3-3:パッキング・ユニット
そして数日が過ぎ、改良に改良を重ねた武器がようやく完成に至った。
武器の名前は、工が「パッキング・ユニット」と命名した。経から「屁」を連想しないものにしてほしいと言われ考えた名前である。
「結局近距離型になったね」
「ま、こればっかりはしょうがないよねー。だって、風船じゃないものにすると持ち運び大変だし……」
「で、結局これ何に使うんだよ」
完成したベルトをつけ、パンツを履いた経がトイレから戻ってきた。ちなみに、衛生面からパンツは三つ。ホース部分も三つ作成していて、洗えるようになっている。
さらに、近距離戦で使えるよう経は新たに作成された特殊な指輪を両手の中指に嵌めることになった。その指輪は二重になっていて、重なっている部分をずらすと、人差し指と小指側に小さなボタンが出る。両方同時に押し込めば、針が飛び出る仕組みだ。
飛び出る針は、指輪をする向きで出す方向を変えられる。
「とりあえず……」
「ん」
意味深な視線を交わした二人が、経を見つめた。
無表情の工と、興奮が抑えきれていないようなにやにやとした笑みを浮かべる姫海。対照的な二人の顔が経の瞳に映る。
「体育祭、だよねー」
「……は?」
拳を突き上げた姫海。その様をたっぷり眺めたあと、経が眉間にシワを刻んで首を傾げた。
「出し物、また今年もド派手にやろうよ」
飛呂総合高等学校は、個人の能力強化に特化した五学科の総合高校である。実力が高い生徒が多いことから、体育祭や文化祭などの行事は、企業が勧誘のために見にくるほど大規模なものなのだ。そのため、予算も膨大である。
そして、体育祭は学年対抗戦。さらに、学年ごとに一つずつ出し物をする文化がある。
前回は、機械工学科と情報学科がミニロボットを作り、芸術学科と服飾学科が協力して装飾。パイロットに体育学科が乗り込み、全学科総動員でド派手な実物ロボットダンスを披露していた。
「……なにやんの」
「パレードー」
「もうさ、それ体育祭の域超えてない?」
「楽しければ楽しいほどいい」
出てきたアイデアに若干引きながら突っ込めば、工はすでに乗り気だ。
今回は、機械工学科と情報学科で人を乗せて運ぶ機械数台を作成。芸術学科が装飾や演出。服飾学科が衣装。体育学科が振り付けとメインのダンサー担当のようだ。
「もう実行委員と話は進めてるから止めても無駄だよん」
この力の話を聞いた時に決めたのだと言った姫海に、経は開いた口が塞がらなかった。
だいぶ前から立てられていた計画だったのだ。
「僕は知ってたよ」
「教えろよ!」
「やだよ。だって教えたら絶対邪魔される」
表情一つ変えず言い切った工に、経は何を言っても無駄だったことを改めて悟った。
「ってことで、綺麗なのをよろしくねー。花火師さん」
「おなら花火」
さらっと言われた聞き捨てならない一言。
「ちょっと待て、説明は――」
「そのまんまだよーん」
「ん」
思わず経が突っ込むも、二人はそれ以上何も言ってはくれない。
「ま、作るのはアタシたちだし」
「他の人に言ったりなんかしないから、安心しなよ」
「いやまあ、そこは信じてるけどさ」
真面目な顔で言われてしまえばそれ以上問い詰める気も失せてきて、好きにすればと経は苦笑した。
「もちろん」
「今年も出し物はアタシの学年が優勝をかっさらうよ!」
「おー」
「お、おー」
拳を突き上げた姫海に習うように、やる気なさげに右腕を上げた工。つられるように、経も慌てて右腕を上に伸ばしたのだった。
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