第259話 イネちゃんと採取
「ティラーさん大丈夫?」
「大丈夫だが……消費した瞬間無理やり回復されるのはなんというか……うぷ……」
いかんティラーさんが回復酔いをなされている。
あ、皆さんこんにちわ、イネちゃんです。
今イネちゃんとティラーさんは毒溜りと交戦中なのだけれど……なんというか完全な消耗戦って感じでつらい、主にティラーさんが。
イネちゃんとしても火炎投射機にした手持ちのこの武器で消毒していってはいるものの毒溜りの規模が思った以上に大きくって燃料の補充が追いつかなくなってきてる。
「むぅ……これはそろそろ撤退すぺきかな、思った以上に消耗戦がつらい」
「じゃあ引くのか?」
引く……撤退する分には当初の目的だから問題はないのだけれど、さっきヌーリエ様に教えてもらったことも実践してみたいからできれば相手さんの溶解液を採取したいところではある。
最悪はイネちゃんがあの溶解液を喰らえば即解析完了するだろうけれど、リリアに怒られるとか以前にそもそもイネちゃんだってあれを浴びたいとは思わない。
「できれば毒溜りのサンプルを採取したいところだけど……」
金属すら溶かすあれをどうやって保存するのかっていう問題が生じてくる。
密閉なら回収後にイネちゃんが勇者の力っていう力技でやればいいけれど、そもそも保管するための容器が用意できないと採取なんて無理だった。
『足元にきているもので試してみては?』
ヌーリエ様のありがたい助言があるものの、ティラーさんを回復しつて火炎投射機の燃料を精製しつつ感知もしているから、裏でイーアに頼むにしても更に時間がかかりそうで……。
『いいよイネ、私が検証しておくから今は維持だけ考えて』
「イーア、大丈夫?」
『ムータリアスに来てから殆ど働いてないから大丈夫、むしろ鈍らないようにやらせてくれない?』
そういうことなら、お願いするかな……大丈夫な物質があればそれで容器を形成して溶解液を確保、そして脱出。
よし、この後の流れはできたね、ティラーさんが足をもつれさせるとかなければだけれど……まぁそこはイネちゃんがフォローすればいいや。
「ティラーさん、まだ持ちそう?」
「酔ってるような感覚はあるが……まぁそれ以外は大丈夫だ」
「じゃあまだこの結界の維持お願い。ちょっと相手さんのサンプルを採取するから、その保管容器の材質を探す時間が欲しいんだ」
「採取って……そんなことしてどうするんだ?」
「ちょっとね、ワクチンを作ろうと思ってね」
イネちゃんがそう言ったとほぼ同時に、イーアが溶解液が付着していた地面や壁の一部を色々な金属やガラスとかに変化させて反応の調査を始めた。
イーアが大丈夫な物質を突き止めるまでの間は、イネちゃんが毒溜りの本体にできるだけ打撃を与えていくことにして火炎投射機の引き金を引き、とにかく少しでも毒溜りのサイズが小さくなるように消毒……というよりも滅菌になってきた気がするから、いっそこれナパームでいいんじゃないかと思えてきた。
『イネ、ダメだからね?ここは水源なんだから』
「いや流石に冗談だから大丈夫」
ナパームで水源が問題になったのは地球の歴史であるからね、うん。
ボブお父さんが新兵だったときの教官さんがその戦場経験者らしくすごくうるさかったって笑いながら聞かされたっけか、懐かしいなぁ。
『イネ、普通の物質だとやっぱダメみたい。チタンとかセラミック、銀ですら無理だった』
「続けて、この洞窟は溶けてないんだから最悪岩盤でもいいし」
すごく重くなるものの、この際石の箱とかでもいい。
どのみちイネちゃんが勇者の力技で運搬すれば解決するし。
『まぁできる限りやってみるけど……ちょっと神話物質とか創作系まで引っ張るから、脱力に気をつけてね』
むぅ……確かに石の箱を運搬するくらいなら神話物質のほうが軽いし楽ができるけれど、撤退に支障が出るくらい消耗するのはちょっと避けたいんだよね。
とは言え軽い物ならティラーさんに持ってもらえるし、ここはイーアの言うとおり調査の継続をしてもらおう。
「ティラーさん、後どれくらいできそう?」
「あぁ……慣れてはきたが流石にだるくなってきたな……できればそろそろ切り上げて欲しいが」
ティラーさんは変な軽口とか言わないし、完全に本音かな。
となるとそろそろ撤退しなきゃいけないけれど……。
『見つけた!ヒヒイロカネで行ける!』
よりにもよって消耗の大きいヒヒイロカネか……まぁ、最悪の手段を回避できるのならそれでいいか。
イーアの報告を受けたイネちゃんは早速溶解液を回収するようにヒヒイロカネの缶を精製して蓋をしてからティラーさんに渡す。
