4-2:作戦会議
デーヴァたちが仲を深めているとき、彼らの隣の部屋でも作戦会議をしている男女がいた。
「シヴァ様は俺を見込んでこの任務を任せたに違いない!」
「私もいること、忘れないでくれる?」
声高らかに叫ぶ中荷の隣で、イシャーナが嫌そうに顔を歪めた。だがそんな彼女の脳裏に、先ほどこっそりと声をかけてきたシヴァの姿が蘇る。
――彼の暴走を止められるのは、君だけだ。頼んだよイシャーナ
人とは思えぬ美しい笑顔。シルクのように滑らかに輝く白銀の髪。
笑顔を送られると同時に、流れるような動作で髪を一房持ち上げられたことを思い出し、カッと頬が熱を持った。
「本当に、あなたみたいな人がなんでシヴァ様と……」
熱くなった頬をパタパタと仰ぎ、目の前でだらしなくにやけている中荷を見やる。天と地ほど違う顔の作り。シヴァと違い、知恵の知の字も感じられない顔だとイシャーナは思った。
「お前には言われたくねえな。どうせお前、シヴァ様の顔が好きなだけだろ」
「は? 何言ってんの?」
これから同じ仕事をしなければいけないというのに、二人の溝は深まるばかりだ。
「それしかねえだろ? お前みたいな女がいる理由は」
中荷が口にした言葉は、イシャーナを卑下して言ったわけではない。なぜ、イシャーナのようにスタイルも良く、どこにも欠点が無いような女性がいるのか。という素朴な疑問から出た言葉。
イシャーナならば普通に生きていけるではないかと、そう問うているのだ。
「勝ち組じゃん。お前」
「……綺麗だから勝ち組だなんて、安直な考えやめてくれる?」
美しい顔に似合わぬ舌打ちをしたイシャーナが、奥歯を食いしばる。嫌悪感を露わにしたその表情に中荷は少しだけ軽率な物言いを後悔するが、浮かんだ疑問は簡単には消えない。
「男なんて、みんなクズよ」
「シヴァ様男じゃん」
「シヴァ様は違う!」
感情的になった自分を落ち着かせるように、イシャーナは首をゆるく振った。
「意味わかんねえ」
理解できないと首を傾げた中荷に、イシャーナはしぶしぶ口を開く。
「男性なのに美しい容姿、そして人の上に立ちつつも下を見下さないその姿勢。自分の容姿を使わぬその偉大さ! 全て素晴らしい!」
彼女なりに丁寧に、かつわかりやすく説明したつもりだった。だが、結局彼女がなぜこの場にいるのか中荷には伝わらない。
「前半はなんとなくわかるけど最後は――」
「とにかく、シヴァ様はあんたみたいな普通の男とは違うのよ!」
遮られて言われた言葉に、中荷がカッとなって口を開く。
「は? 俺だってすぐに特殊な力が――」
だが、中荷は口をつぐんだ。あり得ないものを見るような、見下した瞳が目の前にあったからだ。
「あんたなんかに、特殊な力が?」
「お前も……、シヴァ様以外の奴らと一緒じゃねえか」
「っ!」
見下さず、話を聞いてくれたのはシヴァだけだと中荷は言う。今の物言いでどちらが悪いかなど明白過ぎて、イシャーナは何も言えず悔しそうに口を引き結ぶ。
「特殊な能力を持った人間はいる。力が目覚める可能性もある。シヴァ様はそう言ってくれた。で、かっこいい能力じゃねえが、実際に能力に目覚めた小僧が現れた」
自分の体内で作り出したガスが武器になる。それは確かに、特殊能力だ。
「シヴァ様の言った通り、特殊能力を持った人間はいたんだ。なら、俺の力が解き放たれるのもきっともうすぐなはず!」
それでも、小僧と同じ能力は勘弁だけれど。と笑った中荷に、イシャーナは残念な生き物を見ている気分になった。しかし、シヴァが中荷にした発言を思い出して目を閉じる。
シヴァが予言した通り能力者は現れた。そのシヴァが、中荷にも可能性があると言ったのであれば、本当なのかもしれないと思ったのだ。
「……シヴァ様が言うのなら、信じる」
「ほんとお前、シヴァ様一筋なのな」
深く深呼吸して口を開いたイシャーナに、中荷は呆れたような笑いをこぼした。
「ま、理由はどうあれ、同じ人を信じてついてきたんだ」
スッと差し出された中荷の手。固まるイシャーナは気にせず、珍しく中荷が笑った。嫌味な笑顔でなく、少年のように歯を見せて。
「とりあえずまあ、よろしく」
「……男は、嫌い。けど、少しだけならよろしくしてあげる」
「なんだそりゃ」
おずおずと取られた手。数ミリほどかもしれないが、イシャーナと中荷の距離が縮まったようだ。
自分たちの望む、生きやすい世界を作るため、それぞれがシヴァの名を語る男の手を取った。しかし、今尚バルコニーでグラスを傾け微笑する彼の本心を知るものは、この場所には誰もいない。
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