第328話 イネちゃんとはしゃぐお父さん
「おーい、A-10は流石に現行兵器だからって理由で却下されたが、型落ちのF-5ならいいって言われて設計図一応もらってきたが……」
「は?A-10がベストなのはわかりきってるだろうに……役に立たねぇな。だが今俺は大変ご機嫌だ。イネに感謝して改めてこいつを持って交渉してこい」
「なんだこれ、ミニチュアか?」
「実際に撃てるぞ。威力も個人携行武器にしてみればかなりご機嫌だ」
ルースお父さんが帰ってきたのはいいけれど、どうやらA-10は無理だったようだねぇ。
いやまぁ採用されてから今まで、F-35が実戦配備されてきているにも関わらずにずっと引退が無期延長のままの機体だし……他に漏れて作られたら大変だってことで渡せないってことなのかな、うん。
「お、マジか。イネ、俺も試しに撃ってみていいか?」
「いいけど、ちゃんと戦場に向けて撃ってね?」
「流石にそんなミスはしねぇ……これどっちが前だ?」
うん、ルースお父さんはそのミスをする前提で考えてたから、イネちゃん驚かない。
「ルース、おめぇ入隊してからずっとそこは変わらねぇな」
「おぅおぅボブの中で鬼軍曹が目を覚ましてんのか」
「てめぇが学習しねぇからだろ!ほれ、こっちが前!発射方向はここから多連装ミサイルが出るから、後方の安全確認はしっかりしろ!てめぇの後ろには大勢の子供がいることを忘れるな!」
「このフレーズも懐かしいもんだ……了解しました軍曹殿!」
このやりとり、イネちゃんが訓練に混じってた時に聞いてたなぁ。
戸籍的に宙ぶらりんだったイネちゃんがあれこれ裏口使って訓練受けてたから、お父さんたちの基地に配属されてた人たちやその家族とはそれなりに顔見知りになったんだっけ。
カイン君やジュリーちゃん、元気かなぁ。
ボブお父さんの言う子供達っていうのは子持ちが多かったからっていうのもあるけど、イネちゃんがいたことでより守るべきものを認識させやすかったからっていうのが一番だったらしい。
大勢の子供がいる……至極当然だけど戦場だと忘れがちになる上に、相手の陣地に突入するから相手の状況だけを見ることになって戦っている意味を見失う人が多いとかなんとか。
「ヒーハー!確かにこりゃご機嫌だ!」
「オラオラオラ!ゴブリンなんかに頼らずかかってこいや!」
うん、ルースお父さんとボブお父さんがご機嫌でなによりです。
ただこれは……お父さんたち設計図のことを忘れそうだなぁ、ボブお父さんは大丈夫かもしれないけれど、ルースお父さんはがっつり直前のことですら忘れることがあるお調子者だから。
とりあえず今あるF-5の設計図……ってコーイチお父さんがぼやいてたけど、これって予算見直しで中古購入したとか言ってたような。
むしろいろんなところに作らせて値段削減を狙ってるのかな、F-5の性能なら自衛隊の魔改造っぷりでもなきゃ現状戦力補助にしか使えないとかなんとかオタクなコーイチお父さんの見解だけどそんなことを聞いたような。
「そのへんの事情は私にゃわからんが、ヌーリエ教会に対していくつか兵器を売りつけようとしてた連中も少なくないかんな、その中にこんなのあった気がするんよ。そういうわけやし、イネ嬢ちゃんの考えているような事情も相まって渡されたんじゃないかね」
「異世界に対してコストダウンを求める大国か……割と笑えない事情だなぁ」
「ま、軍は維持費がかかるかんな。その上で今のムータリアスのような事案や、地球で起きてるゴブリンの襲撃なんてのにも備えなきゃあかんし、予算は有限やからどうしてもな」
「世知辛い……それはそれとしてとりあえずルースお父さんの持ってきた設計図で戦闘機を作って爆撃、試みてみるよ」
F-5で爆撃……設計図を見ている限り空対地系の装備もあるみたいだけれど、どういうのが一番適しているのだろうか。
というか炸薬をイネちゃんが生成する場合、植物系や動物系の成分が使われてると再現できないからちょっと辛いんだよね。
「そっちは一応燃料と一部弾薬はもらえたらしいかんな、設置に関しては適当に人を使ってもらってええんよ」
「いや戦闘機の弾薬ともなれば人が手動でって難しいどころの話じゃないんだけど……」
すごく重いし、コンピューターで色々制御するから……。
「あー!?コンピューターのソフト側!」
イネちゃんの能力の欠点、生物関係のもの以外にも複雑な電子制御系の再現は勇者の力でイネちゃんが補助しないと動かすことすらできないというもの。
プリンターやコピー機みたいに単純動作するものならなんとなくで代用したりして再現できなくはないのだけれど、流石に軍事機器の電子制御満載な戦闘機なんてものは再現できない。
つまり、イネちゃんが搭乗すれば動かせる劣化品しか作れないのだ。
「ん、イネはそっち系ダメだったか?」
「使うのはいいけど作るのは無理だよ!」
