第237話 イネちゃんと異世界戦争
儀式の翌朝、イネちゃんは儀式を行う泉広場の隣にモグラさんの生活できる場所をヌーリエ様の指示を受けながら生成して、教会で皆集まり昼食を取っている。
「儀式が終わったわけだけど、トータには後どれだけ滞在するの?」
まぁ巡礼の目的である儀式が終わったわけだけど、元々トータは休息の意味合いも含まれてるらしいし、イネちゃんの想定では後2、3日滞在するのかなーと思いながらふと聞いてみたのだ。
「んー後2、3村を回りたいから、明日には出発したい感じだけど……イネはもうちょっとトータに居たい?」
「あぁいやリリアの巡礼なんだしそこはリリアの都合でいいんだよ。イネちゃんはトータの街は暮らし心地はいいけれどそれ以上の理由はないし、気にしないでもいいんだよ」
あえて言えばモグラ料理がもう一度食べたいかなー程度だけれど、それなら今日のおやつで揚げモグラを食べればいいだけだしね。
「それにしても巡礼って個人裁量で回る村を決めていいのか?」
「うん、一応は決められてる巡回ルートはあるんだけども、目安でしかないんだよ。基本的にはそのルート付近に小さい村が点在するように組まれてるからどこに寄るかは個人裁量で決められるのが普通かな」
リリアがティラーさんの質問に答える。
しかしまぁそういうシステムになってたんだね、巡礼って。
そうなると村や街ごとにルートが違ったりするのかな、シックとの距離で色々かわるだろうし、シックから遠くの場所からだと直線ルートで良さそうだからなぁ。
「じゃあ出発は明日……」
そうリリアが言おうとしたとき、神官長さん……レスターさんが慌てた様子でイネちゃんに向かって叫ぶように懇願してきた。
「勇者様!急いでシックへと向かってください!」
「え、ちょっと何が起きたとかは……」
「異世界の軍隊が直接シックに攻めてきました!」
……なるほど、それなら慌てるのも理解できる。
「うん、でもシックなら応戦できるんじゃないの?」
「それはそうなのですが……相手の数が問題でして、その……20万との情報があるのです。ムーンラビット様とササヤ様も急ぎシックへと戻られたようですが、流石に完全に包囲されている状況で持久戦に持ち込まれてしまうと……」
「民間人が守れない、か……」
本来ならココロさんとヒヒノさんが居て、四方から崩していけたんだろうけれども今はそれができないわけで、いくらササヤさんが化物みたいな強さで、地球の軍隊相手にも無双しそうだとは言っても体力の問題はあるだろうし、ムーンラビットさんはアレで自称戦闘は苦手って言ってるから、本当は指揮を執るほうが本領を発揮できる人だろうしね、そうなると単独で戦える頼れる戦力となると、イネちゃんだけになるわけだ。
正直、民間人の被害を考えないのなら負けることはない……どころか殲滅余裕だとは思うけれど、そんな選択肢はないわけで、イネちゃんとしても参加したいけれど……。
そう思いつつリリアを横目で見ると。
「イネ、お願いできる?私たちはイネが帰ってくるまでトータで……」
「ロロも、勇者と、行く」
おや、リリアが見送ってくれる流れになるのは予想してたけれど、まさかロロさんがついてくると言い出すとは思わなかった。
「ロロさん、いいの?」
「うん、多分……だけど、トーリスと、ウェルミスも、いると思う……し」
「イネちゃんは、多分だけど守ってる暇がないと思うけど……」
つまり、死にそうになっても助けにいけないということ。
「ロロみたいな子は、作っちゃ、ダメ」
ロロさんの決意に満ちた目を見て、ひと呼吸、間を作ってから少し目を閉じてイネちゃんは改めて聞く。
「本当なら、ロロさんにはリリアを守っていてもらいたいとイネちゃんは思ってる。でもロロさんは、シックの人たちを守りたいんだね」
ロロさんは静かに首を縦に振る。
さて、イネちゃんは次になんというべきか……。
そう悩んでいると、リリアが。
「私は大丈夫、それにティラーさんとキュミラさんもいるし、ね?」
「まぁそうだな、そんな大軍相手だと俺はいてもいなくても同じ……どころか足を引っ張りそうだからここに残らせてもらうよ」
「私もそんな怖い場所行きたくないッスから、遠慮なさらずイネさんたちでどーぞどーぞ」
キュミラさんは無事に事が終わったらお仕置きで。
「うん、でももしかしたらリリアにも招集かかるかもしれないから、どちらにしろ早いか遅いかかもだしね。万が一そういう事態になったとき少しでもリリアの安全が守られるようにイネちゃんは先にシックに行くよ。ロロさんもいいよね」
「うん、少しでも、安全確保する。皆守る」
ふんすという表情をするロロさん、かわいい。
「お話はまとまりましたか?それでは今すぐ転送陣の準備をしますので、勇者様と傭兵のお嬢さんは準備をよろしくお願いいたします」
そう言ってレスターさんは慌ただしく転送陣の準備をしに行った。
さて、イネちゃんも準備をしなきゃいけないのだけれど……大軍相手に迎撃戦になりそうだし、ついに持ってきてはいるけれど1度も使ったことのないMINIMIさんの出番かな!