「その中にあいつの溶解液が入ってるから、ティラーさん持ってて。撤退するよ」
「ようやくか……ってこれやけに硬いな」
「神話物質だからね、ともかく今度はティラーさんが先に行って、イネちゃんは殿だからさ」
「わかった」
流石ティラーさん、話がわかる。
ティラーさんが後退を始めたことにより結界も一緒に動くけれども、イネちゃんは少し遅れたタイミングで移動を始める。
「イネちゃん、先に行ってるぞ!結界はないがもういいよな!」
「うん、大丈夫だから駆け上がって!ティラーさんがいると締めれないから!」
それだけ言うとミミルさんとは違いティラーさんは駆け出した。
「灯火よ」
ちゃっかり灯りも準備するあたりはミミルさんより速度は期待できないものの、安心安全の安定感が、こういう作戦ではティラーさんを頼りにするだけの理由にはなるね、意思の疎通がスムーズっていうのは実際大事。
さて、イネちゃんはティラーさんがある程度階段を登るまでの間、毒溜りを通してはいけないわけだ。
ちなみに今回、毒溜りが溶かせない金属が判明したことで、先日のように岩盤で封鎖する必要はなくなってるんだよね、ヒヒイロカネによる気密ドアとかいう謎の施設感溢れるものになるけれど、戦闘前に掘削成形で力を消耗する必要がなくなるのはイネちゃんにとっては大変重要な項目にはなっている。
次回少しでも楽になればイネちゃんとしてはとっても楽ができていいのだ。
「さてと、そのドアを作るまでの間は、イネちゃん本人が封鎖しなきゃね」
正直、本来の火炎放射器ならスイッチ1つで投射と放射を切り替えられるんだろうなぁと思いつつ、イネちゃんはその構造をうまいこと把握できていなかったので機能別で作ったのだけれどその1本は取捨選択でおいてきちゃったんだよね、丁度今の撤退戦で使えそうな放射のほうが。
とはいえ今はこの投射機でやらざるを得ないのでひとまずイネちゃんが階段まで下がってから立っていた場所に向けて引き金を引く。
当然ながら炎が破裂して広がり、緑のモヤが炎を避けているものの放射とは違ってムラがあるからかするりするりと抜けてきているのが見える。
「これはちょっと……面倒だなぁ」
この調子で炎を投射し続けててもヒヒイロカネのドアを形成することはできないから困ったことになる。
絶え間なく溶解液が飛んできたりしていて、イーアに頼んだとしても作っている最中に毒溜りの一部が外に出てきてしまうかもしれないし、その可能性が高い気がするけれど……。
『状況が変わったんだし、もうちょっと上でやるのはどうなの?』
「イーア、それ採用」
そうと決まれば動きは早い。
階段の1段目、その天井に炎を当てて破裂させてから10段くらい駆け上がり、まずはヒヒイロカネでドア枠を形成する。これは簡単、ヒヒイロカネは既にそこそこの回数変換をしているためかそれなりに早い速度で変換ができるのだ。
まぁ作ったところで使い道は殆どなかったんだけどさ、今こうして役に立っているから無駄ではなかったね。
次はドア本体を作らなければいけないのだけれど……。
『イネ、もうちょっと火力強めに!本体が来る!』
ドアを作る前に来られるとかなり困ったことになるなぁ、ただ既に火炎投射機の火力は最大で使っているから対応することは……できなくはないけれど溶岩とかを使わざるを得ないわけで……。
『側溝みたいな感じにできないかな、通り道で誘導して巡回させる感じにしてさ。ほら、ドアを作るために周囲もある程度整備したし』
「そういえば……雨水とかを誘導するのは作ったっけ、完全についでというかそういうものだって感じに作ったのだから素材がコンクリだけど……」
『もうヒヒイロカネに変えてあるよ!』
なら大丈夫かな、では早速。
イーアが変えたっていうところに壁の部分から溶岩を流し込み、その溶岩の流れる先はこの場所よりも更に地下にして地下水を守る粋な計らい、なんということでしょう毒溜りが溶岩を嫌がって動きを止めたではありませんか!
『イネ、そういうのはいいから早くドアで気密するよ』
あ、はい。
とりあえず今回は、当初の目標から1つ追加で毒溜りのサンプルを採取できた。
次はこれを解析して毒溜りの溶解液や毒を解毒していくことになりそうだね。
そう思いながらイネちゃんは外を目指したのだけれど……この時はまさかあんなことになるとは思わなかったのだった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます