第262話 イネちゃんとインフラ整備

「もう!なんなのこの世界の人たち!」

「気持ちはわかるがそろそろ落ち着けリリアちゃん」

 拠点に戻って、修道会の人たちがいなくなったと同時にリリアが愚痴を噴出させた。

 ティラーさんは常に冷静になだめてくれてるのは本当にありがたい……伊達にスーさんを除けばここのメンツの中で最年長の年の功というやつなのだろうか。

「な、何があったか聞かせてもらっていいかい」

「あぁうん、毒溜りが元は人間だったって、アルザさんが知っててそこに悪いとも思ってなかったからリリアがすごく怒ってね」

 ヨシュアさん、イネちゃんに聞いてくるあたり今のリリアに近づいたらいけないということを察したんだなぁ。

「ごめんなさい……」

 場の空気にカカラちゃんが謝っちゃったよ……。

「ほらリリア、カカラちゃんまで謝っちゃったよ!」

「うー……でもあまりに命を蔑ろにしすぎというか……」

「そうでもしないと生き残れなかったんだろう。俺たち……いや大陸はそういう点では恵まれてるからな」

 イネちゃんやロロさんっていう例外はいるものの、確かにティラーさんの言うとおり大陸はほかの世界から見てみれば楽園扱いされてもおかしくない程に恵まれてる。

 その大陸だって家畜は育てているし、自衛が中心ではあるものの軍事力を保有しているわけで、何かが生きるということはそういうことだっていうのは承知している……のだけれど、やっぱりイネちゃんとしても胸糞が悪くなる内容だったのは確かなんだよね。

 なのでリリアに理解させようとするよりも、飲み込むだけの時間を用意してあげるのうが建設的というもので……。

「まぁ、これで当初の目的である水を引いてくるのはできるようになったから、そっちはそっちで進めるよ。腹立たしいのは確かだけど水がないと落ち着こうにも難しいし」

 正直お風呂にでも入って疲れと一緒に流しちゃったほうがいいこともある。

 というかイネちゃんがそうしたいだけなので、リリアにとってはそうじゃないかもしれないけれど。

「うん……行ってらっしゃい」

 ちょっとトーンの低い行ってらっしゃいだった。

 でもまぁ、ヌーリエ様に同じように怒りをぶつけるなと言われたのはリリアも聞こえていたようで、イネちゃんが結構自分の中に押さえ込んだっていうのがわかっているからリリアもイネちゃんに対してはいつもどおりって感じであるのは一種の救いな気がしている。

