第340話 イネちゃんとライン維持
イネちゃんたちがアメリカに到着してから、既に2週間の日数が過ぎていた。
到着するなりすぐに東海岸から西海岸へと逃げてくる人たちを追撃する部隊との戦いに駆り出されて、日記を書く余裕すらなくなっていたのでちょっと日が空いてしまったけれど、ようやく戦況が落ち着いてきたので日記を再開。
いやなんというか再開するのはいいのだけれど……状況が大変よろしくないことに転がっていて、イネちゃんたちを運んだ自衛隊の船は逃げてきた人たちを乗せられるだけ乗せ、食料や燃料の補給が済み次第日本へと戻っていった。
そしてイネちゃんたちは今、グランドキャニオンの近くに作られた野営地で一時の休息を満喫しているのだけれど……。
「イネ、オベイロンだ」
ムツキお父さんの声でイネちゃんは即座に立ち上がり、地平線も見渡せるポジションに付く。
「いつもどおりイネはオベイロンをビームで狙撃、他の連中が雑魚を片付ける」
「何匹?」
「5匹だ、順調に増えて行ってるがアメリカで確認された総数からしてみれば一部もいいところだが、少しは減らしていけてる分、マシだな」
ムツキお父さんと状況を確認しながら、イネちゃんはここ数日で慣れてしまった狙撃タイプのビーム兵器を地面から生成して、狙撃体勢を取る。
「観測、いるか?」
「いや、ムツキお父さんは皆の指揮をお願い。というか隊長が現場指揮とってないのはおかしいでしょう」
「そうか、じゃあ頼んだ」
そう言うとムツキお父さんはイネちゃんから離れて皆のところに走っていった。
ちなみに渡米した面々は分隊して交代制で対応している。
ロロさんを中心とした足止めチームと、ヨシュアさんを中心とした押し返しチームで、ロロさんは文字通りオベイロンの進行を押しとどめることができる面々。
ロロさんを隊長としてリリアとキャリーさん、ジャクリーンさんが中心で米軍と合同で作戦を行う。
ヨシュアさんのチームはハイロウさんを隊長として、攻撃的なメンバーで囮や物理的な障壁とかでオベイロンを力づくで押し戻すようなスタイルをとっている。
ヨシュアさんたちの方は米軍がついていけないような超常ばかりで運用しているから、こちらは合同ではない。
そしてイネちゃんはと言うと……。
「まぁ当然1人だよねぇ、ビーム自体イネちゃんしか使えないし、同等の火力を急増できるわけもないから」
結局のところ、レールガンは実用されていない上に、試作品も消費電力の問題からこの場に持ってくることができないため、ここの戦線で対オベイロン最終兵器になるのはイネちゃんだけなのであった。
でもまぁ、ラスベガスとか他の地域では運用しているらしいので、対応できるのならイネちゃんがそれを望むのは間違いか。
心の中でちょっとした愚痴を漏らしつつ、銃のスコープを覗き込むと地平線を塗り替えるようにオベイロンを前面に押し出すいつもの陣形。
そしてイネちゃんがやることもいつものこと。
『とにかく胴体を撃ってオベイロンの足を止める』
「わかってる、いつも通り」
私は深呼吸をして、大きく息を吸ってから止める。
狙撃をするときにはまだイーアと連携しないと、私の実力では連続狙撃の成功率はそんなに高くないんだよね、毎日同じように狙撃しているのに殆ど上達しないのは本当自分でも不思議。
私が引き金を引くと、長射程でも減衰が低い感じに重金属粒子が圧縮されて発射される。
いつもオベイロンに使っていたビームは、そもそも質量がとてつもなく大きなレベルのものを、垂れ流していたか、超高濃度圧縮して射程が短くなっちゃってたものだから最初はあまりビームの材料になる重金属粒子の量で心配になったものだけれど……。
発射されたビームはオベイロンの腹部を貫いた。
圧縮、縮退の方法と発射の際の保護の手段でビームの貫通力と熱量を維持したまま超長距離狙撃ができるのは、イネちゃんとしても垂れ流すような使い方をするよりも省エネで楽ができるので助かっている。
『イネ、他のも』
「わかってる」
イーアに促された私は狙撃を速射して他のオベイロンの胴体にも穴を開けていく。
これでオベイロンが倒せるのなら楽なのだけれど、この胴体撃ちはオベイロン自体を自己再生を始めさせて足止めのための狙撃。
これで他のゴブリアントを戦車と見立てた歩兵部隊をこちらの通常兵器の米軍と、今日は……ヨシュアさんたちだったか、そちらとの連携という形になっている。
ただ、これもオベイロンの数が少なかったから成立していたのだけれど、5匹というのはちょっと間に合わないかもしれないし、止めを刺すための制圧射撃に移ることもできない。
「やっぱりオベイロンは厄介だってことか……」
倒せる人間が少ない上に、少ないなりにもそれぞれ差があって、私は倒せる人間の中でも下だからね、ササヤさんみたいに問答無用で殴り倒すこともできないし、ヒヒノさんのように存在自体を焼却処分することもできない。
