4-2:嵐の前のなんとやら

「ねえコウくん」

「ん?」


 本番で使う予定のロボットは、四人ほどのグループで一機を作り、合計で十機制作する予定だ。

 恒例となっているイベントではあるが、ロボット搭乗希望者はとても多い。しかも、何十機ものロボットを製作することはできないため、全員は乗せられない。そのため、文化祭当日は抽選会を行い、当選者だけがロボットに搭乗できるルールとなっている。

 姫海もロボット製作のチームに加わっているが、すでにチームのノルマである一機を作り終わっていた。今は時間が空いたので、ロボットにプログラムをインストールし、実機でのテストを見学にきている。

 今回、経とは全く別の行動をする二人。去年も同じように文化祭は別々ではあったが、今年は少しだけ気がかりなことがある。


「来るならさ、文化祭だよね。きっと」

「そうだね。前回も体育祭だったし」


 視線はパソコンに向け、組んだプログラムにミスがないか確認をしながら、姫海の言葉に返答を返す。内容は、前回工に接触してきた正体不明の男のこと。

 病院のセキュリティは、見直しをした日から定期的に工が確認をしている。だがあの日以降、ハッキングされた様子は今の所ない。それが警戒しているからなのか、それとも、元々遊びで侵入してきただけなのかは定かではない。

 わかったことがあるとすれば、警察ではないということだけ。警察がもし経の力を知ったとしたら、話くらいは聞きにこなければおかしい。

 珍しく眉間にシワを寄せ、不安そうに俯く姫海。黙ってしまった姫海を不思議に思い顔をあげた工は、その表情を見てわずかに目を見開いたあと、パソコンを閉じて立ち上がった。


「あんなんでも一応警戒してるから、そんなに心配しなくて大丈夫だよ」


 机の上に座っていた姫海の頭に、工が優しく手を乗せた。ふわりとした癖っ毛は工の指を絡めとることはなく、サラサラと流れて落ちていく。


「何より。経の動きは猿だから」

「猿って……」


 真剣に考え込んでいたはずの姫海が、真顔の工に少しだけ唇を緩めた。


「あれを捕まえるのは、至難の技でしょ」


 唇を緩めた工に、姫海もこわばっていた体をほぐすように伸びをした。そしていつものように、大きい目を細めてニヒッと美女にあるまじき笑みを浮かべる。


「それも、そうだよね」

「ん」


 反動をつけて、姫海が机の上から跳ねるように床に降りた。工房を出て行く工の背中を、待ってと言いながら追いかける。プログラムが無事組み終わったので、これからインストールしてテストだ。


「いざとなったらロボットに乗って加勢しようね」

「それは楽しそうだけど……多分校舎がかなり壊れると思うよ」

「一回やっちゃえば怖くないよ。たぶん」

「…………」


 親指を立てて、それはもういい笑顔で笑った姫海に、工は元気になった安心と同時に、言い表せないくらい大きな不安を感じたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る