 まぁ、戻ってきたらスーさんがいいようにしてくれてる可能性は否定できないし、無用な心配になってくれることを願うんだけどね。

「とりあえず水も綺麗になったし、水源を整備し直して湖化、川を作る形で水を引いてくることにするよ」

「イネちゃん本当すまないな」

「いやこんな国家事業レベルのことができるのって、イネちゃんの勇者の力しかないんだし気にしないって」

 こと大地のことに関しては本当になんでもありだからなぁ、勇者の力。

「じゃあ行ってくるよ、もう水も綺麗だけど、一応浄水できるように準備だけしといてね」

 浄水施設は水道としても使えるみたいだしね、あって問題になるものじゃないし水汲みが楽になるからプラスだからね。

「わかった、準備だけしておくからこっちは任せて」

 ヨシュアさんが返事をしてくれたのを確認してからイネちゃんは水源の場所へと出発した。

 当然ながら何事もなく水源の場所まで到着したのだけれど……。

「あぁ異界の勇者様……」

 現地にはアルザさんが文字通り途方にくれている感じに立ちすくんでいた。

 まぁ、そうだよね、水源となっていた地盤が毒溜りが出てくる時に吹き飛んでるんだから、今はアルザさんたち修道会側だって水が来てないはずだもの。

「水が出なくなってしまったので見に来たのですが……」

「アレが地下から出てくる時に岩盤ごと破壊して出てきちゃったみたいだからね」

「やはり、アレが地下に巣食っていたのですね」

 あなたたちのご先祖様が閉じ込めたんでしょ?と思いつつも言ったところでどうにかなるわけでもないし今は目の前の大穴に視線を向ける。

 中の空洞はそのままに、地下で流れていた川に関してもそのまま、単純に上に向けてあの聖人さんが出てきたってことか。

 まぁ、今イネちゃんが聞くべきは別のことだけど。

「ところで、あそこに川があるけれども、どこに繋がってるとかわかる?」

「いえ……、地下に川が流れていることも始めて知りましたので」

「近くにもっと大きい川や海があるとかもわからない?」

「すみません、この辺りの地上に川は人類が記録をつけてから1度も確認されておりません。ただ……あちらのほうに向かい海はありますが……それがどうしたのです?」

 うーん、となるとこの地下の川は海に繋がってるのか。

 となると生態系も考えないとなぁ、毒が広がってたこともあって豊かではないにしろ、元々あった生態系が戻るかもしれないし……。

「うーん、分割してなんとかできるかなぁ」

「はい?分割とはどういう……」

 アルザさんの質問には答えず、イネちゃんは勇者の力を使って地形を動かしていく。

「え、一体何が起きているのですか!」

 ここの調査に来ていた修道会の人たちが恐慌状態になっているけれど、今は気にせずに地形の形成を進める。

 とりあえず地底湖化してから……あぁいやこの空洞丸々ダムみたいに水を溜めるのはありかな。

『それでは地上の川が干上がる可能性があるので、むしろこの空洞を地上にだしたほうがいいと思いますよ』

 ヌーリエ様のアドバイス。

 流石に大陸の天地創造に関わった神様……言うことが大胆。

『私は天地創造には関わっていませんよ……より多くの生き物が元気になれるようにしただけですので』

 やっぱり天地創造レベルなんだよなぁ。

 でもまぁ、そういうことならヌーリエ様のアドバイス通りにやれば大丈夫か、少なくとも人間だけダメですーとかそういうことはないだろうし。

『人だって自然の一部ですからね、皆仲良く居られるのが一番ですよ』

 ムータリアスの人たちはそうではないみたいだけれど……それこそ教育と環境かねぇ、大陸の人たちはあまり疑うというのをしないお人好しとも言えちゃうし。

 ともあれヌーリエ様のアドバイス通りにやるとなると修道会の人たちを避難させないといけないか。

「今から大規模なことするから、あなたたちは大きく避難しておいて。この1回しか言わないからね」

「え……では今起きているのは異界の勇者様が?」

 アルザさんのその質問には答えずに、感知しながら生き物がいないかを確認しながら地形を整備して……して……。

 これ、なんというか大元の水源からガッツリ整備しないとダメじゃないかな。

『そうですねぇ、今のイネちゃんなら1時間もあれば大丈夫かと思いますよー』

 ……勇者の力ってすげー。

 でもまぁ、できるっていうのならやっちゃったほうが圧倒的に楽になるかな、後で水の通り道がーとかなって問題が起きても困るし、ヌーリエ様に手伝ってもらいながらならイネちゃんとしても安心できる。

『元々は雪解け水のようなので、そちらから緩やかに地形を作れば大丈夫ですよ。大まかなイメージなどは私のほうからお教えしますので、イネちゃんよろしくお願いいたします』

 ヌーリエ様本当万能感すごい。

 いやまぁ空は飛べないし、水中でどうこうとかはできないみたいだけれど、逆に地面のことに関しては創造神とか呼ばれるのが当然な能力してるわけで……改めてイネちゃんがその力の一部を使えるということに怖さと同時に気を引き締めないといけないという気にさせられるね。

「大地が……山が……」

「神や魔王の所業……」

 なんか後ろから聞こえてくるけれど、割と神の所業っていうのが正しい辺りイネちゃんは何もツッコまないし、ツッコめる立場にもない。

 ともあれ細かい微調整もしつつ、大元の川を地上に出すことに成功して、皆が水源だと思っていた場所には大きめの湖を作ることに成功した……というよりもしてしまったというほうがイネちゃんとしてはしっくりくるんだけどさ、うん。

 殆どヌーリエ様のアドバイス通りだったからなぁ……イネちゃんのアドリブ部分なんて大元の水源である雪山近くの森林を生育がしやすいように間伐した程度だしね、ちょっと苦労したおかげでこの湖周辺にも少しながら緑を植樹することができたし、将来的には更に植樹して森に切り替えることもできるし、なんだったら川沿いに農地を作ることもできる。

「異界の勇者様……申し訳ありませんが、本日はこの辺りで一度お帰りくださいませんでしょうか。先ほどの所業に恐怖を訴えるものが出てきておりますので」

「まぁ、わからないでもないけどさ。そっちにも川を繋げたんだからアルザさんは説明責任を果たしてくれたら嬉しいと思うよ」

「はい……水源の問題を解決してくださったことは分かっておりますので、今後皆様の活動は修道会側でサポートさせて頂きます。それでは……」

 アルザさんはイネちゃんに一礼してから他の修道会の人たち元へと歩いて行った。

 ムータリアスの人たちの中ではかなり融通が効く人たちなんだろうとは、イネちゃんも理解できるのだけれど……イネちゃんも根っこは大陸なんだろうねぇ、人体実験とかにはこう、拒否反応みたいなものを感じるから、毒溜りの聖人さんみたいな人がまだまだ居そうと考えちゃうとどうもね。

 ともあれ当初の目的である水の確保ができたので、拠点まで川を作りつつイネちゃんは帰還するのである。あぁ疲れた……。

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