第341話 イネちゃんと空想科学

「と、いうわけでちょっと作ってみました」

 戦闘の合間に作った無線兵器を皆に見せると、全員無言のままでイネちゃんを見つめてくる。

 まぁ、造形とか凝るつもりもなかったし、イネちゃんがロボットと過程して運用するから完全に模造しているからすごくツッコミやすいとは思う、というか逆の立場ならイネちゃんは恐らくツッコんでる。

「いやな、イネ……完全にSFの範疇のものを出されて作ってみましたと言われても困惑するだけだぞ。それと作ってみたはいいが、使えるのか?」

 流石ムツキお父さん冷静なツッコミ。

「そこはまぁ、ヌーリエ様監修だから大丈夫……だと思う。とは言ってもイネちゃんがイーアと連携して始めて使えるってレベルの『使える』だから、やっぱり他の人に譲渡して運用するっていうのは無理だけどね」

「え、それってアニメと同じような感じに使えるってこと?」

 これはヨシュアさん。

「まぁ完全に同じじゃないけどね、物理法則とかアニメの世界と同じじゃないし。ヌーリエ様に手伝ってもらってそれっぽく再現してるだけだし」

 まぁ威力とかも再現できてるんだけど、流石に電池式のもので、充電にそれなりに時間がかかるとなるとまだ常用するというラインにはなっていないしね。

「なんというか……拡張性とか、汎用性とか、いろんな面でイネが1番勇者として恐ろしいんじゃないかな」

「いやぁどうだろう。大半の武装はイネちゃんが運用しなきゃいけない前提だし、ヨシュアさんが言うほど汎用性は高くないと思うんだけど」

「いやいやいや、ムータリアスでボブさんたちに使わせてたじゃない」

「あー、個人携行のMLRS?」

 あれはアレでイネちゃん、他の人が使う前提で生成したからなぁ。

 それにあれを地球で、イネちゃんの力以外実現しようとすると間違いなく費用対効果の面で米軍でも作らないし、作ったとしても少数配備で終わるだろうからね。

 それだけあれを実際に作ろうとするとお金の面で各方面から間違いなくストップがかかるのである。

「そう、あれなら誰でも使えてしまうわけだし、何よりイネを工場と見立てればそれだけの軍備は最低限整えられるってことだからね」

「あぁうん、確かにイネちゃんがあれを作ることだけに集中すればってのはあるけれど……それでも1日で作れても30個くらいだよ」

「いや十分じゃないかな……結構戦略兵器的な扱いになりそうだし」

「個人携行戦略兵器って括りにするには威力が足りない気もするけれど……」

 せいぜい戦術兵器だと思ってるイネちゃんとしてはちょっと以外な発言である。

「まぁ、定義するなら戦術兵器だな。個人携行とは言ってもあくまで通常兵器の範囲だからな……まぁ大量に並べたら戦略の域になるのは否定しないが」

 ムツキお父さんが補足しているのかよくわからない説明をヨシュアさんにしたけれど、ヨシュアさんはまだ納得できていない感じ。

「うーん、地球の定義で言えば……あぁそうだ、オベイロンだって定義の上では戦略兵器には入らないんだよ。戦略兵器っていうのは相手国の基盤を根元から破壊してしまうものだから、単純に破壊できていないってだけであれは戦術兵器扱いになるんだよ」

 その点核による攻撃は爆心地が長期間使用不能になるからこそ、戦略兵器と呼ばれるわけだからね。

 まぁ最も、大陸限定で核兵器ですら戦術兵器の領域にぶち込まれちゃうわけだけど。

「とは言え戦術兵器でこうまで好き勝手されると、我々としても困るので政府はあれを非人道戦略兵器と呼んでいますがね」

 と、唐突に米軍の連絡役の人が現れた。

 名前はなんだっけか……そういえばイネちゃん、まともに自己紹介してない気がする。

「相手に動きが?」

「あぁいえね、自衛隊宿舎から不思議な光が見えましたもので」

 そう言ってイネちゃんの周囲に浮かんでいる超兵器に視線を移すと。

「なる程なる程、大陸の方が特殊能力で生み出した兵器ですかね」

 ムーンラビットさんとは違った感じの飄々としたという表現が似合う中年のこの人はそう言ってイネちゃんに近づいてきて。

「触っても?」

 イネちゃんに許可を求めてきた。

「いいですよ。複製しても使えないですし」

「ではお言葉に甘えて」

 そう言って恐る恐る……ではなく、結構がっつりと浮いている兵器に触ると驚くような声を上げながら数分触り。

「それで、これの威力ってのはどんくらいなんで?」

「イネちゃんが普段撃ってる狙撃のビームより威力は低いですよ。あくまで補助兵器なので」

 それでもビームであり、自立して3次元的に目標を全方位から攻撃できるのでここに駐屯している米軍の部隊よりも短期的な戦闘能力では高いかもしれないけど……まぁそれは兵器の性質問題だからここでは考えないほうがいいか。

