第318話 イネちゃんと王様討伐

「と、いうわけでイネ嬢ちゃんには単独でアレを止めてもらうんよ。少なくとも足止めできればそれで十分やから無理に倒そうとせんでもええよ」

 イネちゃんが監視塔から降りると同時にムーンラビットさんが指示してきた。

 ……いや、これはお願いかな?

「アレ以外のところで勝てばいいってことかな?」

「ま、イネ嬢ちゃんを張り付けにする罠だろうが、こちらで今アレに対応できるのはイネ嬢ちゃんしかいないかんな、乗るしかないんよなぁ」

「想定外が起きたら?」

「ウチラが全部やる流れはやっちゃいけないが、カルネルに手を出す場合どういう目になるのかを教えるのはやる必要があるかんな、ちょっと派手なのを1発お願いできるかね。それでも撤退を始めなかったら私が出しゃばるんよ」

「まぁ、カルネルにはアルスター帝国亡命政府があるけど、今でも管理で言えばヌーリエ教会だしね、そこを攻めてきたってことはヌーリエ教会に攻撃したも同じだよね」

「そゆこと。ただそれでもあちらさんは亡命政府を倒そうとして行動を起こしたかんな、まずはそっちで対応をしてもらってからという体面取らないとそれもそれで問題だったわけよ」

 まぁつまりもっとオベイロンが出てきたらヌーリエ教会とギルドの戦力を全面投入するってことだ。

「そういえばムーンラビットさんあのマッドゴブリンだけど、正式名称はオベイロンだって」

「随分醜悪な妖精王やなぁ、本人が見たら泣く程度で済むと思うが、ティターニアが聞いたら腹抱えて笑うやろうな」

「あ、はい」

 アスモデウスやってたのなら知り合いでもおかしくないか。

 でもまぁ……女性上位なのは妖精界でも似たようなものなんだね。

「とりあえずイネ嬢ちゃん、急いでもらってええかな。流石にそろそろアレ単独で戦線ラインが一部完全崩壊しそうやし」

「え、もうそんなに崩壊してるの?」

「割とな。まぁ実際地球で言えば大型戦車で歩兵しかいないところを蹂躙しているようなもんやから当然よ」

 ロロさんはその戦車を短時間ながら止められるんですが……大陸の通常戦力も極めればってところなのだろうか、ココロさんの勇者の力を使わない通常攻撃とか極めすぎた感じだし。

「じゃあとりあえず急いで向かうけど……他に注意事項とかあるかな、核兵器を使わないっていうのは大前提として認識はしてるけど」

「大型固定兵器系も範囲的には勘弁な、戦車とかに乗っけるタイプもアウトと思ってもらってええよ」

 むぅ、かなり制約が大きい……これは本当に持久戦というかイネちゃんが耐えておくことしかできないかもしれない。

 いやまぁそもそもイネちゃんが勇者の力でどうにかしてようやく使うことができるビーム兵器を銃口を空に向ける形なら大丈夫かもしれないけど、それで倒しきれるかどうかわからないし、なにより単純な一点突破の貫通火力は現代の核兵器よりも空想のビーム兵器だしなぁ、イネちゃんにとっては切り札とも言えるから隠しておきたい気もする。

「別に使わんでもええんよ、今回は勝利が絶対条件じゃないかんな」

「でも相手を撃退するっていうのも勝利に定義されそうなんだけど……」

「相手は虎の子を失わなってないから痛み分けが妥当やな、まぁ有効ではないことを証明された以上はあちらさん不利での痛み分けになるんで、そこは気にせんでええんよ」

 何か思惑がありそうだし、これ以上話している余裕もあまりないからね、早くオベイロンを止めないと。

「それじゃあ行ってきまーす」

「はーい、行ってらっしゃいよー」

 なんとも軽い、緊張感の無さで見送られたけれどまぁ……実際イネちゃんがやられるとは思えないってことだろうからね、うん。

 己の力は過信しないけれど、かなり強い力を持っているのなら多少自惚れないといけない……とかそれっぽい感じの言葉を考えてみたけれど、実際自惚れないとこんな責任重大で死なないことが最重要な、相手の最強兵器とタイマンなんてできないから案外的を得ている気はしているんだよね、誰にも言ったことはないからイネちゃんの思考を読める夢魔の人たちでもない限り同意も否定もしてもらえないけど……今度ふざけてもいい場で言ってみようかな。

「た、たすけ……」

「あ、ごめん。イネちゃんは急ぐから……と味方か、だったら最低限の治癒だけするから後方に移動してねー」

 味方にはすれ違いざまに勇者の力での治癒をかけて、敵はそのまますぐに絶命できるようにファイブセブンさんで頭を撃ち抜いていく。

 うーん、イネちゃんも明確な戦争ってそんなに経験してないはずなのに、ここまで淡々とできちゃうんだろう……いやまぁやらなきゃやられるっていう環境なのは、イネちゃんが勇者の力で基本的にダメージを受けないとは言っても変わらないからね、戦場でこんなこと考えるのが本来間違いなんだろうけれど……。

