第329話 イネちゃんと爆撃

「と、いうわけでガワだけとりあえず作ってみたのだけれど……」

 ガワだけとは言っても、燃料系やジェットエンジンやアタッチメントパーツ、操縦席は……まぁイネちゃんが全部操縦系を担当するから別にいらなかったのは事実だけれど、それはそれで問題になりそうなので改めてシートを作りたいのだけれども……。

「全部金属製じゃない可能性を失念していたんだよねぇ……」

 いやまぁイネちゃんなら居住性ガン無視しても大丈夫と言えば大丈夫なのだけれど、シート以外にも配線周りの絶縁体を用意することができなかったのが痛い。

「ダメだったのですか?」

「うーん、無理やり飛ばすのはできると思う。問題はすぐに自爆しちゃう可能性が高いってことかな。それ相応の絶縁体があればいいんだけれど……」

「絶縁体……?それは一体どういうものでしょうか」

 クトゥさんですらこの有様なので、ゴムは完全に高望みだし、代替品になりそうなものもパッとは思いつかない。

 むぅ……ここに来てこんな基本的なことをど忘れしているなんて詰めが甘いどころの話じゃないよね。

『石油は絶縁しますよ』

 あらヌーリエ様、ビームキャノンの時はお世話になりました。

『可燃性であるために勘違いされますが、多くの油は絶縁ですよ。他にはガラスも該当しますので、イネちゃんが使うとしたらガラスが一番簡単だと思います』

 そうなのか……。

『ただ大きくなりやすいので、少し消耗が激しくなりますが雲母うんもやセラミックが適当かもしれませんね』

 雲母……雲母……パッと思いつかない!

 あ、思いつかないと思った瞬間ヌーリエ様が懇切丁寧に頭の中に加工映像まで流してくれてる……手とり足とりなんでも助けてくれる神様ってなんというか凄いよね、うん。

 イネちゃんはこれ以上の表現方法はなんとも思いつかないので、今はこれ以上はなにも言わず考えず、神様の言うとおりという表現がしっくりきすぎる流れでF-5の配線系を作ってしまおう。

「えっと、何やら始めたようでありんすが……」

「あぁヌーリエ様が問題の解決方法を教えてくれたので進めてるんですけど、鉱物資源のほうで絶縁体があるって教えてもらって、しかも結構幅広く活用されてることにびっくりしてる最中です」

 絶賛脳内で映像再生中である。

「ヌーリエ様……確か主神のことでありんしたか?」

「主神かどうかはイネちゃんは詳しくないですけど……まぁ信じている人が一番多い神様だと思いますよ」

 衣食住保証の上に子孫繁栄まで守ってくれるご利益に、それを実際に神様自身が介入してやってるわけだからねぇ、よほど信心深くないような現実的な人だって信じざるを得ないもの、そんなのだから大陸では宗教戦争が起きたなんて歴史が全く記されていないんだよね……まぁヴェルニアの書庫で読んだ範囲ではだけど。

「ま、あの子だって自然が必要以上に壊れないように、時折天災を起こしたりしてるんやけどね。そういう畏れも合わせることで神様として威厳も保ってるんよ」

「あらムーンラビット様、あちらは大丈夫なんで?」

「イネ嬢ちゃんのお父さんらがヒャッハーしてていくら強力な飛び道具持ってても近づきずらい状況が生まれててな、私が指揮するにしてもあのボブとかいうイネ嬢ちゃんのパパの1人が結構的確に指揮をしてて、やることなくなったからこっちに来たんよ」

 張り切ってるなぁボブお父さん……。

 元々重火器の運用が得意だったらしいから、今みたいに重火器を制限なしで撃てる環境でテンションがハイになっているんだろうね。

「ともあれできそうやね、絶縁体に関してちょっと私も気になってたんで解決したっぽくてよかったよかった」

「ちょっと線が多いところはいっそガラスで対応したから。機体重量がちょっと増えそうだからあまり好ましくはないけれど、対面するだろう戦闘機が相手にいないからね」

「ま、高射砲もないやろうからな、好き放題やってくるとええんよ」

「オベイロンがまだいる可能性もあるから、好き放題とはいかないかもしれないけど……お休みのために全力を出すよ!」

 できればリリアもお休みで、一緒にゆったりお茶でも飲みながらゴロゴロしたいけれど、流石にリリアのお休みまで重なることはない……というかリリアだってお休みないのだからイネちゃんも本来なら……。

「あーイネ嬢ちゃん、ちょっと思考がぶっ飛んでるみたいやしそのへんも考慮しておくんでちょっと集中したほうがいいと思うんよ。ほら変なの生えてきてる」

 え、変なのってなに?

