第236話 イネちゃんと儀式の効果

「それで、あのモグラはどうすることになったの?」

「イネ、せめてモグラ料理を食べてる間はやめとこ?まぁでも教会で儀式の間を拡張してモグラが生活できる場所を作って、今度はあの子に守ってもらうことになったよ」

「なるほど、共存関係を築けたってことでよかったよかった」

 というわけでイネちゃんたちはトータの繁華街にあるモグラ料理のお店に来ているのであった。

 お肉の硬さはそれほど硬すぎずという感じで噛みごたえがあるのに、噛めば噛むほどお肉の繊維がほぐれて溶けていく感じが……なるほど人気になるのも頷ける。

 今食べてるのは味付けは塩コショウ、バターで焼いたステーキなんだけれども、コーイチお父さんがなんとか納税で送られてきた美味しい牛肉と比較しても甲乙つけがたいくらいで、しかも結構値段が安いんだよねぇ。

 大陸では農作物は基本金銭取引はほぼされていないのだけれど、こういうお肉に関しては生物個体数の問題で高値で取引されてるのにも関わらず、日本だと2000円くらいしそうなのに大陸だと……まぁ使われている通貨が違うし一概には言えないけれど、概ね半額くらいといったところかな、食べ物に関してはかなり安いんだよねぇ。

 まぁそう言っても、それだけだと一次産業者が金銭を使った商取引が難しくなるから、ヌーリエ教会が把握している一次産業者には毎月一定額支給されているらしい。

 ちなみにお料理にはちゃんと対価が発生するのは、調理という技能に対して払われるものなので、リリアやタタラさんのような人は副業でお食事処もできたりする。2人ともする気はないみたいだけど。

「揚げモグラ、美味しい……」

 ロロさんがすごくだるんだるんの表情でお肉を頬張ってらっしゃる!

 揚げモグラは唐揚げみたいな感じで、いくつかのソースに粒マスタードが添えられていて、見ているだけでも美味しいだろうというのがわかる。

「……あげない、よ?」

「あぁいやうん、欲しくなったら自分で注文するから大丈夫だよ」

 凝視しすぎてたのか、ロロさんから頬を膨らませながら文句を言われてしまった。

「そういえば儀式はうまくいったのか?」

 ティラーさんがモグラのサイコロステーキを口に運びながらリリアに聞いた。

 まぁティラーさんは現場にいなかったもんね、キュミラさんの監視で。

「うん、レスターさんも流石タタラ師の娘さんだって褒めてくれたし」

 親と比べられて反発するどころか頬が紅潮する感じに喜ぶリリア。

 いやまぁファザコン的なリリアならこの反応もわからないでもないけれどね、実際タタラさんって大陸でも指折りの実力者らしいし。

「ところで儀式をして何か変わるんッスか。リリアさんに変わった様子はないっぽいッスけど」

「儀式って巡礼者のためのものじゃないからね。儀式は大地の魔力循環を改めるのが目的だから、巡礼者がいないときはその教会の担当者が行うことになってるし」

 魔力循環の正常化って、結構重要なものなのかな。

「大地の魔力が純然じゃない状態になると、ヴェルニアの街周辺のようになっちゃうからね」

「ヴェルニア近くみたいになるって、あの周辺って魔力がおかしくなってたの?」

「んー色々分散しちゃってはいたから、自然な状態ではなくなっていた。が正しいかな、基本的に大陸の魔力はヌーリエ様の加護の有無に関わらず規則正しい感じになってるからさ」

「となるとその魔力の流れが外部からおかしくされてたってことなのかな」

「婆ちゃんが言うにはそうみたいだよ、ここの魔力もなんだかおかしい感じだったし異世界の人が何かしたのは確実なのかもしれないね」

 ん、ここの魔力の流れもおかしくなってたってことは、共通の何かがあったってことなんじゃ。

「ヴェルニア、どうなってるか知らない……けど、もしかして……転送、魔法?」

「あぁ、あの人らが大陸に来るとき絶対に使わなきゃいけないもんね。ただでもヴェルニアのほうは結構すごい範囲で沼地になってるから、そのへんで何か違ったりするのかな」

 違いがあるとしたらそこだもんなぁ、絶対に使わないといけない世界間移動の……異世界だと奇跡だっけか、それを使ったのは同じとしてもヴェルニアとトナとトータ付近で起きた異世界の人たちの襲撃に違いって何かあったっけ。

