3-2:シヴァ神の使者

「さて、彼の能力の話だったね」

「あ、はい」


 パンパンと軽く両手を叩いてシヴァが話を元に戻した。慌てて返事をしたラヴァに続き、プルシャもしっかりと首を縦にふる。


「私の予測した力は、サドならわかってるよね」


 チラリとシヴァが中荷に送った視線。その視線を、ギリリと奥歯を噛み締めながらイシャーナが見つめた。


「シ、シヴァ様」

「……私に、あれを言えと?」

「い……いえ」


 イシャーナの様子には気づかず中荷が慌てたようにシヴァを見上げた。だが、返された冷たいその目線に中荷は口ごもり、申し訳ありませんでした。と深く頭を下げる。


「小僧の力。それは、睡眠ガスだけではなく、人体に影響を与える複数の物質を体内で作り『屁』として放出できる力だと思われます」

「でもそれじゃあ、少年も」

「……イシャーナ」

「も、申し訳ありません」


 話の途中であることをシヴァが彼女の名前を呼ぶことでやんわりと伝える。慌てて頭を下げたイシャーナを見て中荷がニヤリと笑ったが、すぐに表情を元に戻すと続きを口にする。


「未だに判明していない集団睡眠事件の原因。現在の状況からだとそれが一番有力かと」


 最後まで説明しきった中荷。だが、その顔は誇らしげというより羞恥の色の方が濃かった。さらに報告を聞いたシヴァは楽しそうに口を歪めているが、そのほかのメンバーはなんと声を出して良いのかと戸惑っていた。

 それもそうだろう、経という少年の出した「屁」が特殊なガスだと言われても、使い辛いし何より使いたくないと思ったのだ。


「シヴァ様。よろしいでしょうか」

「ん。いいよ」


 スッと手を挙げたラヴァが顔を上げ、シヴァを見つめた。その瞳には、若干の戸惑いの色が見て取れる。


「その少年の力を、どう使うおつもりなのですか?」

「……次は武器。と友人の少年が言っていたことから、すでに彼らはガスの加工に成功している可能性が高い。そして、複数の物質を体内で作れるなら当然そのガスに合わせた他の武器を作ることも可能だよね」

「確かに……誰にも知られることなく複数種類のガスを入手し、さらに武器の作成ができるのは非常にメリットが大きいですわね」

「……それに、楽しいじゃないか」


 納得したラヴァ。彼女の言葉のあと、シヴァは細くきれいな指を口に当てて本当に小さな声で呟いた。


「何かおっしゃいました?」


 ラヴァを含め、その場にいるメンバーは気づかない。シヴァの唇が楽しそうに歪んでいることに。


「いや……それじゃあ、作戦を立てようか」

「は!」

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