第314話 イネちゃんと傭兵として
「今までの開拓チームはリリアの試験終了と同時に契約満了とはなったが、皆わかってると思うしちょっと省略してええかな?」
「いやそこ省略しちゃダメじゃないかな、主題だし」
「そっかー……まぁアルスター帝国は現在、クーデターが起きてうちらが女王アーティルを保護、ここカルネルで亡命政府を作りクーデター発生以前から予定していた魔王軍との和平調印を行い無事、亡命政府は和平を結んだんやけど、その直後にクーデター軍が攻めて来て女王暗殺を目論んだわけよ」
「えぇ!?」
ほら、キュミラさんが大きな声で驚いてる。
監視しろって指示に対してどうして監視が必要なのかとか理解してなかったよね、うん。
最も、知っていそうなのに驚いているヨシュアさんはもうちょっと世情に関心を持ってくれると、イネちゃん少しお仕事減らせるから嬉しいので、今驚くのはやめてもらって構いませんですかね?
「そこで追加の依頼。カルネルに新設したギルドに出しておいたが……亡命政府に傭兵として短期間だけど参加してもらいたいんよ。無論今回の場合は戦争に加担するってことやからな、傭兵登録してない連中は受けられないんでそこは安心して欲しいんよ」
「あ、そうなんッスね」
キュミラさんがホッとしたのは単純で、キュミラさんは冒険者登録しかしていないんだよね。
ちなみに以外にもティラーさんも冒険者登録しかしていなくって、実質的にリリアの護衛任務をしていた面々の戦力が大きくダウンすることになる。
それも傭兵登録している全員が受ける前提でのお話なので、クーデター側がゴブリンを運用している以上はイネちゃんとロロさんは参加でいいのだけれど……。
「そう、なのか……そういえば登録するときには拒否権も存在するって……」
「そうやね、ギルドの傭兵はあくまで戦争発生時に雇われることが可能になるってだけやからな。イネ嬢ちゃんとロロ嬢ちゃんはちゃんと理解した上でやってたみたいやけど……ヨシュア坊ちゃん、あまりそのへん調べなかったんか?」
「はい……冒険者しか受けられないものとか、傭兵にしか受けられないものがある程度にしか……ごめんなさい」
こんな調子なので異世界転生主人公っぽいヨシュアさんは離脱かなぁ、なんだかんだ精神面では日本人のソレだろうし。
ただそうなると芋づる式にミミルさんとウルシィさんも離脱することになるから、このあたりの戦力ダウンは本当、かなり大きい。
「イネは……平気なのかい?」
「何が?」
「戦争なら、人を……」
「まぁ、殺すことになるだろうね。というよりもイネちゃんの元々持ってた能力って対人戦特化な能力だし、最初から想定済みだよ。あのお父さんたちに鍛えられてるわけだしさ」
ゴブリンが対人を想定したほうが対応しやすくなるというのが一番の理由ではあったけれど、コーイチお父さんを除いたら全員軍人だったからねぇ、イネちゃんがそっち関係のスキルがないほうがおかしいというかなんというか……。
最も、最近は勇者の力を活用しまくっててあまり基礎になってる部分は使ってないんだけれど、それでも役に立ってることのほうが多いから案外いろんな戦闘に応用できるんだなって思ったことがあるくらいには、お父さんたちが教えてくれた技術や知識は依然、イネちゃんの活動を助けになっている。
「ロロさんは?」
「ゴブリン……クーデター側が、使ってる……から」
当然参加である。
「それに、傭兵登録の後……最初に倒したの、野盗……」
既に経験済みという流れはイネちゃん予想外。
いやまぁ、ロロさんの武器ってスパイクシールドだし、アクティブに動くアイアンメイデンと言えなくもないから対人特化と言える?のかな。
ヨシュアさんはゴブリンのほうは予想していたけれど、人と戦って殺したことがある旨の言葉に驚いた感じで。
「……そうだったんだ」
こうなると、この場で傭兵登録をしていて明確に人を殺したことがないのはヨシュアさんだけってことなのかな。
まぁ……ヨシュアさんが人を殺すっていう行為に対して忌諱感を抱く理由もわからなくはない。
元が日本人と仮定しなくても、基本的に先進国の民間人をしてればそういうことからは遠く離れて過ごせるのは当然だし、現実感がないというのも理解できるからね。
イネちゃんに関してはゴブリンっていう2手2足、つまり人間と同じ構成の相手を想定して戦うことを前提としてたからお父さんたちの軍隊式訓練もしていたわけで、世間一般に言われるような民間人ではないし、そもそも大陸の出身だってのはあるけれど……大陸も戦いから離れようと思えばいくらでもできるからそこは重要ではないか。
