第4話
「あった」
数多くの絵の具が並ぶ白い棚からひとつの絵の具を取る。クリムソンレーキ。値段を見てげんなり。もうちょっと安くならないだろうか。
私は始業式が終わってから画材屋へとやって来ていた。欲しい色だから仕方ないけど、うまいこと節約して使おう。アナログな絵を描こうとすると絵の具代が馬鹿にならない。毎月貰うお小遣いで工面するのはそろそろ限界だった。
「アルバイトすればいいんじゃない?」
ピエロが良いことを思い付いたとばかりに嬉々として言い放つ。
それは考えてる。帰ったら求人サイトを眺めるつもり。
「高校生だから、働けるところ少なそうだね。良いところが見つかると良いな」
自分の事のように心配して、両手を組んで祈る。その気持ちがとても嬉しかった。
ありがとう、ピエロ。ピエロとの思い出をちゃんと残すために良いアルバイトを探すね。
「うんっ! 応援してる!」
満面の笑みを励みに私は次に描きたい絵を想像する。大まかな構想は決まっていて、それに使う印象的な色を探しに来たって訳だ。
でも、やっぱり描いてみないとイメージは固まらない。
「あっ、これ探してる色じゃない?」
ピエロが指し示す場所を見ると確かにそうだ。ある程度場所は分かるけど、何百以上も並んでいたら流石に探してしまう。ちょっと冒険して使ったことのない色を求めているのもあるけど。
ピエロが見つけた絵の具をかごの中に放り込んで次を探す。
「芭瑠はさ。学校で隣だった女の子、どう思っているの? ずっと話してたから肩身狭かったよ」
やっぱりその話題を出すか。
ピエロからすれば訊いておかなければならない事だったんだと思う。なんたって顔や声がそっくりで、名前も似ている。今まで躊躇っていたのだろう、少し悲しそうな表情を見せていた。
金井灯色はあれから私に話しかけることはなく、他の空き時間には前後や反対側の隣人に話しかけ笑っていた。
一方私はずっとだんまりを決め込む。というか決めざるを得なかった。友達いないし話しかける気ないし。灯色がたまたま珍しく奇跡的に運悪く話しかけてきただけで、他のクラスメイトなら誰一人話しかけてこないだろうと思う。
私は正直に、灯色の事をちょっとうるさいクラスメイトくらいにしか思ってない。ただピエロに似てたから戸惑って。もう喋らないよ。だってピエロと話していた方がずっと楽しいから、と答えた。
ピエロはほんの少し驚いたような顔をして、すぐに満面の笑みに戻る。
「良かった。なんだかんだ言って仲良くするんじゃないかって思ったもん」
そんなことしないよ。
親友を無視してそっくりな女の子に乗り換える? 馬鹿馬鹿しい。明るくて楽しい、私と気の合うピエロだからこそずっと一緒にいる。その絆をそう簡単に破れるはずはないんだ。
「芭瑠〜、大好き!」
ピエロは気軽に抱きついてくる。大人びている面もあれば、こんな風に子供っぽい面もあるところが彼女の面白さだ。一緒にいて楽しくないことがない。
私は手帳サイズのスケッチブックに私に抱きつくピエロをスケッチする。スピードスケッチで簡単な絵ではあるけど、ピエロの喜んでいる様子がうまく表現できていると自画自賛。これは後でちゃんとした絵を描こう。ほんの少しニヤついて、もうひとつ必要な絵の具を手に取った。
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