第2話
「……おい、お前」
私が決意していると、そのダイチさんが声をかけてきました。
「は、はい!」
いきなり声をかけられて緊張していると、ダイチさんは皆が逃げた方をあごで差しました。
「もう他の奴は逃げたぞ」
「え、ああ、そうですね」
もう彼らのことは気にしてなかったのですが、今更追いかけようと思えません。
元々冒険者の経験を積むつもりで適当に入っただけのパーティーでしたし。
「何故逃げない。もしかして一人で戦う気か?」
「め、滅相もない!」
あたしが首をブンブンと振って否定すると、彼は今度は向こうを指差しました。
「なら、早く去れ」
「えっと……」
この問答にドキドキしながらも、どこか嬉しい自分がいます。
いわゆる問答無用でなく、ちゃんと話す意思を示せば話に応じてくれる。
やはり、見た目よりも理性的です!
あたしは意を決して、ダイチさんに向かって叫びました。
「私はヒィア!
「そうか」
ダイチさんはそれだけ言って、あたしに興味を失ったように遠くを見始めました。
恐らくまた誰か来ないか見張っているんでしょうが……むむっ?
もしやあたしが勝手に自己紹介をし出したと思っているのでしょうか?
実際その通りなんですが、こうも興味を持たれないとどうにかこちらを向かせたくなりますね。
「実は! ダイチさんに折り入ってお願いしたい事があります!」
あたしがまた大声でそう言うと、彼はまたあたしに視線を向けてくれました。
「なんだ」
うん、やはり優しい人ですね! 人ではなく魔物ですが!
「弟子にして下さい!」
「断る」
これで話は終わりとばかりにまた遠くを見始めましたが、そのくらい想定しています!
「身の回りのお世話をしますよ!」
「いらん」
「お料理とか出来ますよ!」
「必要ない」
「お洗濯だって!」
「足りている」
「ど、どうしてもというなら……よ、夜の相手でも!」
あたしが思い切ってそう言うと、ダイチさんは
え? まさか、それに反応しちゃいます?
弟子にしてもらうつもりではあったけど、勢いでなんてことを!
出来れば撤回をしなければ!
「あ、あの!」
私が慌てて先ほどの言葉を撤回しようとすると、
「ヒィア、と言ったな」
ダイチさんは静かにそう確認してきました。
「は、はい!」
名前をちゃんと覚えてくれたのは嬉しいですが、それ以上に何を言われるだろうと、ドキドキします!
「……軽々しくそう言う奴は、ロクな目に合わない。覚悟もなくそんな事を口にするのは、止めておけ」
一瞬何を言われているのかと思いましたが、理解してあたしは感動しました。
この方、あたしを心配してくれました!
見ず知らずの、いきなり自己紹介を始めてしまうようなこんなあたしを、魔物の自分とは違う、人間のあたしを!
「わ、分かりました! 気を付けます、師匠!」
「……もう好きにしろ」
「はい! 好きになりました!」
ああ、じゃなかった!
「好きにさせていただきます!」
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