「なる程なる程、ということはお嬢さんも今後は前線に出られるので?」

「これは電池式みたいなもので、充填に時間がかかりますから毎日というわけには行きませんけど、これを使う場面であるのなら接近する必要がありますので」

「おっと、聞いていないことまでありがとうございます。ということは充填されたものであれば我々にも?」

「使えません。制御するのに人間の脳の使ってない部分まで使った上に、これを構成している空想粒子と直接やり取りしないといけないので現状、地球人類はおろか他の世界を含めてもイネちゃん以外には扱えないです」

「んーすみません、私、ハイスクールまでしか出てないんでもうちょっとわかりやすく説明してもらっていいですかね」

 むぅ、なんだかやりづらいというか、説明をもっと砕いてやらないといけないのか。

 とは言ったものの、手足を使わずに脳波コントロール系のものをどう説明したものか……。

『イネ、私に任せてもらっていい?』

 イーアがそう言ってくれたので、イネちゃんはとりあえず交代する。

 でもイーア、どうやって説明するつもりなんだろう。

「えっと……私から電波が出てる感じで、あれはドローン。で、ドローンを操作するのは私の脳波ということです。ドローンでわからないようでしたら、浮いているのは全て携帯端末で、私が親機であると思ってくれればいいです」

「ほうほうなる程……つまり電話の親機と子機みたいなことでいいんですかね」

「はい、それで問題ないです」

「なる程なる程、わかりやすい説明ありがとうございます。それで……どちらが本当のあなたなので?」

「どちらも私ですよ?」

「これは失礼、ではあなたのお名前も一ノ瀬イネで問題ないので?」

「混乱しないようにイネで統一してます」

「ふむ、ではあなたは本当のお名前があると、そういうことですね」

「そうですが、今私の名前がコレと何か関係があるのですか?」

「おっと失礼、名前で操作しているわけではないのでしたね。どうもこれは職業病みたいなものなので、謝罪しますよ」

 うーん、やっぱり調子が狂う。

 イーアと代わったことを初見で見抜いたっていうのは、調査とかを主な任務にしているような人ならそう珍しいことでもないけれど……探ろうという意図を前面に押し出してきてるのがわかるのに、口調やら頭が低いからどうにもね。

「しかしまぁ、あなたのお名前はどうしても教えてもらえないので?」

「知りたがりですね……地球でも私のような人間、確かに珍しいけどいないわけじゃないでしょ?」

「それはそうなのですが、民間人を守る乙女だのなんだのいろいろプロパガンダに使いたいとかいう連中が多いんで、イネさんだけ前面にっていうのは不公平だとか、心の中で不和が起きないかとちょっと思いましてね」

「先ほども言いましたが、私とイネは合わせて1人の人間なので、そういうのは特にないです」

「あぁいえ、お気を悪くされたのなら重ねて謝りますがね、私が知ってるケースは1つの体に2つ以上の心がある人というのは、どうにも自己矛盾みたいにお互いを攻撃するのが少なくなかったもんでね」

 ここでイーアは急にイネちゃんに交代してきた。

 いやまぁすごく疲れているのはイネちゃんからもわかるからいいんだけどね、うん。

「まぁイネちゃんとしても別にお互い主導権をとか考えてないので。そういう心配は大丈夫です」

 そもそも、イネちゃんもイーアもお父さんたちに助けられなかったらここにいないからね、むしろお互いがお互いを必要だと思っているのだから矛盾もなにもあったもんじゃないし、どちらが先だとかもないんだよね。

「じゃあ我々が背中から撃たれる心配もしなくてよいと」

「あなたたちがゴブリン側についたり、利用しようと思わなければ、はい」

「ま、確かに。あれが兵器だと聞いたときにゃ軍部で逆に利用しようという動きもあったとは聞いてますが、あなた方の協力を取り付ける条件がゴブリンに頼らないでしたから、既にその路線は消えてると聴いてるんで、安心してくださいな」

 不敵に笑うその人を見て、イネちゃんはやりにくさを感じながらこれだけは聞いておかなきゃと思い、質問をする。

「それで、とりあえず聞いていいでしょうか」

「はぁ、なんでしょう?」

「あなたのお名前、聞いても?」

「おっとこれは今日一番の失礼でした。私、元ニューヨーク市警の刑事で、こういうものです」

 そう言って一枚の紙、名刺を手渡してきた。

「本当なら口頭と手帳を見せるべきなんですが、オベイロンが暴れて仕事場が壊れちまった時に手帳がなくなっちまいましてね、今一応の所属が軍の広報部ってことで勘弁してくれないか」

 名刺には急増だったのかブロック体でゴードンと記されていた。

「日本の方にわかってもらえるように……いやぁ合ってたかちょっと不安なですがね。私の名前はゴードンといいましてね。ファミリーネームは……まぁこの際いいでしょう?」

 そういうゴードンさんは、やっぱりちょっと怪しい雰囲気を醸し出しているのであった……まぁ、この手の人はやり手ってことは多いし、警戒しつつも今は頼りにさせてもらおう。

 今回はただ質問されただけなんだけどさ、うん。

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