第274話 イネちゃんと軍勢の夜襲
イネちゃんの目覚ましとなったのは爆音だった。
これは大きい音という意味ではあるけれど、この時は文字通り爆発の音である。
「イネ!起きて!」
まぁイネちゃんがちゃんと起きたのはこのリリアの叫び声なんだけどね、起きるなら爆発音よりもリリアとかの声のほうがいいよね。
そして朝じゃないからアレはないよ、アレは結構充足した睡眠がないと起きないからね。
「んー……まだ眠い……」
「もう村まで来ちゃってるから!二度寝しないでぇ!」
む、もう村までって……ココロさんとヒヒノさんが抜かれたのか。
まぁ明らかに人海戦術の数で押しつぶすみたいなこと言ってたし……ココロさんとスイッチしてイネちゃんが外を担当したほうがいいかな、イネちゃんの攻撃だと基本的にフレンドリーファイア起きる前提みたいな戦い方をしないと多人数戦は時間がかかりすぎちゃうからね。
閉所ならイネちゃんのほうがっていうのはなくはないけれど、リリアが今ここにいるってことは建物の内部にまでってことはないだろうからなぁ。
「もう……仕方ないにゃぁ」
寝ぼけてへんな声でた。
「可愛い声してもダメだからね!ほら起きて!」
むぅ……寝足りない感じがして頭がまだぼーっとする……。
いつもならこんなことないんだけれど、流石に1週間の睡眠時間が少なすぎたのかな……これが終わったらココロさんとヒヒノさんにちょっと任せて丸1日寝てようかな。
そう思いつつ装備を取ろうと手を伸ばして……伸ばして……アレ、いつも置く場所にない……。
「あぁごめんイネ、あのまま机で寝かせるのはどうかってことでベッドに運んだんだけれど……」
あぁつまり装備はリリアが脱がせてどこかに置いてあるのか。
「んー装備ー……」
「持ってくるから早く顔を洗って!」
リリアが叫んだところでまた爆発する音が外から聞こえてきた。
むー……うるさいなぁ。
とりあえずイネちゃんはリリアの用意してくれてたであろう洗面器で顔を洗って、リリアが持ってきてくれた装備をゆっくりと装備しながあら、リリアが口に突っ込んでくれたおにぎりを咀嚼してようやく目が覚めてきた。
「ってどのくらいまで攻められてるの!?」
「今まで寝てたの!?」
リリアの驚く叫びに合わせて爆発音が外から響いた。
「と、とにかく行ってくるよ!リリアも避難して!」
「イネ!これお茶!」
イネちゃんが部屋を出ようとしたところでリリアが竹でできた水筒を投げてくれたので、軽く振り返って受け取り。
「リリア、ありがと」
「行ってらっしゃい、イネ!」
そのやり取りでイネちゃんは宿泊所の外に躍り出ると、さっそく上空に槍を持った見慣れない奴が飛んでいたので、ファイブセブンさんでとりあえず威嚇射撃を1回行っておく。
万が一コスプレしたキュミラさんという可能性も否定できないからね、注意しないとうっかり撃ち落としてしまいかねない。
まぁ槍を投げて反撃してきたし、それに合わせる形に周囲に飛んでたのが突撃してきたからキュミラさんじゃなかったんだけれど……とりあえずファイブセブンさんをしまってP90とスパスさんを持ち、近づいてきているほうにP90、空に飛んでいる相手にスパスのバックショットで攻撃しておいて周囲を見渡す。
どうにも畑の一部が荒らされているようではあるけれど、それぞれの建物の中で皆が防衛戦を張ってくれているらしく村の中まで敵が入り込んではいるものの人的被害は無いように見えたのでまずはこの目の前の連中を片付けることにした……のだけれど。
「な、なんだこいつ錬金術師か!?」
「こんなの聞いてねぇ!」
なんかP90とスパスで終わってたので地面に落ちたのは岩で拘束しておいて、勇者の力を使ったついでに人が多く感知できた方へと走り出した。
しかしまぁ、距離があるから当たればいいなー程度に撃ったバックショットに当たったのかぁ、ムータリアスの人は銃の情報を掴んでいないのかね。
元々野生動物を相手にする弾だからある程度わからないでもないけれど、空を飛んでる相手だとバードショットとかじゃないとなかなか当たらないと思うんだよねぇ、有効射程の関係もあるし上空に逃げられたら届かないし。
少なくとも今ここを攻めて来ている人達は銃の存在をそこまで知らない感じなのは、さっきの反応でよくわかった。
まぁ、何度か戦った帝国の人も銃に関してほぼ無警戒だったもんね、ムータリアスにはやっぱり銃は存在しないってことなんだろう。
「お、イネちゃんおはよー」
少し走ってイネちゃんが構築した防衛線の切れ目のあたりまで到着したらヒヒノさんに挨拶をされた。
「状況はどうなってます?」
「包囲殲滅とか生意気なことしてきてるねぇ、私はイネちゃんの作った防衛線を基礎として最終防衛ラインって感じにしてるけれど……さっき漏らしちゃったけど大丈夫だった?」