「あんた!ここから先は……」

「あれの相手をしに来たから大丈夫、わかってるよ。だからあなたたちは一時後退、重症の人間を後方に下げつつ、まだ大丈夫な人はオベイロン以外の戦力の相手を宜しく」

「え、い、いやでもあんただけ残すなんて……」

 というわけでイネちゃんは返答代わりに地面からRPG-7を生成、即ぶっぱなしてから。

「うん、本当に大丈夫だから早くしてね」

「は、はい……」

 流石にロケット弾の爆発でも一瞬怯む程度のダメージしかないのだけれど、味方を後方に撤退、敵の一般兵に関しても巻き込まれたくない一心でイネちゃんを狙わなくなるから戦場で1対1の環境を生み出すのにはすごく役に立つ。

「さてと……シックでは多分ヒヒノさんがトドメを刺したからね、イネちゃんも少しだけ狙わせてもらおうかな」

 倒せないにしてもイネちゃんで本当に倒せないのかどうかって試しちゃいけないとは言われていないからね、大量破壊兵器や現代の火砲……それにイネちゃんがすぐ頼っちゃうガトリング砲による釣瓶打ちは禁止されている以上はビーム兵器に頼ることになるのは仕方ないし、ここはいっそのことどこまで空想兵器を再現して運用することができるのか、実験させてもらうことにする。

 幸い相手は渾身のビーム兵器でも倒しきれるか不明な相手だし、的としてはこれ以上無い相手だからね、周囲に被害が出ない程度にやらせてもらおう。

 とはいえまずは普段遣いが出来そうなラインを調べてからにしよう。

「まずは……コーイチお父さんの持ってたアニメの、味方量産機が使ってたタイプで!」

 UZIくらいのサイズでコンパクトに収めたビーム兵器を思い浮かべると、武器の構造、見た目、外見はすぐに再現できる。

『はい、ここから私のビジョンをお見せしますので、イネちゃんは』

「再現に集中……」

 ヌーリエ様も威力抑え目のやつなら割とすぐに協力してくれる。

 まぁその分超威力の戦略級ともなればまず状況が合致しないと教えてもらえないということでもあるけれど、流石にオベイロン相手なら多少の空想兵器の生成はむしろ積極的っぽいかな?

 ともあれヌーリエ様のおかげで最初に試したかった簡易ビーム兵器が出来上がったので、丁度怯みから回復したオベイロンに向けて引き金を引くと、比較的軽めの音とともにピンク色のビームが発射されて着弾するも、予想通りあまり効果が無い。

 ただこれならイネちゃんの消耗もかなり少なくて済むし、普段使いする場合はこの辺が一番いいかもしれない……まぁ貫通力はビーム兵器相応なのでヘタをすれば必要以上に殺傷や破壊をしちゃうだろうし、敵地で、まとめてなぎ払うだの更地に変えるだのしないのならあまり使わないほうがいいか。

 そんなことを考えていると当然ながらオベイロンに、その質量を生かした振り下ろしで攻撃してくるけれど、イネちゃんは地面に足を同化させて即座に移動……そういえばこの移動、やり方としては地面を自由に操れるのだからということで意識して移動箇所を選択し、同化した場所を丸々移動させているだけである。

 人から見れば超高速で移動しているように見えるし、場合によっては瞬間移動しているようにも見えるかもしれないけれど、イネちゃん以外の人がこれをやったら絶賛空気抵抗で動けなくなるか、足がちぎれて悲惨な目にあうこと請け合いなので実質イネちゃんしかできない移動術……なんだけど、同様の走り方するヌーカベって、自分の上に乗ってる人を守ってるあたり、イネちゃんはやっつけな感じで動いてるだけなんだなと感じたりする。

「それじゃあ次は……ライフルで実験」

 収束率を高める形状に手に持ったビーム兵器を変えて、銃の側面にストックを生成し、両手でマウントする形でオベイロンの真下から銃口を真上に向けて引き金を引く。

 収束率が上がったことで貫通力が増し、オベイロンはその股ぐらから頭頂部まで完全にビームが貫通したのだけれど……。

 まるで脳やらの生物にはあってしかるべき器官が存在しないかのように、イネちゃんの攻撃を意に介さずに足を上げてイネちゃんを踏もうとしてきた。

「うんうん、イネちゃんを敵と認識して狙ってくれればそれでいいからねー。それじゃあ……もっと実験、付き合ってもらうよ!」

 このあと滅茶苦茶いろんなビーム兵器を実験してオベイロンを引きつけた。

 ……いや本当、これ以上に書くのが難しいくらいに戦場が硬直しちゃってオベイロンが後退するまで同じ感じだったからね、仕方ないよね。

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