第304話 イネちゃんと地球でショッピング!
あの後細かいことを話し合うために陸将さんとスーさんが残って、イネちゃんとリリアはムツキお父さんの先導に従って基地を少し見学した後に、帰り道の途中にあるショッピングモールに訪れていた。
家の近くにある商店街でもよかったのだけれど、そっちは結構大陸からの輸入品が多くってあまり地球でのお買い物!っていう感じにならないから、今回は専門店の多いショッピングモールを選んだわけだけれど……。
「うわぁぁ……わぁぁぁぁ…………」
リリアが感嘆の言葉にならない感じのことしか言わなくなっちゃってどうしたものかという感じである。
「リリアー、戻ってこーい」
「うん、うんー」
あ、ダメだこれ。
「リリアー、確かに商店街のお化けみたいな場所だけど、ここに反物屋さんは一店舗だけだからねー」
しかも和装の特殊店舗で、イネちゃんはそこに反物がちゃんと売っているかを知らないのである。
正直リリアの今抱いているであろう期待はほぼ確実に崩れてしまうのが分かっているのでイネちゃんとしてはなんとかしてその落差をなんとしてでも縮めてあげたいのだけれど……。
「ムツキお父さんはイネちゃんたちをここに降ろして基地に戻っていっちゃったからなぁ」
イネちゃんがひとりでこの状態のリリアを止めるのを、大陸でもムータリアスでもない地球で人の多いところでやるのはちょっと勇気がいるんだけど……。
「リリアー戻ってこないと割と恥ずかしいことになるよー」
「ねぇねぇイネ!アレなに!?」
おや、正気に戻ったかな?
そう思いリリアの指し示した方へと視線を移すと、そこにはただの吊り広告があるだけで。
「アレ、どうやって変えてるの!?あ、また変わった!」
「あれは電光板で、映像を映してるだけだよ。ほら、テレビと同じようなもの」
「ほへぇ……あんな大きなのまであるんだねぇ」
「まぁここであれこれ目を回すよりも見てまわろ?でないときつけするからね?」
このきつけとは、リリアのおっきい2つのものをただ持ち上げるだけである。
ただそれでもおもむろに友人のおっきいものを持ち上げるなんて流れは恥ずかしい以上にどういう目で見られるかわからないからやりたくないのである。
「あ、うんそうだねごめん。こんな大きな商店街とか見たことなかったからさ、イネの家にいたときにテレビで聞いてはいたけど、実際に来てみると本当スケールが違うというか……」
「実際歩くとそんなでもないかもしれないし、もっとすごいかもしれない。でも、ここに居たらそれはわからないままだよ」
ここはイネちゃんの小悪魔笑顔で攻めよう。
リリアも案外この笑顔に弱いからなんとかなる……はず。
「……イネぇ、そんな顔してもう。わかった、行こ!色々落ち着けばいつでも来れるようになるもんね!」
「まぁ、いつでもはわからないけれど気軽に来れるようにはなると思うかな。リリアの立場的に神官さんになるわけだし……」
イネちゃんがそう言うとリリアはキョトンとした顔になり。
「別に神官だからってどこかで教会運営しなきゃいけないわけじゃないよ?」
「え、そうなの!?」
イネちゃんてっきり……でもまぁ、ササヤさんとかスーさんみたいな神官もいるしよくよく考えると割とそのへんも自由なのかも。
「ヌーリエ教会の考えは個人の意思を尊重してくれるから。それに私は父さんの跡を継いでオワリの教会の神官になるつもりだから、それまで見聞を広げて神官長の試験を受けるのが私の目標だからさ」
「そうだったんだ……」
イネちゃん、てっきり座学勉強とかで暫く縛られるものだと思ってたよ、そのへん。
神官や神官長を名乗る人達って最低限どころか、地球との交渉を普通に対応できる程度の知識と柔軟性、適応力を持ち合わせてるからかなり勉強するものとばかり。
「うふふ、今度はこっちから言わせてもらうよー……イネー早く見て回ろうよー」
む、イネちゃんが考え事を始めたから仕返ししたなぁ。
「まったく……まぁ確かにせっかくのショッピングモールなわけだしね、今はそのへんのことを考えずに楽しもうか」
ちょっと色々思った流れと違うけれど、せっかくリリアと2人でお買い物に来たのだから楽しまないと嘘だよね。
本当ならロロさんとかも一緒にショッピングできればよかったんだけど、ロロさんは故郷の復興状況とか気になってたし、それを止めるほうが心苦しいからね、キュミラさんは割と来たがったけど、まだハルピー族を無制限で受け入れるのは難しいってことで断念してもらったんだよね、前回は状況が状況だったし、ずっとシャットアウトしてても仕方ないってことで許可が下りたけど……まぁなんだかんだ大陸の人間なわけだから病原菌とかの検査は一発でパスしてたから、今警戒しているのは見ただけで人間と違うっていうハルピーの姿が交流を続けてきた現在でもセンセーショナルに扱われる危険性ってところだろうね。