「数匹だったのでまぁ。そもそも銃のこと知らなかったみたいなので警戒されずに一撃で、むしろ呆気にとられた感じです」
いやぁヒヒノさんの警戒網を抜けてくるってことはそれなりに頭が回るはずなのになぁ、それがアレってなるとかなり弱いよねぇ。
「うーん、やっぱ素通りされずに入られちゃったか。となると畑に被害出ちゃってると思うし、後でリリアちゃんたちに謝らないと」
「ヒヒノさんのラインがなかったらもっと入られてたと考えると、あまり責任を感じなくてもいいかもですけどね……それを言ったら寝坊したイネちゃんのほうがって思わなくも……」
元々村を守る防衛網は、今後の村の拡張を考えてかなり広めに作ってあったからね、ヒヒノさんが単独でちゃんと制御できる範囲とか考えると広すぎというか……むしろよくできるよねってイネちゃんは思うのです。
「ま、それはともかくイネちゃんはココロおねぇちゃんと前衛交代してもらっていいかな。ココロおねぇちゃんに一度戻ってもらって、イネちゃんが引きつけている間に私たちがフルアクティベートして一網打尽って考えてるんだけど」
「うーん……一応捕虜にとったほうがいい気もしますけど」
「賄えるだけの余力があればそれもいいんだけどねぇ、イネちゃんが寝た後に村を見て回ったけれど、多分そんな余力、ないよね」
むぅ、リリアに難民受け入れを諦めさせた理由をここでヒヒノさんに突きつけられてしまった。
ムータリアス側の問題を大陸にはあまり持っていかない感じにするスタンスできてるから、こればかりはヒヒノさんの言うことは最もではある……あるのだけれど、こと戦争という形でならイネちゃんにひとつ、提案できる案があったりする。
「相手が脳筋なら、ひとつ試してみたい手があるのだけれど、聞いてもらっていいですか?」
「んー全殲滅以外の手があるなら教えて。私だってもえつきろーって殲滅したいわけじゃないし」
もえつきろーの部分で手をわしゃわしゃしてる。
ヒヒノさんは本当にこれで20歳なのだろうか、仕草がお茶目すぎる。
「相手はなんだかんだで軍隊なわけですし、負傷兵は回収するか、始末するにしても人手を割かないといけないわけですよね。となれば蒸発させちゃうよりも負傷兵を大量量産してあげたほうがこっちの負荷は減ると思いまして」
地球での戦争で太古の昔から現代に至るまで有効な戦術として、イネちゃんはこれをお父さんたちから耳にタコができるほど聞かされたものである。
まぁ魔王軍とか呼ばれている人達にどれだけ有効なのかはわからないから拒否される可能性はあるけど、ムータリアスの人類軍に対しては呆れるほど有効だったから試してみたいわけなのだ。
「イネちゃんも
「あ、試していいんですね、じゃあやってみます」
思った以上に軽いノリでGOサインが出てしまった。
でもまぁそれはそれとしてやっちゃっていいのならやってみるしかないよね。
「うん、ココロおねぇちゃんならイネちゃんが攻撃を始めたのを把握したら引いてくれると思うから思いっきりやっちゃっていいよ」
思う。だとちょっと不安なのですけれど……。
でもまぁ、ココロさんだってあのササヤさんの弟子だもんね、大丈夫だと信じてタレットを設置している箇所を全てアヴェンジャーに変換してとりあえず数を減らしてみよう、正面に関してはココロさんが戻ってきやすいように少し弾幕ヌルめでいいかな。
そう思いつつもタレットをアヴェンジャーにしたことで警戒したのか、感知している限りでは敵が距離を取り始めている。
脳筋じゃなかったのかと思いつつも、それはそれでこちらの射程になるのだから願ったり叶ったりなのだけれど……なんだろう、こう思い通りになりすぎると不安のほうが強くなってくるね、早くココロさんが戻ってきてくれるともうちょっと手段が増やせるんだけれども……。
イネちゃんがそう考えた瞬間、前の方から飛ばされてくる人影が見えた。
その人影は空中で身をよじってバランスを取ると、上手に三点着地をしてイネちゃんの横で止まった。
「あぁイネさんでしたか……おはようございます」
少し呼吸を乱しているココロさんを見て驚きつつ、ココロさんが飛んできた方向へと視線を移すとそこには地面から上半身を生やした巨人の姿があった。
「あれが大地の四天王の脳筋です。申し訳ありませんが交代、お願いできないでしょうか」
「はい、交代に関しては最初からそのつもりだったので大丈夫です……ところで、アレは倒しちゃったほうがいいんですかね?」
イネちゃんがそう言いながら地面からビーム兵器を製造すると、ココロさんは笑みを浮かべて。
「アレだけですよ、頭を潰せば相手の士気は破壊できるでしょうからね」
あぁ、ココロさんもやる気満々だったんだね。
そう思ったところで、イネちゃんは銃口を大地の四天王とやらに向けたのだった。
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