私にできることは、確かに普通の人には現時点では不可能なことばかりではあるけれど、アニメとかの空想物を使っているだけで将来的に実現不可能かと言われると絶対に無理とは言えないものになる。
最も、実際人類が重金属粒子を圧縮・縮退させるタイプビームを選ぶのかとかそういう問題はあるけれども、究極的には人類が再現できなくはない領域でしかない。
防御力だって、実のところ岩盤とか、それでも足りなさそうなときにはこれも空想物で賄ったりしているんだよね、宇宙船の装甲板とかそういうもので。
私がやっていることで人類が再現できない部分は、地面と一体化したり、まとめて肉体を蒸発させられそうになったときに同化して存在自体を世界に存在確定させるっていう超常的なものくらい。
この辺はどうもヌーリエ様の力の一部そのままらしいので、この辺の能力が私特有の能力と言えるかもしれないくらいだね。
『イネ、集中』
「ごめんごめん……でも、このまま狙撃していても戦況が変わらないから、どうしようかなって」
イーアと会話しながら戦場全体を見渡す。
戦況はオベイロンを止められているゴブリン側の雑魚がこちらの戦力にすり潰されていて、ぱっと見膠着していないように見える。
でもそれは相手の最大戦力であるオベイロンが動けない状態だからこそで、米軍が大陸の戦力にすがった理由であるオベイロンが動き出してしまえば状況は一変してしまうから、こちらが有利となるにはオベイロンを落とさないといけないわけで。
「イーア、諸々の制御、投げていいかな。ちょっと試したいことがある」
『いや何やろうとしているかわかるけど、そんな消耗激しそうな奴は次に響くって』
「できるだけ省エネで、少しづつ、現状を維持しながら作るから……」
私はこれまた例に漏れず、コーイチお父さんの持っていたアニメに出てきたロボットを頭に思い浮かべる。
とにかく、1度に多数を攻撃できる上に狙撃もできる感じのロボット……確かアニメでもサポートロボが居て始めて使ってたんだっけか。
私だってイーアがサポートしてくれるわけだし、なんとかなる……はず。
ただ問題としては今頭に思い浮かべている武器は武器単独で自立的に飛び、ビームを撃つことができるものである。
ビームの制御はイーアに丸なげで問題はないのだけれど、武器単独で空を飛ぶなんてものはそのアニメの不思議粒子で持ってなされるものなわけで……それを私が再現できるかどうかは、とてつもなく怪しい。
先日のムータリアスでやった爆撃は、地球の物理学と航空力学に反しないジェットエンジンだったし、私が直接乗り込んで制御していたわけで……今回はその直接触れるという点においても満たせないものだから、どうしたものか必死に頭を回転させる。
いっそ、粉塵とかを巻き上げて高密度にした上で粉塵経由で制御をするかどうか……試してもいないことを確実性の高い作戦として考えるのは流石に無理かな、やろうとしていることのほうが確実性も何もないものだけれど。
『すみませんでした、ちょっとココロちゃんたちの方をお手伝いしていたもので……それで今イネちゃんがやろうとしていることですが、流石にその粒子は私の力では再現がちょっと難しいかと……あらかじめ生成しておいて電池のように蓄えるのでしたら、なんとかなるとは思うのですが』
ヌーリエ様がココロさんたちの方を手伝っていたのか……あっちも大変そうだなってそれは再現ができるというのではないだろうか。
『いえ、永久機関としての生成は不可能です。一時的に再現することはできるでしょうが、流石に地面から離れてしまうと……』
そもそも接地していれば永久機関も同じなので、そういう制約は当然か。
となればちょっとやろうとしていることを変えないといけないけれど……。
『圧倒的多数のミサイルで飽和攻撃をすればいいのでは?』
……ヌーリエ様が神様ならぬような科学的、戦略的な究極解を提示してきた。
ともあれヌーリエ様の提案だし、核ではないにしろ威力高めの小型ミサイルを、これまたお父さんたち全員が好きな可変ロボットアニメのように戦場をミサイルで埋め尽くす感じでやるため、ムツキお父さんに連絡を入れる。
「今からオベイロンを固めて飽和攻撃をするから、戦闘ラインをできる限り下げて。下がるのが無理そうな部隊があるのならその報告もお願い」
でもそうか、アレも短時間限定で再現できるのか……今後の戦闘は結構楽になりそうだし、ヌーリエ様に教えてもらいながら作って充電もしておこう。
でも、一応安全のために制御は私を通さないとできない形にするけどね、うん。
そんなことを考えながら、撤退支援をして、戦場を絶え間ないミサイルで埋め尽くすことで今日の戦闘を終わらせたのであった。
ミサイルの飽和攻撃も、小型なら思った以上に消耗が少ないこともわかったので唐突なヌーリエ様の登場は本当ありがたかったね。
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