 ムーンラビットさんに言われて改めてF-5を確認すると、湯呑が生えていた。

 うん、どれだけお茶したいんだイネちゃん。

「まぁ、配線を残すだけだったから……とりあえず燃料入れてナパーム2発、クラスター1発積んで過積載出撃するよ」

「地球だと禁止兵器だったか?」

「うん、非人道だからって。正直ムータリアスで使うとその非人道が全力で目立ちそうだけど……」

「ヌーリエ教会的には割とアウトな代物やなぁ……まぁイネ嬢ちゃんの普段使いしてる勇者の力で運用してる兵器群のほうがよっぽどやし、ここは目をつむっておくんよ。最初の1発で抑止力を示しておけば後は使わなくてよくなるしな」

 特にナパームは生きたまま火葬するレベルだからね、クラスターに関しては関係ない人を巻き込む可能性が高いってだけなので、今後も超広範囲をカバーする必要がある場合はイネちゃんも使うかもしれないので、そっちは後で説得してみよう。

「ん、クラスターのほうは別に問題ないんよ。まぁ市街地とかで使いだしたらお仕置きするが、使うつもりなんざこれっぽっちもないやろうしな」

「流石に市街地で今これに積んでる爆弾は使うつもりないよ……明らかな過剰火力なんだし、あちらさんの初めての重火器ヒャッハーなテンションを折れれば、それでいいし」

 やるなら徹底的に。

 これはボブお父さんだけじゃなくムツキお父さんからも散々訓練中に言われたことで、中途半端に終わらせると復讐を絶対考えるから、武器を持って危害を加えてくる相手には速攻で無力化するか、徹底的に完膚なきまでに叩き潰せって言われたからね。

 正直相手にテンションを折るだけなら、お父さんたちに任せたMLRSだけで十分だと思うし、それこそイネちゃんがビームを拡散させて戦場全域にビームのシャワーを降らせればいいお話になる。

 ただそれだとイネちゃんがいない場合は問題ないと思わせてしまうわけで……。

「地球側に攻めてる連中と同じなら、航空戦力は誰でも使えるものだって認識、持ってくれるだろうからね」

「自分たちが攻めようとしている連中が軒並み、そういった強力な武器を使ってくると思わせることで抑止力とする平和ねぇ。まぁ争いが絶えない世界なら仕方ない部分もあるが……」

 ムーンラビットさんがちょっと表情を曇らせる。

「大陸みたいな世界なら、むしろ皆が武器を捨てるって選択肢をしたほうが人同士の争いはなくなるのはイネちゃんだって思うけど……」

「ま、この辺は終わらんお話やな。そういう世界があるってのを知ってるからこそヌーリエ教会は武装しているわけやしな。ほら、行っといで」

 うーむ、この会話必要だったのかどうかと後から聞かれたら絶対必要なかったっていうあれだよね。

 お互いそのへん理解しているからここで終わったけど、これ後々意識の違いで苦労しちゃいそうな流れ。

 最もムーンラビットさんはその辺、思考を全力で読んでくるからあっさり流して日常に戻るかもだけど、後でもう一度お話してみようかな。

「あーイネ嬢ちゃん。その辺は既にうちら割り切ってるんで大丈夫よー」

「あ、まだ思考読んでたんだ……まぁ行ってきます」

 気を使わせてしまった……大丈夫と言われたのだから大丈夫ということにしてさっさとこの禁止兵器を戦場に投下させてしまおう。

「行ってらっしゃいよー」

「行ってらっしゃいでありんす」

「アスモデウスさん……意地悪は控えたほうがいいですよ」

 ん、なんかエンジンに火を入れる直前にクトゥさんが何か言ったような。

 もうジェットエンジンの爆音で聞こえなくなってるし、気にしない方向で行こう。

 イネちゃんはそう思いながら勇者の力で制御してF-5をムータリアスの大空へと飛び立たせたのだった。

 ちなみに爆撃のほうは想定通りの効果を生んで、とにかく突撃だ!みたいにして進んできていたクーデター軍は甚大な被害を出しながら後退していった……にも関わらずまた最初の位置に陣取ろうとしていたのでセカンドアタックをしようとしたところで、燃料がなくなったので1度カルネルに戻ったのだけれど……。


「イネ、なんで重要そうなところが書いてないの?」

「いやね、1人で必ず当たる攻撃をしているだけで、むしろ飛ぶための制御に苦労したなんて恥ずかしくて……」

 翌日、リリアと2人揃ってお休みをもらえ、日記を書いている最中にリリアにツッコミを入れられて、二重に恥ずかしい思いをすることになったのだった。

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