第275話 イネちゃんと大地の四天王
「あぁん、なんか増えたなぁ」
野太い空気を震わせる振動がイネちゃんの身体を叩く。
「小人がどんだけ増えようが、ブンブンうるさいだけだってぇのに……そんなに潰されたいのか」
巨人が声を発するたびに周囲の軍勢は叫び声を上げる。
「イネさん、もう撃って大丈夫ですよ。わざわざ声を聞く必要はありませんからね。それにこの大地を震わせる声は、私たちは大丈夫でも難民の方々は恐怖に支配されてしまいますので」
「あ、はい……そういえばそうですよね」
最近あまりそういう点について見てなかったからか、うっかりしてたなぁ。
イネちゃんたちが大丈夫でも、戦う力を持っていない人にとっては恐怖でしかないよね……後でリリアに謝っておこう。
そう思うと同時に既に銃口を向けているビーム兵器の引き金を引いて重金属粒子の圧縮、縮退を始める。
銃口の先に縮退された重金属粒子が超高温の熱を持って空気を震わせると、一定の縮退を迎えたところでイネちゃんは引き金を緩めて、それを発射した。
発射されたビームは一定範囲のものを蒸発、または燃やすほどの高温で速度を上げて巨人の体に吸い込まれるようにして着弾……したのだけれども。
「ぬぅ!?詠唱も触媒もなしにこの威力の熱を飛ばしてくるとは!しかもまだ俺が話している最中に!ハーっハッハッハ!じゃあ一撃は一撃だよなぁ!」
うわ、ノーダメージってわけじゃないっぽいけれど明確なダメージにはなっていないっぽいのか、イネちゃんとしては現状でこれが核を除いた最大火力なんだけれど……相手の軍勢の量を考えたら多少の被害は許容せざるを得ないかなぁ。
「ともかく撃ち込み続ける!カートリッジがなくなったら周囲巻き込むけど……いいですよね、ココロさん!」
「すみません、少なくとも私とヒヒノが回復するまでお願いします……それと現在の方法が難しいようでしたら多少の被害は仕方ありません。どのみちイネさんの手段が無理となればヒヒノの力で殲滅するだけですからね」
「んー……ちょっと要領を得ないけれど、要はアレの足止めして2人が回復すれば、イネちゃんの提案した負傷者量産計画が実行できるってことでいいですよね?」
「はい、それで構いません。やっちゃってください!」
ココロさんにこうしてお願いされることに少し違和感を感じるけれど、それだけイネちゃんが前線を担当できるようになっているってことでもあるのだろうけど……それはそれでそれだけの強い力を御しきれるのかっていう不安が出てくるよね。
まぁそれを今考えたところで仕方ないので、再び引き金を強く引いてビームを巨人に向かって連射する。
まずは目、次に口を狙いつつも残りのカートリッジを連射すると、巨人は回避する素振りを見せつつもこちらににじり寄ってくる。
「フハハハハハハ!この程度か!この程度か!」
うわぁ……これは強いっていうよりも……。
『私たちと似たようなことをやってるね、地面と一時的に融合して大地の硬さを体現してる』
「イーア、そうは言うけどビームが効かないって大概だよ?」
『まぁそうだよねぇ、対個人兵装としては私たちの使える最大火力だもの。でも試してみたいこと、ないかな。最近殆どやってなかったし、たまにはいいよね』
「……あれをやっても火力が上がるものじゃないし、どうなんだろ」
『考えても見てよ、相手さんはわざわざこっちの土俵に乗ってきてくれたんだよ?ってことはさ』
「……イーアは時折えげつないこと考えつくよね」
イネちゃんがイーアに向かってそう言った瞬間、私は足を地面に同化させて巨人に向けて走り出した。
「ぬぅ?小人の癖に俺と同じようなことをするのだなぁ!だがそんなに早く動いては守りは弱かろう!」
巨人は叫びながらイネちゃんに向かって手のひらを叩きつけてきたけれど、当然ながら一部とはいえヌーリエ様の力だからね、相手さんが種族的な意味での融合ができたとしても……。
「私たちのはあなたみたいな小手先じゃないんだよねー」
相手が大地と融合しているのなら私にはその攻撃の一切は受け付けないわけで……代わりに融合して一気に相手の顔付近まで移動すると、今度はゼロ距離でビームの引き金を引く。
「ぬぅ!?」
流石にゼロ距離射撃は有効なのか、これならこれで核は使わなくていいかもしれないね、イーアと力を合わせることで普段よりも身体能力を上げるっていう、勇者の力に目覚めてからは殆ど使ってなかったけれどこういうときには有効なんだねぇ、やっぱり適材適所ってやつか。
「小人が!俺の一部にならんのか!」
「むしろ大地と同様なら私のほうが上だよ。こちらは神様の力そのものだからね!」
一部だけど。
「なら小人!貴様を倒せば俺は神より強いと証明できるな!これは僥倖!これほどにない僥倖!魔王を上回るチャンスではないかぁ!」
うわぁ……ひどい脳筋……。
むしろここまで野心たっぷりだと脳筋じゃないのかもしれないけれど、これを放置するのは流石にきっついかもなぁ。
『最悪の手段ではあるけれど、やらないといけないかもね』
うん、イーアもイーアで結構えげつない手段を考える。
「神殺しの称号を寄越せ!小人ぉ!」
「悪いけど私は神殺しでもないし、神様そのものでもないから遠慮するよ!」
ただまぁ、ビーム兵器の釣瓶打ちをしようにも勇者の力で重金属粒子を安定して縮退させている以上、数を用意できないからなぁ、威力も下がっちゃうだろうし。
となれば縮退の必要のない核でってことになるけれど……ともかく少しづつ試していくしかないかな、まずはイーアの考えた方法で……。
「それじゃあ大地と融合していることを後悔しなよ!プルトニウムのプレゼント!」
巨人の頭の中の骨の部分をプルトニウムに変換、勇者の力で無理やり核融合反応を引き起こして……爆発させた。
体内で核爆発が起きたことで巨人の頭は当然粉々に吹き飛んだけれど……。
「ハーハッハッハッハ!すごい、すごいぞぉ!これが神の力か!倒しがいがあるわ!」
うわ……私もたまーにやるけどさぁ、やられたほうはこれゲンナリするってレベルじゃないね、大地と融合してるからこそできる逃げ方。
「まさか大地の力を有しているにも関わらず、大地を吹き飛ばすとはな!ますます滾ってきたわぁ!」
滾らなくていいんだけどなぁ……でもなるほど確かに、こんな化物相手なら帝国がシックに投入してきたように、あんなゴブリンが必要と思っちゃうよね。
「今度はこちらの攻撃だぞぉ!遠慮せず受け取れぇ!」
そして巨人の攻撃は相変わらずの100%フィジカルである。
これ、終わらないパターンじゃないかな、うん。
力としては私のほうが上なのは確実っぽいし、負けることはないと断言できるけれど、この巨人を完全に倒そうと思ったら感知しながら逃げ場のないようにして地面をまとめて吹き飛ばすくらいしか手段がない。
もちろんそんなことをしたら私が徹夜までして作って守ってきた防衛設備やらインフラ、それにリリアの丹精篭った畑まで吹き飛んでしまうわけで……。
「イネちゃん!スイッチ!そいつはさっさと駆除しちゃうよ!」
その叫び声と共に巨人が炎に包まれた。
「お待たせ、最初からフルアクティベートしちゃうと相手さんが撤退しなかった場合が怖くてさ、流石にこの数を殲滅すると数日ぐっすり寝ないと回復しないし」
ヒヒノさんがラスボス風味の姿で現れて、巨人を消し炭にしていく。
「もう相手は喋ることすらできないよ。ヌーリエ様の加護がないのなら概念防御もないわけでね、私の勇者としての力なら消滅まで持っていくのは簡単すぎるよ」
うん、訂正。
この状態のヒヒノさんは、大陸以外ならまごう事なきラスボスだ。
概念ごと消滅させるってやっぱ反則だよなぁ、そしてヌーリエ様の加護はそれすら防ぐんだから大陸の戦力は他の世界からしてみたら何回も絶望できてしまうレベルだと私は思ってしまうわけである。
「ぬぅぅぅ……力が抜けるぅぅぅ……」
「うっそぉ……なんで生きてるの?」
大地の四天王はヒヒノさんの爆炎の中から弱々しい声を出しながら姿を現した……けれど。
「んー……ヒヒノさん、これもう無害になってない?」
私がそう言うのも当然で、大地の四天王は先ほどまでの巨人の姿ではなく、ふよふよと空中を浮いている人魂のような姿になっていたからだ。
「……あぁなるほど、そういうこと。イネちゃん、ココロおねぇちゃんが言うにはなんでもこいつ、他の生き物に憑依してその相手の力を使えるってタイプの生物らしいよ」
私には聞こえないけれど、今の状態でココロさんはヒヒノさんとは会話できるんだね。私とイーアの関係みたいなものかな。
「とりあえず、私たち大陸出身者にとっては無害なのは確かだけれど……」
「あぁなるほど、わかった。ムータリアスの人にしてみれば有害どころの話じゃないわけだね」
私たちヌーリエ様の加護があれば無害ってことは、加護がない人達にしてみれば体を乗っ取られて好き放題されるっていう実質即死みたいなものだもの、そりゃ驚異以外の何物でもないよね。
「誰か……誰か憑依させろ……でなければ……」
大地の四天王も、蓋を開けてみれば単純な話で……ゴーレムみたいな巨人さんに憑依してその力を極限まで使ってたから強かっただけなのか。
ちなみに今大地の四天王のそばにいるのは私とヒヒノさんだけなので、新たに憑依される心配は今のところはない。
「介錯、してあげるか。これを放置すると今この周辺にいる人達も引くに引けないし……これ、私の武器でも行けるかな?」
正直、人魂を撃ったことはないからわからない。
「いや、私がやりそこねたし私がやっておくよ。イネちゃんは指揮官が負けたことを村を包囲している連中に言って回ってきて。……それにしてもまぁ、肉体を消滅させたから残っちゃったかぁ」
なるほど、概念ごと燃やすヒヒノさんが倒しそこねた理由はそういうことか。
……最初から魂ごとだったら、大地の四天王の強さのからくりがわからなかったってことか、モヤモヤしなくて済んだのかもね、うん。
「あ、じゃあお言葉に甘えて、行ってきますね」
こうして、唐突に始まった魔王軍との包囲戦は、魔王軍側の指揮官の死亡でカタがついたのだけれど……これはこれで、後々すっごい面倒になる奴だよね、多分。
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