第227話 イネちゃんと皆と作業

「それじゃあイネが気を利かせて搬入路とインフラ系の場所を確保しておいてくれてるから、このあたりの詳しい配線は教授のほうについている人が専門だからそっちに丸なげしちゃっていいと思う。私はこの世界の文化とすりあわせて使い勝手を考えるから、むしろタタラさん、色々教えてもらっていいかな」

 設備インフラの知識があるステフお姉ちゃんを中心に会議は進行していった。

「ふむ、電気、というものい関してはヌーリエ教会でも一部でしか使われていないが、幸い私が管理している開拓町の教会は、日本との交流を考えて電気の整備もされているからな、大陸での電気は基本的に日本と同等のものと考えてもらって構わない」

「管理者にそう言ってもらえるのは楽でいいですねぇ、それでは配線図に関してはイネの作った図面に私が修正を加えたものでいいとして……水回り、お風呂は必要だよねぇ」

「お風呂より優先はおトイレじゃないかな……まぁあったほうが圧倒的にいいのは確かだけど、イネちゃんここ最近ずっと濡れタオルでしか体拭けてないし」

「なん……だと……」

 いや何がなんだとなんですかねステフお姉ちゃん。

「水回りの配線に関してはキュミラ殿に集会場まで行ってもらった、それでは私たちはその配線の話し合いが行われるまでの間できる作業を行うということで問題はないのだな」

「オーケー、まぁ私は肉体労働はできないから現場監督みたいに指示出し担当ってことで」

「それじゃあイネちゃんとティラー殿は引き続き作業を頼む。特にイネちゃんに関しては他に代役がいないからな。私も畑の整備は既に終わらせたのでティラー殿の家具作りを手伝おう」

 うん、人が増えていい具合に作業分担できるようになったね!明らかにイネちゃんだけ作業過多だけど!

 まぁあれこれ言ったところでイネちゃんの作業が減るわけでもないし作業はじめよ。

「あぁイネ、図面見た感じだと私が行ってた高校っぽいけれど間違ってないかな」

「え、あぁうん、ステフお姉ちゃんに連れられて行った文化祭の時の記憶を元にそれっぽく作ってたんだけど……ダメだった?」

「いや、確かに大人数の共同生活の場として考えるならいいんだけれど、生活感が薄くなっちゃうからね、少し私の言うとおりに変更してもらっていいかな」

 なんだかナチュラルにイネちゃんの勇者の力を理解してるなぁステフお姉ちゃん。

「いいけれど、どんな感じ?」

「えっとね、教室みたいな感じなのはいいんだけれど、個室か多くて2人部屋くらいのほうがいいかな、そういうことで外と面しているところを個室として、奥のほうを共同作業場にするの、窓もあまり大きくなくていいからさ……ほら、コーイチおじさんの持ってるアニメに出てくるような学生寮みたいな個室」

 ステフお姉ちゃんも例えでコーイチお父さんのアニメでやるんだ……いやまぁステレオタイプ的にイネちゃんが理解しやすいってことだろうけれど、これはいいのだろうかと思わなくもない。

 まぁ実際作業が進んで居住性が上がるなら問題ないや、ステフお姉ちゃんの言うとおり進めたほうがイネちゃんとしても楽だし。

「じゃあちょっと奥の作業は後回しにしてもらって、この場所の設備をやってもらうように伝えないと。家具は全部できたわけじゃないけれど、もういくつか搬入されちゃってるし奥に持っていく前にやらないとだしね」

「OK、私が伝えておくからイネは作業始めといて」

 ステフお姉ちゃんがそう言って皆のところに走っていった。

 体育会系ではないけれど、伊達にボブお父さんの子供ではないって感じだよね、結構足が速いし。

 まぁそんな感想は置いておいてイネちゃんはステフお姉ちゃんの提案に乗って既に出来ている場所も含めて岩盤を操作していく。

 山ってこともあって結構頑丈な素材が多いし、この山は火山じゃなくて単純に地面が隆起した場所っぽいしマグマの心配をしなくていいからこの操作が気楽でいいね、やろうと思えばマグマに変換できるのが感じられるけどやる理由はないし……あぁいや黒曜石とか作る分にはちょっと利用するのはいいのか。

 イネちゃんが記憶頼りに作った教室を半分にする形で個室にしていって、家具の搬入がしやすいように出入り口は大きめ……水回りとか電気配線にも気を使わないといけないんだよね……結構集中力持っていかれるなぁ、細かい作業だし……。

 なんというか粘土をこねてマンションの形を作るときに、電気配線や水道管も再現するような感じで、かなり難しい。

「おーこんな感じに地面が動くんだ……粘土っぽいねぇ」

 ステフお姉ちゃんが伝えて戻ってきたのか隣で声がする。

 イネちゃんは返事をする余裕も今はないのでこのまま作業を一気に進めたいのだけれど……1個部屋を作ったら後はコピーペーストする感じにできるしそこまで我慢我慢……はいいけれどステフお姉ちゃん待ってくれるかな。

「おー……これがイネの勇者の力、もはやSFの領域な動きしてるねぇ」

 SFって……あぁでもステフお姉ちゃんに見せられた映画にこれっぽい描写があったっけか、映画のほうは結構なスプラッタだった記憶があるけど。

 しっかしステフお姉ちゃんが修正した図面、結構細かくて大変なんだよ。換気扇とか細かく設定してくれるのはいいけれど、そこまで細かくするなら材質も書いてて欲しかったのが本音……まぁそこまで行くと専門知識になっちゃうのかな、金属と建築の両方の知識が必要だろうし、イネちゃんだって金属周りの知識はさっきからボソボソ囁いてくれるヌーリエ様のおかげだし、細かすぎてここには書かないけど。

「むむむ……おー……」

 ステフお姉ちゃんが何やら感嘆の言葉を漏らしているあたり気を利かせてくれてるかな、終わるまでこのままいければ……。

「よし、作業再開だ」

 ティラーさんの号令の直後……。

「うぉぉぉぉぉぉぉやるぞぉぉぉ!」

「飯のため!」

「ふっかふかおふとぉぉん」

 うるさい。

 捕虜の人たちが素晴らしくうるさい。

「静かにしろ、イネちゃんの邪魔になる。すまなかったなイネちゃん」

 タタラさん、ありがとう……でも返事をする余裕は今ちょっと難しいんだ、こっちこそごめんね。

「あぁいいよいいよ、イネは今かなり集中してるみたいだから多分返事もできないだろうしそっちは作業に戻ってくださいな。あぁドアとかの立て付けに関しては誰かこっちに寄越しておいてくれないかな」

「俺が行こうか、タタラさんはこいつらと家具を頼みます」

 うーん、裏でお話が進んでいるけれど、さっきちょっとミスっちゃったからその修正に追われて反応できない……うぅ、イネちゃんだってお話したいのに。

『イネ、集中。私も手伝ってるんだから』

 むぅ、イーアにも怒られた。

 まぁイネちゃんだけだとまともに細かい部分が難しかったからイーアにも手伝ってもらっているのだけどそれでも時間がすごくかかってるんだよね、電気配線周りが本当細すぎる。

 ともあれ既に数日かけて前準備をしてきてベースとなる土台があるし、問題になるのは今やっている配線だけなんだけどね、水回りに関してはそこそこ大きいのを水回りで集中させて個室にはつけないってことにしたらかなり楽になったし、予め用意しておくスペースも確保済みだし、後はこのまま……。

「…………よし、できた!後はコピーするだけっと」

「お、終わったの?」

「1部屋だけだけどね、後はコピペでいいかって」

「……すごくゲームっぽい」

 ステフお姉ちゃんがなんだか少しがっかりした感じの表情で言うけれど、イネちゃんとしても1番イメージしやすい感じだったのだからゲームっぽいのは仕方ないんだよね。

 細かさだけで言えば銃の整備とかのほうが細かいけれど、今やってるのは規模的にそっちを参照しちゃうと変なことになりそうだったからね、銃の方にはあまり配線とかないからイネちゃんの頭が混乱しちゃうんだよねぇ……。

「でも1部屋だけなのか?今日からここに泊まれると思ってあいつら頑張ってるみたいなんだが……」

 ティラーさんが最もな質問をしてくる。

 まぁ殆ど一日半丸々かけてようやく1部屋だもんそう思うのも必然だよね。

「1度作っちゃえばその構造を複製するのは楽だよ。もう一気にやっちゃう予定だけど……どのくらいいたっけ?」

 イネちゃんは複製作業を進めつつティラーさんに返答と質問をしていく。

「あぁそうなのか……人数はちょっと把握しきれていないが、元の村のほうにもそれなりの施設を今夢魔の人たちが全動員されて進められているからな、少なくとも今こっちで作業している連中が眠れる場所ができればと思うが……最低でも100人単位か」

 むぅ、元は3万人だから少なくはないと思っていたけれど、全室個室とするとスペースが足りないかなぁ。

「これって、全部個室じゃなくていいのかな」

「うーん、不満が貯まるからできれば全員一緒がいいと思うけど……もしかしてスペース?」

 さすがステフお姉ちゃん、イネちゃんの考えていることをすぐに察してくれた。

「うん、全部個室だと入れて多分1000人くらい……それでも十二分以上に大きい施設だと思うんだけど、流石に難しいかなって。だから指揮官クラスを個室、一般兵士の人たちは悪いけれど雑魚寝というか、集団部屋になってもらうとかさ」

 元が軍隊ならそういう感じにするほうが多分いいだろうしね、指揮官クラスの人は下士官とーとか言うだろうし。

「私はそのへんはあまり詳しくないからなぁ、多分イネが言いたいのは軍隊的な分類だろうし……」

「あぁそれなら最初からそれで考えてたぞ、でなきゃ万を超える人間をこの村の敷地に押し込めるなんて不可能だったしな。ベッドの大半は2段で作ってある」

「つまり捕虜の人たちも?」

「あぁ、理解してやってる。まぁ指揮官クラスの連中にしてみればサプライズで喜ぶだろうからいいと思うが、それでも個室が50は必要だぞ」

 むしろ指揮官クラスが50人しかいなかったのか、総指揮官1に補佐が3、大隊10くらいとしても中隊で一気に増えるから200人くらい必要だと思ってた。

 もしかして中隊長クラスでも一般兵士と一緒の宿舎だったりしたのかな。

 異世界の軍様式、尋問していたムーンラビットに聞いておけばよかったと思いつつ。

「じゃあ、平屋部分はこのまま士官部屋にして、上層階は集団寮にしようか」

「おう、そうしてくれ。搬入は少し難しくなるが仕方ないな。それじゃあえっと……」

「ステフ=クラン。本名もこのままステフだよ。クランさんはかたっ苦しいからステフのほうで」

 ティラーさんはそう言ってステフお姉ちゃんとこれからの作業のお話を始めた。

 さて、イネちゃんはコピペと、2階以降の搬入性の確保をしつつ集団部屋を作っちゃおうね。

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