コーイチお父さんがいればできるかもしれないけれど、ムータリアスにきているのはボブお父さんとルースお父さんで、どっちも使う側だから今回のケースでは頼りにできない。
ムーンラビットさんだって知識はあるかもしれないけれど、その知識を実際に運用するのはやったことないだろうし、そういう点ではやはり頼りにすることはできない。
イネちゃんがどうしようか必死に考えていると、ムーンラビットさんがイネちゃんの肩に手を置いて。
「イネ嬢ちゃんが全部やるしかないな」
そういうムーンラビットさんの笑顔は、とても綺麗なものだった。
イネちゃんが全部制御系を代わりにやれば、そこの問題は解決できるのは事実で、できてしまうのが問題なのだ。
「イネ嬢ちゃんがゆっくり休めるように人材の確保はしておくからな、うん」
「その優しさは今ちょっと辛い……」
だけどやらざるを得ない以上、傭兵として受けた依頼内容に含まれているということでやらざるを得ない。
ムータリアスに来てからイネちゃん、まとまった休みって、そういえばなかったような……いや厳密にはあったんだけど、結局何かしら事件に巻き込まれていたような感じだったし、治安責任者だったからお休みでも気を抜くことができなかったっていうのが一番大きいところだったんだよなぁ。
うん、もうここは今のムーンラビットさんの言葉を信じて、これでもかってくらい過剰に信じて全力で爆撃してやる!
「あー……イネ嬢ちゃん、そこまで期待されると私ちょっと怖いんやけど」
「それじゃあ行ってきます!滑走路に関しても無理やり作るけど、きっとムーンラビットさんが事後処理してくれるだろうし!」
「え、流石にそこまでは……」
イネちゃんはそこは聞こえない振りをして走り出す。
ルースお父さんの持ってきていた設計図に関しては既にスマホにデータを移しているので大丈夫だし、あとはイネちゃんの生成速度だけ……なんだけど、あの個人携行MLRSを相応量量産しておいたのでもしかしたらヒャッハーしてるお父さんたちが大半終わらせてしまうかもしれない。
となると爆撃は必要なのだろうかという疑問にわき上がってくるけれど、そこはそれ、イネちゃんはまとまったお休みのために今できることを全力でやるだけのことである。
ともあれまずは教会の転送陣まで行って装備と燃料を受け取らないといけないか。
そう思い急いで教会まで走ったのだけれど……。
「あ、イネ!準備できてるよ!」
リリアがドラム缶を転がしながらこっちに手を振ってきた。
もう搬出終わってたんだ……普通にナパーム弾とかクラスター……ってこれ地球で人道問題で使用禁止になった弾薬ばかりじゃん。
F-5で運用可能な範囲で、無誘導系ばかりだけれどそれでもかなりやばい代物ばかりが陳列されている感じでイネちゃんはちょっと言葉が出てこない。
「リリア、これ全部危険物だからね?」
「うん、ルースおじさんからちゃんと聞いたよ。扱い方というか運搬方法とか色々」
ルースお父さん、こういうところでサボるんだね。
いやまぁ確かに正しい運搬をすれば全く問題ないし、そもそもちょっと乱暴に扱っても問題ないものだけどさ、素人に全部丸なげは流石にイネちゃんどうかと思う。
「とりあえずこれを魔王軍側に移動させて……結構大きいし、なにより飛び立つのに長めの滑走路が必要になるから、今それを確保できるのが魔王軍側の領土だから」
「なる程、それなら私たちで運びましょう。この街は双方の友好を示す重要な場所ですからカルネルを守るのは我々としても当然のことです」
クトゥさんがどこからともなく……というよりは弾薬の後ろに隠れていたらしく、そう提案してくれる。
「あの男性から正しい運搬方法は聞いております。振動を避けて移動させればよいとも。それならば……」
「私の出番でありんすよ」
ハイロウさんの声が空から聞こえて、丈夫そうな束ねられた縄をいくつか垂らし始めた。
「私は既に四天王を退いて、文化交流大使を襲名しましておりんす。今後とも宜しくお願いありんすよ。それではお前さんたち、これをカルネル東部、居住区予定地まで丁寧に運び込むんでありんすよ!」
ハイロウさんが号令を出すと、地球で言うところの天使のような人たちが燃料の入ったドラム缶を載せている土台に縄を器用に巻きつけてから持ち上げ始めた。
なんというか……地球でもヘリを複数台用意して空輸する姿は見たことあるけれども、それをムータリアスでそれっぽいのを見ることになるなんて思いもしなかったよ……そもそも必要になるとは思いもしなかったからね。
ともあれ、ここまで周りの人達がお膳立てをしてくれているのなら、イネちゃんだってお休みのために頑張らざるを得ない。
待ってろ!お休み!
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