点は初っ端魔物に囲まれていないところ。父さんが言っていた通り、流石に現実世界に介入はできないみたいだ。


 前回と同じ地形である保証は無いし、もしかしたら世界一広い樹海のど真ん中かもしれない。

 が、ジャンプして加減を間違えてフォレストクラッシャーになるのだけは避けたい。


 取り敢えず何か現地点の手がかりになるものは無いか辺りを見回してみると、1つ気になる物が。


 僕の真後ろに石碑が立っていた。

 大分年季が入っているようで、ところどころヒビが入り、苔がむしている。


 何やら文字が書いてある。僕にも読めるあたり現代語だ。


「シュウ・イツゴ ここに眠る……?」


 つまり、誰かの墓、ということか?

 シュウ・イツゴ……どこかで聞いた気が……。

 まぁしないんだけど。


 他に変わった物も無く、オーソドックスな森という印象しかない。


 今僕に残された選択肢は4つある。


 1つ。

 取り敢えず歩き回る。

 2つ。

 木に登って森の全貌を測る。

 3つ。

 自然破壊覚悟でジャンプ。

 4つ。

 誰か来るまでここで待つ。


 まず裸で木登りとか傍から見たらやべぇ奴だし絶対痛いし却下。


 歩くのもなぁ……。無駄に疲れそうな気がする。


 となると3つ目か4つ目。


 けど、後ろのお墓がジャンプするのを憚らせる。

 誰かにとって大切な人のお墓だったりしたら、壊す訳にはいかないし……。


 しょうがないので、取り敢えずここで待機することにした。

 誰かがこの人のお参りに来るかもしれないしね!



 ◇◇◇◇◇



 5時間が経った。

 誰も来ない。

 空が赤くなっていく。カラスが鳴いている。

 つまりそろそろ日が沈む。


 ……流石に森の中で全裸で夜1人で過ごすのはまずくない?

 倫理的にも、論理的にも、心情的にもそして衛生的にもぉ!!!


 てか森の中スタートって可笑しく無い? 普通村の入口とかベッドの上とかでしょ? 何でこんなにハードモードでスタートしてるの?


 とか愚痴を垂れてるあいだにも斜陽は美しくその輝きを彼方へと移ろわせる。


 ここをキャンプ地とすることもワンチャンス考えたが、お墓の目の前でキャンプとか不謹慎以外の何物でもない。


 ……仕方ない、歩くか。

 どうにもならなくなったら黄金の脚技を使ったらァ。


 というわけで、探索開始。

 どこに進めばいいかも分からないので適当に歩き回る。


 そして30分ほど歩き続けた。

 状況変化無し。

 強いて言うなら日が沈んで完全な夜が訪れた。ヤベぇ。


 取り敢えず視界を確保するため指先に火の玉を灯す。

 今ではヒキニートだが、昔はしっかり教育を受けていたのだ。だからある程度の魔術とかは使える。


 ……しかし、これは本当にどうしたものやら。


 歩いても歩いても現状が好転している実感はまるで無し。

 徒に体力を消費しているだけなのではないかと、些か不安になる。


 これは森達に犠牲になってもらうしか無いのだろうか。


 と、大ジャンプをかまそうか悩んでいた矢先の事だ。


 足先の感触に変化が。


 モニュ。


 ……モニュ?


 火球を下にやり、足元を照らす。


 そこには。


 50cm程の、ヒル型の魔物が。


 一瞬の硬直。

 からの〜……。


「いやあああああああああああァァァァ!!!??」


 思わずその場で大ジャンプ。

 倒れる木々、割れる地面、飛び散るヒル。

 そして雲を突き抜ける僕。


 飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで飛んで落ちるうぅぅぅぅぅぅうううう……。


 身体硬化魔術!!


 めり込む。そして更に深く地面がえぐれる。


 ……こうして、みんな大好きクレーターが誕生してしまった。


「やってしまった……」


 広大な緑の地に1つ作られた荒れ地の中心で、僕はまた犯した過ちに項垂れた。

 前回よりも被害はそれほど大きくは無かったが、無闇矢鱈に自然を破壊してしまったショックの大きさが僕を苛むのだ。


 だが、ここで立ち止まっている暇がある訳でもない。


 1度、大きく深呼吸をし、気を取り直して再び歩みを再開する。


 すると、前回と同じように、前方の視界に変化が生じた。

 木々の向こう側から、明かりのようなものが漏れ出している。恐らく、松明のようなものだろう。


 やった。ようやく人が来た、と、喜んでいた僕は今致命的なミスを犯していることに気付かなかった。


 そしてクレーターに姿を見せたのは、1人の若い男。軽武装をしており、腰には剣を差していた。


 こちらも火の玉で周りを明るくしていたため、直ぐに僕の姿を見つけたのだろう。


 男と僕の目が合った。

 腰を抜かす男。

 どうしたどうしたと狼狽える僕。

 男は一言。


「あ、悪魔だァァァァァ!??」


 ……そうか。


 こんな夜中に突如出現したクレーターの中心に、全裸の男が指先から炎を出しながら佇んでたら。


「悪魔だわ……」

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