本来なら出番がないことを喜ぶべき武器の出番に不覚にもちょっとテンションが上がってしまった。
でもまぁ20万とかいう数字を聞いた以上、相手が異世界の軍だって言うのならゴブリンもいるだろうし遠慮なくぶっぱなしちゃっても、いいよね?
「ロロも、準備してくる」
「イネちゃんも寝台車両でずっと塩漬けになってたあの武器とってくるよ。あれは大軍相手に威力を発揮できる武器だからね」
「なんでそんな威力のものを持ってきていたッスか……」
「キュミラさん正論やめて?」
イネちゃんだって出発してから、なんで持ってきたんだっけって何度も疑問に思っちゃったんだからさ。
「まぁ、とりあえず準備ができたらここに集合、転送陣の準備ができたらイネちゃんとロロさんで出発……でいいよね」
イネちゃんの確認の言葉に皆は首を縦に振る。
さて、これは早く準備したほうがいいかな、既にムーンラビットさんとササヤさんが参戦していても援軍を要請してきてるわけだからね、最悪シックに到着して即戦闘もありえるからできるだけ急いがないとだね。
教会から出て寝台車両にしまっておいたMINIMIを担いで、他にも必要になりそうな弾薬をいつも持ってる弾薬ポーチにしまっておく。
勇者の力をフル活用すれば通常の火薬を使った弾薬なら地面から生成できるのだけれど、流石に焼夷弾に使う燃焼ジェルとかは無理だからね、炸薬に関しては地味に市販品より良くなったりするけれども、こればかりは作れないのつらい。
もういっそMINIMIの弾薬を全部劣化ウランにしてしまおうかという誘惑もなくはないけれど、流石にそれをやるのはちょっと人道的にどうかなとも思うしね、MINIMIで掃射する時点で既にない気もするけれど。
ともかくイネちゃんの装備を指差ししながら確認して教会に戻ると既にロロさんが完全装備で待機していた。
「勇者、準備……できた?」
「うん、遅かったかな」
「ううん、ロロの装備が、少ないし」
これはレスターさんが1番遅いのかな、と思ったところで。
「勇者様、転送陣の準備が整いました。ですが今もシックでは戦闘中とのことですので……」
「うん、それは想定してるから大丈夫。到着したら即戦闘だね」
後必要なのは、人間を撃つという覚悟だけれど、その覚悟はイネちゃんが冒険者、傭兵登録したときに既に済ませてるし、お父さんたちの訓練も対人前提のものが多かったからイネちゃんからしてみれば今更というものだ。
そうなると問題はロロさんの方だけれど……。
「大丈夫、盗賊とかとは、戦ったこと、あるから」
「相手は盗賊じゃない、軍人だよ。それに……ロロさんの故郷みたいに強制的に徴兵された人も絶対に混じってると思う。そういう人を……」
イネちゃんはここで少し考える。
強い言葉を使うか、少しオブラートに包むか……。
「うん、わかってる。勇者が、言いたいのは……そういう人、殺すことに、なるかもってこと……だよね」
「……うん、一応ロロさんなら守りに徹すればそれを回避することはできると思うけれど……」
イネちゃんの心配は杞憂という感じにロロさんは首を横に振り。
「皆に、押し付けることになるから」
いつもの途切れとぎれな感じじゃなく、はっきりとした口調でイネちゃんに向かってロロさんはそう言った。
それでもと言うことはできるけれど、それを言ったところでどうしようもないくらいにロロさんは覚悟完了してるのなら、イネちゃんからはこれ以上言う言葉は持っていないね、現地でトーリスさんとウェルミスさんに言われるだろうけれど、それはまたそれでロロさんの問題だからね。
「さて、覚悟の確認もしたし、行こうか」
「イネ……気をつけてね」
「うん、リリアのほうもね。じゃあ、行ってきます!」
こうしてイネちゃんとロロさんは2人でシックへと向かったのだけれど……日記、書く余裕あるかな。
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