第2話
「名前教えてよ」
なんとなく教えるのはシャクだなーと思ったけど、クラスメイトなのに名前を隠し通せるはずがないので素直に答える。
「久木芭留(クノギハル)」
「あら、今の季節にぴったりじゃん」
いやいやいや。私は年中無休でハルだ。じゃあなにか? 夏に名乗ったら「季節外れだね」なんて言うっての? 馬鹿にしてるのか。そもそも季節の春じゃない。
「春って良いよね、過ごしやすくて。暑くも寒くもない丁度良さ」
私は顔に不機嫌さを表現しているつもりだったけれど、彼女には微塵も伝わっていないようだ。自分勝手にペラペラと喋る。
「で、私はカナイ ヒイロ。暫く隣だからよろしくー」
聞き流して無視してやろうと思ったのに、名乗った名前に顔面を粉砕されたかのような衝撃を受ける。
なんだその名前。ヒイロ? は? ふわっと曖昧に発音すればピエロじゃん。見た目も名前もまんまピエロじゃんか、そんな偶然あるか普通。何万、何億分の一だよ。
私の親友であるピエロと、目の前のヒイロとかいう女が頭の中で混ざりあうように溶けていく。やめろ、私はピエロであろうどろどろの液体を掻き分けて寄り合わせる。私のピエロは唯一無二の存在だ。異物を混ぜてたまるか。
「どうした? ねぇ聞いてる?」
「大丈夫、聞いてるよ」
聞いてないけど。
今、見た目だけは同じピエロとの融合を阻止するので精一杯なのだ。
「ね、隣になったよしみでLINE交換しようよ」
すごくどうでもいい理由だと思う。多分彼女にとってLINE交換は息を吸うのとあまり変わりがないのかもしれない。やってる前提で言ってるし。……やってるけどさ。
「まぁいいけど……話すことないでしょ」
「ええー。あるよきっと。私には自信がある」
一体何の根拠があってそんなことを。確かに彼女には絶対的な、無限のエネルギーのようなものを感じる。なんたって私の親友、ピエロと同じ見た目をしているんだから当然だ……って、認めていいんだろうか。
彼女……カナイさんはスマホを出してLINEのQRコードを私に向けてくる。私はもたつきながらそのコードを読み取った。するとイケイケな自撮り写真と『ひいろ☆』という名前が表示。星がうざい。
「えー、名前、フルネームで登録してんの? 可愛くない」
悪かったな。ただ星つければ可愛いと思ってるアンタに言われたくはないぞ。
「てか久木芭瑠ってこう書くんだ。へぇ、可愛い。知らなかったら絶対ハルって読めないけど」
可愛い、と言われてちょっと顔が緩みそうになる。顔、名前に続いて、声も想像しているピエロとそっくりなのは許しがたい。最後にオチをつけて素直に喜ばせてくれないのはむしろありがたいのかも知れなかった。
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