「違いかぁ、錬金術師が長期間いたかいないかかな、婆ちゃんもあいつのことなんかすごく変な言葉で表現してたし」

「あー錬金術師、ヴェルニアでマッドスライムの研究してたんだっけか」

 その汚染を浄化するためにイネちゃんが勇者として覚醒したからねぇ、よくよく考えてみれば、イネちゃんって異世界の人たちに結構大変な目に合わされてるんだね。

「うん、婆ちゃんもそれが原因で魔力の流れが異常になったから沼地が広がったんだって言ってたよ。一応ヴェルニア周辺は元々沼地が点在してたからね、あそこまで全域がなってるのは異常だけど」

 沼地が点在、っていうのはイネちゃんもヴェルニアに滞在してた時に本で歴史を調べたから知ってたけれど、やっぱり歴史書に書かれていたとおりあの辺って元々あんなふうじゃなかったんだね。

「一応教会を作って、オオルが見習い修行ついでに管理をすることになったけれど、イネのおかげでかなり元に戻って来てるらしいよ」

「イネちゃんが覚醒したときかな、あの時はヌーリエ様の指示通りに行動しただけだから、イネちゃんとしても何をどうしたのかあまり記憶がないんだよね」

「うん、イネが能力を発動させたときからだいぶ緑が戻ってきてるって、街道付近が特に顕著でかなり安全になってるってトナにいるときに母さんから聞いたからさ」

 そっか、リリアにしてみれば巡礼の旅に出てからも結構身内が近くに居たんだよね、特にロロさんの故郷ではまさかのタタラさんだったもんなぁ、聞く機会はいくらでもあったってことか。

「そういえばトータのギルドで何か情報、あった?」

「ない。復興も、順調……あえていうなら、人がトナと、ロロの村に行って、少ない……くらい」

「うん、その分細々としたお仕事が残ってはいるけれど、トータは治安もいいし、ドワーフさんの自治能力と戦闘能力が高いおかげで物資調達の依頼も殆どないくらい。子供のお使いを遠巻きに見守っててーとか、街周辺の見回りの臨時増員くらいだったよ。異世界の人たちの扱いに関しては現地ギルドとヌーリエ教会で協議してるから関係のない地域には情報があまり回ってこないし、そもそもギルド管理者も積極的じゃないみたいだからこの辺は仕方ないかな」

 むしろこの辺はリリアのほうが手に入れやすいんだよね、教会の情報は関係なくても共有するって方針らしいから、シックに情報を集積させていつでも調べることができるようにしているみたいだし。

「うーん、ギルドのほうって情報共有やってなかったんだっけ」

「そういうことはないけれど、今回の件は情報規制が入ってるっぽいね。まぁ敵意満載の異世界としか今表現できないし、ヌーリエ教会みたいにまずは許容して話し合いからっていうのはちょっと難しいからね、血の気の多い人もいるし。そうなると保護されたカカラちゃんの安全が保証しきれなくなるかもだからさ。それに何よりギルドがオープンにすると民間人に伝わりやすくなって混乱を招いちゃうからさ」

 教会のほうは能動的に調べようとして始めてわかるようになってるけど、ギルドのほうは不特定多数に通知する形を取るからっていうスタンスの違いから来てる違いではあるけれど、結構大きな違いでもあるんだよね。

 調べようとするっていうワンクッションで、情報の拡散速度が段違いに遅くなるから関係のない民間人を混乱させたくないっていう場合は情報規制としてやらなきゃいけない場合、知る権利を守りながらってなると今上がったみたいにヌーリエ教会とギルドのように違ってくることになる。

「そっかぁ、でも確かに普通の人は混乱しちゃうよね、相手がどういう人なのかわからないんだもの」

「うん、教会の人ならだからこそまずは話し合おうだけど、ギルド側も民間人も皆が皆それができるわけじゃないから」

 うーん、ちょっと変な空気になっちゃった。

「あ、そういえばカカラさんってどうなったッスか?」

 そういえばあのあと教会で保護したんだっけか、ギルドだと守りきれないだろうしなぁ、人員割くにもできそう場所ってなさそう……あ、ヴェルニアは一応大丈夫なのか、キャリーさんも登録してるわけだし。

「客人としてシックで大陸のことを教えてるよ、おじさ……司祭長様が直々にやってるから身の安全とかは大丈夫」

 今おじさんって言いかけたね、間違ってないからいいとは思うんだけれど公的な場所ではってことなのかな。

「まぁ現時点で1番安全な場所と言えばシックだろうからな、日本だったか、そっちにも錬金術師が襲撃してきたことを考えると無難だな」

「ティラー、その……日本?って、知ってる、の?」

「あぁ、今話題に上った司祭長様の護衛でだな……」

 うん、話題のほうは良くなったかな儀式の効果とか、異世界との関係とか、その橋渡し役になりそうなカカラさんのこととか……一部忘れそうになってたのも思い出しながらイネちゃんは残りのモグラのステーキを口に運ぶのだった。

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