4-1:嵐の前のなんとやら
夏休みが終わり、じっとりとした暑さが残る九月。学生には常に行事がつきもので、体育祭が終わったばかりだというのに現在は文化祭の準備に大忙した。
各学科が実技系なこともあり、文化祭も体育祭同様、期間中は一般客に解放される。機械や服飾、芸術関係者なども普通に出入りし、有望な学生を把握するための行事にもなっている。
「須賀志ー、これ運んでー」
文化祭は、体育祭と違って学年別ではなくクラス別。一学年五クラスなので、合計十五クラスが別々の出し物を行う。そうは言っても、クラスの出し物はカフェや雑貨屋、服屋やお化け屋敷など、普通の学校にもあるようなものだ。
雑貨屋や服や、お化け屋敷に関しては、芸術学科や服飾学科が主に行うので、クオリティは店舗顔負けではある。だが、文化祭の目玉はクラスの出し物ではない。
「ほいよー」
服飾学科、体育学科、芸術学科の三学科が全学年合同で行うミュージカル。そして、情報学科と機械工学科が同じく全学年合同で行う、一般客も参加できるミニロボットの操縦イベント。この二つが、飛呂総合高等学校の二大目玉イベントとなっている。
全学年合同なので、体育祭と違って全員が何かをやらなければいけないわけではない。クラスの出し物だけに集中するものももちろんいる。
「あ、それ一人で持てる?」
「こんくらい余裕」
姫海や工はそれぞれの学科のトップクラスなので、強制的に目玉イベントでもメインで活動する。だが経は、ミュージカルの手伝いのみで出演はしない。体育の成績はトップクラスだが、基本的にスポーツ以外で目立ったりすることは得意ではないのだ。
現在も、同じクラスで裏方担当になった
身長192センチ。特技がダンクシュートの瀨我は、なぜか経と同じバレー部所属だ。明るい茶髪は、運動時に邪魔にならぬよう短めに切られているが、二連に連なったシルバーのピアスが右耳で輝いていてなんだか軽そうな印象の瀬我。
「無理すんなよ。怪我したら試合出れねーぞ」
「わかってるわかってる」
見た目の印象とは違い、実は意外と面倒見のいい瀬我は、経を心配する言葉を投げかける。大量に衣装が入ったダンボールは、ミュージカルで着るため派手なものが多く、とても重い。それでも、体育学科に所属する男子高校生が持ち上げるにはまったく問題なく、経は瀨我に返事を返すとしっかりと箱を抱え直して目的地へと足を動かした。
「そういやさ。今回のミュージカル、内容なんだっけ」
「あー……確か」
同じく大量の衣装が入った段ボールを持った瀨我が経の隣に並び、廊下の先をみながら口を開いた。経は目を細めて天井を見上げ、裏方の参加希望者を募られた時の説明を思い起こす。
「なんか、力がある男が悪い奴らと戦う的な……」
「うわ、適当。そして王道」
「覚えてないやつに言われたくねえよ」
喉の奥でくつくつと笑って、経は瀨我の長い足を軽く蹴る。痛い痛いと明らかに棒読みだとわかる声を出す瀨我と共に、衣装が入った段ボールを運ぶ作業を繰り返すのだった。
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