第11話思いがけない再会

昼食を食べ、一息ついてからはまた空の人。


「我の視界にはもう街が見えたぞ!


さすが神竜。

普通の人間にも獣人にもまだまだ見えていないがもう見えた様だ――。


「この辺りなら付近に人影も見えぬ、このまま街道に下りるぞ!」


 街道に降り立ってからは、馬車の無い俺達は当然歩きだ。

そろそろ日が西の山脈に沈もうとしている所で――。

俺の視界にも、街の城壁が見えてきた。


「なんとか暗くなる前に、街に着きましたね。今晩は家の商会でもてなさせて頂きますね!」


 街が見えてきてから――。

多少気分も回復してきたアルテッザがそう言って笑う。

もてなされる云われは無い気もするが、

厚意は受け取っておこう。


陽が暮れ辺りを闇が包み込む前に、

漸く門を潜る事が出来た。


 クロはさすがにオウムサイズでも竜は竜。

姿を見せる訳には、いかない。

光学迷彩魔法で姿を消してはいるが――。

ずっと俺の肩の上に乗っている。


街の住民でもあるアルテッザは商会の紋章を見せたらあっさり通された。


 俺達4人は旅の冒険者見習いとして――。

通常、住民なら銅貨3枚で入場出来る所を、

保証金として一人につき銀貨3枚も支払わされた。

銀貨3枚支払えば、1週間の滞在までは認められるらしい。


素性の判らない者を銅貨で入場させると、

街に浮浪者が住み着き治安が悪くなるというのが理由らしい。


 確かに、銀貨10枚で金貨1枚が相場だとすると――。

1名につき3万支払う能力があれば浮浪者にはならない。


 この世界では銀貨3枚あれば一般大衆の宿屋で1週間も泊まれるらしい。

ただし食事代は別途だそうだ……。

銀貨1枚で、銅貨20枚が相場と聞いた。

そうなると、大体銅貨は500円位と考えられる。

また、銅貨の下に鉄貨があり銅貨1枚は鉄貨5枚らしい。

日本円にして金貨が10万円、銀貨が1万円、銅貨が500円、鉄貨が100円か……わかり易いな。


 大きな門を潜ると、遠くの方にお城が見える。

軍事的な用途の城というより――。

世界的に有名な、鼠のキャラクターがいる観光地の様な城に似ている。

城まで大通りが続いており、大通りだけ地面は石畳が敷き詰められている。

まさに城主の為に作った道という感じだ。


 大通りに交差するように細い路地がいくつもあり、

――通りは豪華な石積みの建築物が目立つ。


 細い路地の奥は木造の家屋が無秩序に建っていて、一度入ったら迷子になりそうだ。

アルテッザ曰くこの街は西から北にかけてオルゴナーラ山脈があり……。

稀に魔獣のスタンピードがあるらしいが、

左程、強い魔獣じゃないらしく――。

城主軍と冒険者ギルドの傭兵だけで十分らしい。


 竜がいる山脈が近くにあるのに、竜の被害は無いのか?

