第4話 「やり直させられた」
賊を草木諸共一掃した僕の周りにまた村人が群がってくる。
ぶっちゃけ、ここまでの流れが全て父さんが用意したものであること位もう分かっている。
そう、まるでチュートリアルみたいだ。
終わったからガチャ引かせてくれ。
「もう気付いてるんだよ、こっちは」
囃し立てる周りを完全無視し、恐らく聞いているであろう父さんに向かって言葉を投げつける。
「こんなにお膳立てしないと僕が動かないとでも思ってるのか?」
……ぶっちゃけ、否定はしきれないけど。
「僕だって、腐っても魔王の倅だ。下らない茶番は、止めてくれ」
すると、一瞬、笑い声が聞こえた気がした。
◇◇◇◇◇
ハッとして気がつくとそこには無機質な石の天井が広がっていた。
「知らない天井だ……」
「何言ってるんだこのバカ息子は」
実は知ってる天井です。
そう、ここは転生させられる直前にぶち込まれた儀式用の部屋だった。
そして、僕に暴言を吐いたごりマッチョで仰々しい鎧を身につけたいかにも魔王って感じの人が、そう、実は魔王なのだ。
つまり僕の父ね。
「何のチュートリアルだよ、全く」
「お前自身の潜在能力を理解させる為だ。コレで良くわかっただろう、どれだけの力がお前の中に秘められているか」
確かに、想像以上の脚力だった。加減しないと僕自身が第2の魔王として討伐されそう。
……いや、そっちの方が本望なのか?
「お前がそのポテンシャルを使いこなし、魔王城にたどり着いた時こそ、この私を超える時であり、お前が魔王となる時だ」
仰々しいオッサンが仰々しいこと言ってるから思わず肩がすくんでしまう。
けど、僕は父の言う事に納得できない。
「何回も言うけどなんで僕なのさ? 弟達の方が既に実戦にも出てて何倍も優秀だし、そもそも僕がポテンシャルを発揮したとして父さんに勝てるとは到底思えないし」
ちなみに僕の父はマジで強い。
転生状態で蹴りかかっても多分鼻息だけで相殺されそうなイメージすら浮かぶ。
「確かに、お前は言うてもそこまで強くはならん」
「は?」
なんなのこの人。更年期障害か?
「だが、この役目はお前にしかできないことだ。単に強さどうこうではない、普通の魔族には持たないものを持っているお前にしか務まらない大役なのだ」
なんなの僕にしか持たない物って。美少女フィギュアか?
何はともあれ、こうなった父さんはもう融通がきかない。
どうやら、僕が転生させられることは決定事項みたいだ。
「……分かったよ。けど、服くらい着せろコルァ!! お前に言ってんだぞ魔術担当大臣!!!」
実はこの部屋にもう1人いた魔術担当大臣に激を投げつける。
「さーせん」
舐めてやがる……ッ。
「あと、変な介入はしないでよ」
「分かっている。したくても出来んさ。さっきのはあくまでお前の意識だけの世界だったからな。流石に現実世界に介入は不可能だ」
それはそうか。そんなん出来たら今頃世界統一してるだろうし。
「だが、これから旅立つ息子に1つの手向けくらいは許せ」
と、父は僕に1冊の本を手渡した。結構分厚い。
「お前が今後人間界で危機に瀕した時、または指針を見失った時、または暇な時にでもこれを読むと良い。お前宛てに様々なアドヴァイスが書いてある」
アドヴァイスて。発音ケアしすぎでは。
貰えるものはもらっておいた方が良いし、有難く頂戴する。
「では、今度こそ転生の術式を稼働する。……お前が私を殺してくれる日を、そしてその先の未来を、心待ちにしているぞ」
それが、父との別れの言葉だった。
眠りのような、気絶のような。
意識が深く、深く、底の無い穴へと沈みこんでいく……。
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