5-1:GUF爆発
時間は有限だ。
さらに授業や部活、文化祭の準備に追われていれば、数日、数週間なんてすぐに経過してしまう。気づけば、いつの間にか準備期間は過ぎ去っていて、今日はもう文化祭当日。二日間行われる文化祭の一日目だ。
「いつ行く?」
「あー、とりあえず昼までは手伝わないとここ回らないだろ。一時くらいに出ればいいんじゃね?」
文化祭の主役は、体育学科以外である。体育祭で主役だった体育学科は、文化祭では、メインイベント以外で大それたことはやらない。極力目立つことはしない。これは暗黙のルールになっていた。
実際体育学科の出し物は、経のいる二年、そして一年と三年も軽食販売のみである。
「なんで焼き鳥にしたんだよ! くそ暑いじゃんか」
「ほら、言葉遣い悪いぞ」
「親かお前は!」
瀬我と軽口を叩き合いつつ、経はクラスで販売している焼き鳥を焼いていた。炭火バーベキュー用のミニコンロが熱を放出し続け、容赦なく経の顔面を熱の幕で襲う。
「あ、いらっしゃいませ」
「鶏モモ二本で」
「まいどありー」
販売しているのは、鶏皮、鶏モモ、つくねのみ。しかも味は塩だけ。
文化祭をふらふらと見にくる一般客が食べやすく、なおかつ持ち歩きしやすいもの。という条件の元、決められたメニューだ。その作戦は大成功だったようで、飛ぶように焼き鳥は売れていく。
「まさかこんなに売れるとは……」
「うちの高校見るもん多いしな。ゆっくり食うよりは食べ歩きの方が便利なんだろ? きっとさ」
現在は十二時でちょうど昼時。早めに抜けてミュージカルの準備を手伝う予定だったのだが、この様子では難しい。念のため三年には遅れることを伝え、許可を取ってある。
「今日の分売り切れちゃいそうだし、文化祭後半は自由時間できそうだからよかったじゃん」
「まあなー」
焼き鳥から油が落ち、ジュワッといい音と煙が上がる。立ち込める匂いに釣られた客が列を作り、今日の分の在庫はあとわずかだ。
「瀬我は時間できたらどうするんだ?」
「ん? 彼女とデート」
「リア充め」
「お前も似たようなもんだろ?」
少しだけ頬を染めて、瀬我が嬉しそうに笑う。ニヤニヤと笑いながらからかえば、返ってきた答えに思い切り顔を歪めた。
「あいつは口を開いちゃいけない」
「ひっでーな」
真顔で言い切ると、横で瀬我が爆笑した。同じ学校で姫海の奇行を知らないものはいないので、当然瀬我も彼女の性格を理解している。
「黙ってりゃ可愛いじゃん」
「お前も今言ったろ? 黙ってりゃな、黙ってりゃ」
猪突猛進、少しどころではない変人。自分で自分のことを可愛いといい、そんな可愛い女子が言うはずのない「にぎりっぺ」と言う単語を口にしかけ、大爆笑してしまうような女なのだ。
「あいつがなんであんなにモテるのかが謎だ」
「それ言ったら白金もモテるよな」
「この学校に七不思議があるなら、その中の二つは奴らのことに違いないと俺は思う」
軽口を叩き合いながらもきっちりと手を動かし、一時になる前には一日目の分として用意した焼き鳥を完売することができた。
「二人ともお疲れー。片付けはうちらでやるから、メインの方行ってきていいよー」
「おーサンキュー」
「よろしくな」
クラス全員お揃いで作った販売用のエプロン。青地に鶏が書かれたそのエプロンを外して、声をかけてくれたクラスメイトに預けた。ミュージカルは三時から、時間はあと二時間。裏方の仕事なのでそこまで忙しいわけではないが、観客の誘導などやらなければいけないことは意外と多い。
「先輩が早く来いって」
「わかってるっつの」
早歩きで目的地に向かいつつ、瀬我がメールを確認した。今から行くと返信するようお願いし、人混みの間を縫って進む。
「見つけたぞ、小僧!」
一般客の大勢いる廊下。ミュージカルの行われる体育館へはあと数分の距離。その場所で、突然誰かの大声が響いた。
ただでさえうるさい廊下。声の主を確かめようとしたためか、その喧騒はさらに大きくなる。先を急いでいた経と瀬我も、思わず足を止めてあたりを見渡した。
「君が、須賀志経?」
辺りに視線を巡らせていた二人、その背後から降ってきたのは、先ほどの大声とは違う落ち着いた女性の声。
「悪いんだけど、私たちと一緒に来てくれない」
「須賀志の知り合い?」
振り向けば、立っていたのは女性。その女性、イシャーナの眉間に寄せられたシワに驚きつつも、瀬我が経に確認取った。
経は瀬我の質問に対し、小さく首を左右に振る。そして同時に、予想が外れていなかったことを悟った。
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