気になったんで聞いてみた。

100年に一度あればいい方で、あったら天災と同じ扱いらしい。

王都に救援を求めて、勇者を派遣してもらうにしても――。

往復3週間かかれば既に竜は旅立った後。


まさに後の祭り。


 東と南にはずっと先に街がある為、他国からの緩衝材になっている。

だが、歴史上他国の軍がこのトーマズの街まで侵攻した事は――。

一度も無いと、アルテッザが小さい頃に祖父に教えられたそうだ。


 街の門は3箇所あり俺達が通ってきた門が正門。

後は東と南にそれぞれ似たような門があるそうだ――。

それぞれの門から伸びる大通りだけここと同じ様に石畳が敷かれていて、

大通りの交差する所が一番賑わっている場所らしい。


 そんな説明を聞きながら5人で歩いていると――。

露天の屋台が道の脇に出ている区画に近づいてきた。

美味しそうな臭いに獣人の娘達がキョロキョロし始めた。


 だが案内役のアルテッザの足取りが少しずつ速くなり、

露天街を過ぎ――。

服屋らしきお店が並んでいるのが、見えて来た所で駆け出した。

俺達も逸れない様に追いかける。

服屋を過ぎアクセサリー屋を過ぎた3階建ての商会の前で――。

急にアルテッザの足取りが止まった。


 扉を開けると受付に座っていたメガネをかけた女性がこちらに気づき『お嬢様!』と驚喜とも取れる声をあげた。


「良くぞご無事で!ちょっとお待ちくださいね、今旦那様と奥様を呼んでまいりますので」


 アルテッザが何か言おうとするが……。

女性はお構いなしに通路を駆け出し奥の部屋に駆け込んでいった。

あっけに取られているアルテッザも女性の後を追おうと歩き出した所――。

奥の部屋からアルテッザに良く似た綺麗な女性と……。

いかにも憔悴しきった、長身の男性が足早に飛び出してきた。


「あーーアルテッザ!良くぞ生きて帰ってきてくれた!」


そう言いながらアルテッザを二人で抱きしめる。


「お父様!どうして……」


 男性の方は盗賊に襲われて死んだと思っていた、父親だった。

お父さんも、お母さんも、嬉しさのあまり号泣しているのだが――。


アルテッザだけはしばらく呆気に取られていた。


 感動の再会も終わり、今俺達は広間にあるソファーに並んで座っている。

正面向かって左にはアルテッザのお母さん。

真ん中にはアルテッザ。

右側にお父さんだ。


 「それにしても奇跡としか言いようが無いな」

「お父さんは方々手を尽くしてテッザの行方を捜していたのよ?」


アルテッザの両親がそう話し出した。


 「私こそお父さんは盗賊に殺されたとばかり……」

「アルテッザが連れ去られた時には、まだ護衛の人達が奮闘していたじゃないか――。何故死んだ事になる」

「それは……ここに来る途中で現場に立ち寄ったらこれが落ちていたから」


そう言って父親のペンダントを差し出すアルテッザ。


「あ……そんな所にあったのか!それは行商を始めたアルテッザに記念に渡そうと思って用意していたものだったのだが……」


 まさかそれで死んだと思い込んでいたとはと――。

苦笑いを浮かべながらお父さんは言う。

何れにしても、皆無事で何よりだったと皆の顔にも笑顔が浮かんでいる。


「それでは、その少年、コータ殿だったか――にオルゴナーラで助けられここまで送ってもらったと?」


 見た感じ弱そうな少年が娘を助け――。

遠いオルゴナーラから送ってくれたと聞き半信半疑。

いや疑いの眼差しでこちらを伺う。


 「あの湖までは、距離にして300キロルはある。往復600キロルは馬車でも1週間以上かかる距離だ」


盗賊に連れ去られたのが約1ヶ月前――。

助けられたのが一昨日では、どう考えてもおかしいよな。


「本当なんだって!」

「だが、龍騎士隊のワイバーンにでも乗らない限り踏破は無理だろう?」


「自分の娘を信じられぬのか!」


 肩に乗ったクロが見るに見兼ねて声を発した。

俺達5人は誰の声か分るから普通に聞いていたが……。

目の前の両親は違う。


「今のは、いったい?」


誰の声だ?と言おうとした所で俺の肩に乗っているクロが光学迷彩の魔法を解いたらしい。


 えっ――と驚くアルテッザの両親。

父親の方は顎が外れるのでは無いかと心配する位、大口を空けている。

母親は『まぁまぁ!ピクシードラゴンだわ』と目を大きく広げジッとクロを眺めている。


「我はピクシードラゴンでは無いがな」


クロがそう言った事で二人は正気に戻った。


「そうだ、ピクシードラゴンが言葉を話すとは伝説でも聞いた事がない?」


 まぁそうなの?と――お母さんの方が首を傾げているがお父さんの方の目は恐れが混じった視線を向けている。


 「あまり他言されてはこちらに害があるからの。街の中では姿を消してはいるが我は古竜である。ここにいるコータの保護者の様なものだ!」


がはは、と笑いながらそう言うクロ。


 あれ――クロって家のペットだった筈。いつから保護者に?


そう考えた所で後頭部に何かが当たった。


 ――ブン!

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