第3話
そんな事があった翌日。
「んー! よく寝ました!」
あたしはセブンスヘル一面の『洞窟神殿』(あの後にダイチさん……いえ、師匠から名称をお聞きました)で目を覚ましました。
帰らないのは勝手だがせめて大人しく寝て休めというので、神殿の隅の方で寝かせて貰っていたのですが、
「……おや?」
あたしは確か堅い地面の上で寝ていたはずですが、いつの間にか全然違う場所の干し草の上で寝ています。
「はて、寝相が悪くてここまで来たのでしょうか……はっ!」
違う!
ここは恐らく師匠の寝床、あたしが地面の上で寝始めたので寝やすいここまで運んでくれたんですね!
「くぅ~! その優しさと見せない気遣い、あたし感動します!」
あたしは急いで身支度をして師匠の元に向かいました。
少し迷いましたが、昨日パーティーの人たちに付いて行きながらでもたどり着いた神殿の最奥の部屋に再び入ると、そこには威風堂々と冒険者を待ち構えている師匠がいました。
「おはようございます!」
「……おはよう」
「よく眠れました!」
「……聞く手間が省けて助かる」
「いえいえ!」
なんと、あたしの体調を気にしていただなんて!
ぶっきらぼうですが、本当にいい方のようです!
「それで、師匠!」
「違うが、なんだ」
「いくつかお聞きしてもよろしいでしょうか!」
「……面倒だが、言ってみろ」
おお!
面倒がりながらも、ちゃんと疑問に答えようとしてくれます!
やはりいい人です! 魔物ですけど!
「ここってセブンスヘルってダンジョンなんですよね?」
「そうだ」
「つまり、七面しかないんですか?」
名前を聞いた時にそうなのかなと思って一緒に来た冒険者の方々に聞いたのですが、なんだか笑われて教えてくれなかったんですよね!
「そうだ」
しかし、師匠は違います。
元からにしても笑いもせず、ちゃんと私の疑問に答えてくれました。
「あたしはまだ駆け出しなのでよく分からないんですが、ダンジョンってそんなものなのですか?」
「……俺も詳しくはないが、少ない方だと思うぞ」
やはり!
だって七面しかないって、少なすぎです!
お父さんが入ったというダンジョンも何十面かあるみたいでしたし。
「だが、数があればいいというものでもない」
師匠はそう言うと、自分がいる一面の神殿の天井を見上げました。
「面がいくつだろうが、ダンジョンからすれば一つとて掛けがえのない領地であり、そこに住む者からすれば唯一無二の場所だ」
「……おおー」
確かに。
あたしが住んでいたのも小さな村でしたが、どんなに小さくともあたしにとっては大事な場所です!
「失礼しました! 面の数など関係ないのですね!」
「……まあ、そうだ」
「で、次なのですが!」
「まだあるのか」
まだまだあります!
「何故、武器を使わないんですか?」
師匠はあたしを除いても三十数人を一挙に相手取っていましたが、武器らしきものは持たずに拳だけで戦っていました。
とりあえずで剣を持っているような素人の考えですが、武器を使えばもっと強いのでは?
「たまに武器を持ってくる奴はいるが、俺は素手の方が得意だからな」
「それで勝て……てますね」
それなら文句はない、のかな?
「あたしも武器を使わずに戦うようにした方がいいのですかね?」
「……それぞれに得手不得手というものがある。俺の場合は武器を使うよりも素手でやった方がいいというだけだ」
むむ、確かに。
無暗に自分と同じにしろとは言わずに自分に合うようにしろというなんて、あたしのことを考えてくれてます!
「では次に!」
「待て」
師匠は手のひらをこちらに向けて何か待ったをかけました。
「はい、なんでしょう!」
「仕事だ」
師匠がそう言うと、部屋の入口に十数人のパーティーが入って来るのが見えてきました。
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