第12話おもてなし
暖かい。
もう、朝だろうか……。
そろそろ母さんが起こしにきてくれる筈だ。
そう思いながら目を開けると――。
「知らない天井だ……」
大切な事なので、言ってみました――。
確か――。さっきまでアルテッザの両親と会話をしていた筈だけど……。
何で寝ているんだろう?
そう考えていたら、コンコンっとドアがノックされた。
部屋を見渡しても俺しか居なかったので、どうぞと言ってノックの主を招き入れる。
「本当に起きられたんですね、皆さん食堂でお待ちですよ」
――と商会に着いた時に受付に座っていた。
如何にもキャリアウーマンって感じの女性に声をかけられた。
女性の案内で後ろを付いて行くと、20畳位はあるだろうか――。
細長い10人は座れる席にアルテッザの家族とアルテッザ。
俺達が助けた娘達。
何故かクロもテーブルと同じ高さの台を用意してもらって座っていた。
目の前には、出来上がったばかりの豪勢な料理の数々が……。
ここまで案内してくれた女性が椅子を引いてくれた。
アルテッザの両親のまん前クロの隣、どうやらここが俺の席らしい。
「コータ殿、事情はクロ様から伺いました。娘を助けて頂いて本当に有難う――。本日は娘の無事を祝って、ささやかながらも、お祝いとおもてなしをさせて頂きますぞ」
「乾杯の前に、あまりに突然の事で自己紹介も済んでおりませんでしたな」
苦笑いを浮かべながら、アルテッザのお父さんが言う。
「アルテッザの父で当商会の主でもあります、アンドレア・オルステッドと申します」
「同じくアルテッザの母のアンドレア・オフィーリアと申しますわ」
なるほど、アンドレアが家名って事ね!
「クロ様ご一行のご紹介は、コータ殿が休んでいる間に済んでおります」
いつのまに――寝ている間か。
ペット扱いが悪いのか?
隣を見れば上目遣いでジロリと睨まれた。
せっかくの料理が冷めてしまいます。
――と言う事でさっそく料理を頂く事にする。
クロの目の前には、これは子豚だろうか?
丸々一頭分の丸焼きで香草と香辛料をふんだんに使った料理が置かれており――。器用に足?手?で押さえながら骨ごとボリボリ齧っていた。
僕の前にあるのは深皿に盛られた料理の上に、溶けたチーズが大量に載せられている料理や――。サイコロ状に切り分けてある何かの肉。日干しした様な魚と野菜を煮込んだ料理に、これは果汁ジュースだろうか……。が用意されていた。
チーズの料理はどうやらグラタンらしい。
日本のものとはちょっと違うが……。
牛乳っぽい味のどろりとしたスープに芋や野菜が煮込まれて――。
その上からチーズがかかっている。
うん、マカロニは入って無いがグラタンだ!
魚の入っている料理がどうやらスープみたいだ……。
薄い塩味でじっくり魚を煮込んでいい出汁が出ている。
テーブル中央にはバスケットの中にパンが大量に積み上げられていて、好きに取って食べていいらしい。
この世界に来てまだ3日目の俺にはこの料理が豪華なのか判断は出来ないけど――。隣に座っている獣人達とイアンががっついて美味しそうに食べているからきっと豪勢なんだろうね。
ちなみにサイコロの肉は日本のスーパーで売っているサイコロステーキよりも柔らかく、味はどちらかと言うと豚肉の様な味わいだった。
薄味だけど――。これもしっかり調味料が効いていて美味しかった。
果汁のジュースは薄い赤紫っぽい色だったから葡萄……。
――と思ったが何故か香りを嗅いだら桃の香りがした。
この国で採れる果物でプレヴァという果実らしい。
ひとしきり腹いっぱい食べた後に、給仕役のお姉さんが紅茶を入れてくれた所で、懇談会の始まりだ。
「それで皆さんはこれからどうなさいますか――。今晩はうちに滞在して頂くとして……。トーマズの街自体は特別観光する所も少ないですし、元よりこの街は東と南、西の王都への流通の拠点。露天や商店等のお店が充実しているが競技場や闘技場、娯楽施設も無い。唯一の娯楽はその昔、賢者様が魔法で掘った穴から噴出した温泉位でしょうか――」
そう言うオルステッドの言葉には、出来れば俺たちに関わり合いたくない雰囲気が感じられた。
ピクシードラゴンの件のオワルスター伯爵と盗賊の関係。
イアンと獣人娘達の話を聞いてからは――。
向けられていた好意が少し、ぎこちなくなった気がする。
小規模な商会では、貴族様を相手に商売は出来ても、喧嘩は出来ない。
変に睨まれても困るだけだろう。
力関係でいったらクロが保護している俺たちが圧倒的に有利だけどね!
こればかりは仕方ない。
晩餐会の後で、アルテッザを外した皆で話し合って――。
2、3日観光して旅の準備をしたらこの街を出る事にした。
馬車も買わなくちゃいけないしね!
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