「うん、ほら、いこ!」
子犬の笑ったような笑顔で手を差し伸べるリリアを見て、イネちゃんはその手をとって。
「うん!」
今は余計なことを考えなくていいや、と余計な思考を追い出してショッピングモールへと駆け出した。
まず最初にお洋服と水着を見て……あぁ丁度時期が水着が出始めた時期だっただけで、それ以外の意味はまったくもってないことはここに記しておくけど……その、なんだ……リリアのサイズに合う水着がなかったのが、イネちゃんをなんとも言えない気持ちにさせてくれたことだけは、記録しておかねばならない。
その後はアクセサリーとかの小物を一通り見てから、イネちゃんが最初に言った反物屋を覗いていた。
「へぇ……触り心地がいい、頑丈さで言えばちょっと弱すぎる気はするけれども……」
「日本では着物を着て土弄りとか開拓はしないから……。むしろ晴れの日、祭事で着るのが基本かなぁ、昔はもっと安い生地で日常服として作られたのもあったらしいけど……」
そっちは上質な反物とか使わなかっただろうし、そもそも庶民がそんな上物を使えたのかとか、イネちゃんは専門家でもないし、学校でお勉強したわけでもないからわからないけれど、多分使えないよね。
ボブお父さんが好んで着てるのは
「でも……うーん、お小遣いだとちょっと厳しい」
「まぁここは晴れ着みたいな感じで日用品ではないからねぇ……それなら駅前とかの量販店のほうがいいかもね、イネちゃんは生地を売ってるお店は知らないけどあるらしいってステフお姉ちゃんが言ってたから」
そういえばステフお姉ちゃんはまだ帰ってきてないんだよね、シック襲撃に巻き込んじゃったお詫びってことで、王侯貴族に便宜を計ってもらってそっち側の文化も調べられるようになったらしくって、かなり遠出をしているとは聞いているけれど……。
ヌーリエ教会の近くじゃないとまともに通信できないから連絡が殆ど取れないんだよね。
まぁヌーリエ教会主導で、いろんな人が立ち会っている状態だからよっぽどのことは起きないと思うけれど……少し心配しちゃうよね、こんなこと言ったら完全にわからない異世界に行くイネちゃんのほうが心配って返されそうだけどさ、イネちゃんのほうが心配したっていいよね。
「へぇ……生地1つとってもやっぱ大陸よりも種類が多いよねぇ、絹や綿はわかるけれど、こっちの安いナイロンとかってどんなものなの?」
「それは化学繊維だね、人工的に作り出した生地だよ」
「へぇ、どうやって作ってるんだろう」
「それは知らない。そのへんはステフお姉ちゃんかコーイチお父さんかなぁ……」
どっちも分野が違うから知らないかもだけれど、イネちゃんよりは詳しいと思うからね、うん。
というか反物屋にナイロンってどこに……あぁ浴衣か。
イネちゃんがそう納得したところで、リリアのお腹から割と大きい虫の鳴き声が聞こえて、リリアの顔が真っ赤になる。
「お昼にしよっか」
イネちゃんは気をきかせてそう言うとリリアはすごく恥ずかしそうにしながら。
「うん……でも食べる場所って近くにあるの?」
「あるよー、というか普通に多い方かも」
普通のショッピングモールでもフードコートのお店の数は多いのだけれど、ゲート近辺であることからいい食料が格安で仕入れられることから他の系列モールよりもはるかにフードコートが大きいらしい。
なんというか、ここに来れば大抵のものが食べられるとかなんとか……実際にイネちゃんも来たのは初めてだからどれだけのお店があるのか知らないけれど、リリアがまた目を回す可能性を考えてここはいっそのことハードルをすごく上げておこう。
「きっと凄い数のお店で、早くしないと美味しいものは売り切れちゃうかもしれないし、早く行こう」
「う、うん!と、これ買わなくてごめんなさい!」
リリアは真面目だなぁ、まぁそこが可愛いんだけど。
とりあえず小走りでフードコートまで移動したけど、最近の世界情勢からか人が少なくってかなり早く食べることができてしまって、イネちゃんが上げたハードルはあまりに大きすぎたのかちょっとがっかりしていたけれども、それと同時にいろんな料理に目を回す感じで最終的には喜んでくれたからショッピングモールにリリアを連れてきてよかったよかった。
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