ともかくイネちゃんとロロさんの場合はゴブリン憎しからスタートしてるからね、そういう点は間違いなく、一般的な民間人とは程遠いというのは自覚があるしね、うん。
「ヨシュアさんは無理に参加しなくてもいいんだよ。それこそ人を殺さずに済むのならそっちのほうがいいのは当たり前なんだからさ」
「因縁がないなら……やめたほうが、いい」
「因縁なら!」
「キャリーさんの両親に対してのだったら、やめたほうがいいよ。特定個人に向けての個人感情で戦争に参加したら後悔するから」
グワールに対してヨシュアさんが思うところがあるのは知っていたからこそ、イネちゃんはヨシュアさんの反論を遮ってそう言うとヨシュアさんは驚いたような顔をして言葉を詰まらせた。
「正直、個人感情ってだけならイネちゃんもロロさんだって変わらない。でもイネちゃんもロロさんもある1点においてムータリアスの戦争に対してのことなんだよ、これはゴブリンが生体兵器だって判明したあたりからは、特にね」
ムータリアスの戦争がなくならなければ、ゴブリンが完全になくなることなんてないってことだからね、更なるイネちゃんを生まないためには必要ならそれをやる覚悟は既に持っていたからこそ、イネちゃんは最初に冒険者さんじゃなく傭兵さんになったわけだしね。
そういう意味で、少なくともイネちゃんに関してはその過程で人間と対峙、敵対することは既にわかっていたわけだし、既に兵器として運用がされているのならグワールひとりを倒して終わりってわけには行かなくなってるからね、生産や運用する理由から排除しないとゴブリンは無くならないから、正直言えば国家と戦うことすら覚悟していたわけで……。
「むしろイネちゃんとしては戦う相手が少なくなったくらい。下手したらアルスター帝国と丸々敵対していた可能性だってあるくらいだから、ゴブリンを運用する気満々の人たちだけと戦えばいいというのはシンプルになってくれて助かったよ」
ちょっとアーティルさんの表情が真っ青になってるけれど、今のお話の内容は実際の作戦云々ではなく覚悟のお話なので申し訳ないけれどスルーすることにする。
「とはいえイネちゃんだってヨシュアさんに絶対に参加するなとは言ってないのは、わかるよね?」
「イネの言ってることは、覚悟の話しだから……そこは、大丈夫。でも、だからこそ考える時間をもらってもいいかな」
「というか考える時間はたっぷりあると思うし、1度戦争というものを俯瞰的な視点で見てみるのはいいと思うよ」
戦争がそう簡単に終わらないだろうことは容易に想像ができるし、実際今現在進行形でカルネルを包囲しようとしている軍を倒したところで、クーデターを起こした首謀者や裏で糸を引いてるグワールを倒すか捕らえるかしないとダメだから、一朝一夕で終わるようなものではないし。
「とりあえずのお話は終わったかね。ともあれ今すぐにも参加できるのはイネ嬢ちゃんとロロ嬢ちゃんの2人ってことで、ええんよな?特にそっちの2人は発言なかったからいつも一緒におるヨシュア坊ちゃんと一緒にさせてもらったが、構わんかったよな?」
会話の流れが1つ終わったタイミングでムーンラビットさんが確認をとってくる。
ちなみに会話に参加しなかった2人っていうのはウルシィさんとミミルさん……でも2人とも自分の生まれた集落の次代を担う子供を産むために森から出てきてるし、よその世界の戦争に参加しないほうがいいと思うんだけど……、まぁムーンラビットさんもそれを知っていたからこそ、外す方向で考えてたんだろうけどね。
「……そう、ですね」
「私たちは自分たちから戦いに行くっていうのはちょっと……」
ちなみに2人もヨシュアさんと一緒に傭兵登録しているんだよね、これはキャリーさんのためヴェルニア攻防戦のときに必要になったからで、今回みたいな戦争に参加することはまず考えていなかったのは当然。
そしてこの2人のこともあってヨシュアさんは不参加になる可能性が高いと、イネちゃんは思っている。
ヨシュアさんは基本的に自分の周囲にいる親しい人が傷ついているのを許せないって人だし、そういう優しい人に関してはイネちゃんの私見としては戦争なんていう狂った空間に入らないほうが絶対にいいと思うから、今回に関してはイネちゃんが関与しているとかそういうのを抜きにして不参加で、1度ヴェルニアに戻ってキャリーさんにも挨拶とかしにいく平和な時間を過ごして欲しいのだけど……。
なんだろう、なんとなくあれこれ展開がヨシュアさんたちも参加してしまう流れになりそうな予感がするのだけれど、これはイネちゃんの杞憂であると思っておこう、うん。
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