5-2:二人の男
生まれた時から勝ち組。それはきっと、シヴァのような人間を言うのだろう。
小学校に上がる前には完成していた整った顔立ち。運動でも勉強でも、一度見聞きすれば覚え、何もせずとも一番を取り続けられる才能。何もかも思い通りにできてしまうシヴァがつまらないという感情を抱くのに、そう時間はかからなかった。
進む道は全て自動的に整えられてしまう。難しいことにチャレンジしようとしても、石ころひとつない道では転ぶことも躓くこともなく簡単に歩ききれてしまう。
シヴァが選び、シヴァが進むと決めた道。彼自身が歩むと決めた時点で、それらは全て舗装された道に変わる。
――ならば、他の人に歩かせればいい。
シヴァにそんな気持ちが芽生えたのは、高校を卒業する頃だった。
実行するためには、自分の望むように他人を動かす必要がある。その力を手に入れるため、シヴァは注意して人を観察するようになった。他愛のない会話でも、一言一言のニュアンスを変えて話してみたりと工夫をし、その反応も細かく頭に書き留めていく。
ほんの些細なことかもしれないが、シヴァにとっては初めてした努力。
「……これは」
そして、初めて感じた手応えだった。
自分ならば簡単にクリアできることも、他人を使ってだとその難易度は跳ね上がる。わずかに上がった右の口角。シヴァはこの時初めて、楽しいと言う感情を知ったのだ。
「なあ、あんたいつも何考えてるん?」
他人を駒のように操作し、数々の面をクリアしていく。シヴァが口賀から声をかけられたのは、ゲームのそれと同じようなことをし始めて少し経った頃だった。
幼馴染と言われながら、交わることのなかった二人。
口賀はどんなにシヴァが人に囲まれていても、目立つことをしても、媚を売ることもなく近づいてくることもなかった珍しい人種だ。そんな口賀をシヴァは不思議に思っていたが、今までは特に気にするほどの存在ではなかった。しかし声をかけられ、口賀の目を真正面から見たことでその意識は変わる。
「君はきっと、私と同じ人間だから」
同じ人種。
自分が望んだ通りの、起伏のない道を歩くことができる人間。いや、口賀は少し違う。シヴァが今求めてやまない力。自分が望む通りに他人を動かす力を手に入れかけている人間だった。
他人を動かす巧さが育ってきた環境の違いからだと理解していたシヴァは、口賀とならもっと楽しいことができると確信した。だからこそ、彼を仲間に引き入れたのだ。
手を組んだ二人は、地道な下準備を行ってきた。まず必要となるのは操る駒だが、当然その駒は初めからあるわけではない。そのため、口賀が駒を収集する仕事を担った。
不平不満に相槌を打ち、今を嘆く心に寄り添う。彼らが望む言葉を、感情を乗せて表情に乗せて口にする。そして、その中にシヴァの話を織り交ぜるのだ。
「壊して、作り直せばいいんよ。シヴァ様の元で」
普通に聞けば、誰が信じるのだろうかと思うだろう。だが、心に隙間のある人はその甘い言葉にすがるのだ。前に立ってくれる人がいるのなら、自分と同じ考えの人がいるのなら、と。
一人じゃない。それは魔法の言葉なのだ。
自分たちが不満を抱いている環境。それを全て壊すという大それたことも、自分だけじゃないと思うと人は安心する。その言葉を巧みに混ぜ込み、口賀は囁く。
「もちろん嫌だったら断ってな? それと、一人で入りたくないんなら友達とでも構わんよ」
同じ不満がある人なら大歓迎だと、そう囁いて笑うのだ。無理に引き込もうとはせず、一定の距離感を保つ。大半の人間は、少しでも心を許した人から距離を取られそうになると近寄りたくなる不安定な生き物である。
打ち解け、寄り添い、そして最後は軽く引くだけ。それだけでたくさんの人が集まってくる。
人間は、単純だ。
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