第211話 イネちゃんと転移襲撃
イネちゃんとリリアがお休みをもらってから再び数日後、その間にもムーンラビットさんが数人を引き連れて捕虜の人たちをシックへと連行して行っていた。
異世界からのビーコンとなる捕虜の人たちがいなくなったことで村人の人たちは安堵の表情を見せつつあったけれど、まだ村に残っているギルド長さんとイネちゃんはむしろ気を引き締めていた。
「襲撃、あると思います?」
「防壁は出来上がってきているも中途半端、最大戦力はいるものの主力の半数は不在で兵の練度はそこまで上がっていない上にしばらく間が空いたことで油断仕切っているとなれば……私が指揮官ならこのあたりで1発派手にやるねぇ」
「だよねぇ、捕虜がビーコン……目印になっているって情報が広がってるから、村人さんですらあの顔だもの、こっちの様子がわかっているのなら仕掛けるタイミングですよねー」
「なら何故皆にそれを言わないのかい」
「その言葉、そのままお返ししますね」
「2人は何を言っているッスか……」
似たようなことを言い合っているイネちゃんとギルド長さんに向かってキュミラさんが呆れた口調で聞いてくる。
「んーだって襲撃するなら絶好のタイミングだし……」
「だよなぁ、一応この村のギルド創設メンツは揃いつつあるし、冒険者、傭兵双方共に何が起きてもいいようにとは言ってあるが数が少ないしなぁ、何より素直に命令を聞く連中じゃねぇ」
それは自慢するところではない気もするけれど……まぁイネちゃん自身がギルド長さんの指揮下にって考えたら割と独断行動する自信があるので黙っておこう。
「まったく、そうやってくるぞーくるぞーって言い続けると本当になっちゃうッスよ」
「日本のほうだと忘れた頃にやってくるって言葉があるから。それに何事も警戒して備えるのに越したことはないでしょ?」
「それはそうッスけれど、来なかった時無駄にならないッスか?」
「無駄ってことはそれだけ社会に余力があるってことだよ、常に100%で無いと駄目なんて何か1つ想定外のことが起きたら総倒れ確定だからね」
常備軍もだけれど、警察組織や消防レスキュー、果てはお医者さんまで無駄の塊になっちゃうしね、どれもこれも自分たちのお仕事がなくなるために日々働いてる人たちだし。
……まぁ警察に関してはちょっと違うかもだけれど、少なくとも消防とお医者さんはそうやって日々お仕事してるわけだし、見方次第では無駄と言えなくもない。
特に大陸だと既にお医者さんがって感じだしなぁ……ヌーリエ様の加護のおかげで病気とかには無縁レベルの耐性持ちばかりだからね、割と大陸の人から採血して調べると地球で猛威を奮っている病気のいくつかは根絶できそう。
「でもハルピーネットワークでも周囲にそれっぽい人たちはいないッスよ、気にしすぎじゃないッスかね」
「いや、あの捕虜の人たちが襲撃してきたときの流れを考えると徒歩じゃ……」
イネちゃんがそうキュミラさんに言いかけたところでそれは起こった、起こってしまった。
爆音と共に集会場近くに貯めておいた材木が破裂、炎上した。
「敵は主力がいないはず、一斉に制圧せよ!」
ほーら、1番警戒しておくべき方法で襲撃してきた。
2回目の襲撃が既にこれっぽかったし、既にあちらさんには位置情報があると考えてよかったからね、とりあえずイネちゃんとギルドの戦力は即応しておこう。
あ、ちなみに異世界の人たちの言語に関してはこの村にいる人たちは既に夢魔の人たちから処置してもらって判断できるようになってたりする。これで言っていることがわからなくてとりあえず全員捕虜にするという手間を省くことができる。
つまるところ指揮官だけさっさと倒しちゃおうがすごくやりやすくなっているわけだね、それでも民間人優先で狙われたら正直守りきれる気がしないのがイネちゃんの未熟なところだけど。
「それでは勇者殿は襲撃者の鎮圧に、民間人の護衛は我々に任せておいてくれたまえ」
「じゃあとにかく指揮官を狙ってみます、幸い言語の問題は解決してますし……夢魔の人たちにも連絡を入れて民間人の安全を最優先で動いてもらってください」
「それは当然だな、問題ない。むしろ彼女らはそういった立ち回りが得意だからな、せっかくいるのだから任せない理由はないだろう」
「もう!2人とも今はまず対応ッスよ!私は渡りさんたちに今降りないように注意するため上空に行くッスから!」
うん、理由をつけて逃げたな。
イネちゃんがツッコム前に速攻でキュミラさんが飛び立つと。
「化物だ!殺せ!」
「ひぃやぁぁぁぁぁぁ!私は美味しくないッスよぉぉぉぉ」
いやぁ食べようとはしてないなぁ……まぁ襲撃者が既に村の中に居る状況で飛び立てばそりゃこうなるよね。
「あのハルピーのお嬢さんはなんというか……周囲が見えないタイプなのか?」
「むしろ見えすぎて重要なことが抜け落ちてるんじゃないかなってイネちゃんは思うな。それはまぁ置いておいてギルド長さん、お願いしましたね」
「はっはっは、なる程な。それでは勇者殿、また後で」
そう言ってイネちゃんとギルド長さんは各々の向かうべき場所へと走り出した。
イネちゃんはとりあえず集会場広場かな、最初の爆発があったのはあそこだしちょっと急がないといけないかもしれない。
しかしよりにもよって村の中心に直接かぁ……大胆なことするなぁ。
「敵主力は今は不在だ!今のうちにこの場を拠点として接収し本隊を迎え入れるようにするのだ!邪魔者は殺せ、これは人類王の命令であられるのだからな!」
かなり大きな声が聞こえてくる、間違いなく指揮官だと思うのだけれど……人類王とかまた仰々しい、ともかく今は虐殺しようとしている人たちをお仕置きしないといけない、特に指揮官。
装備の大半は寝台車両に置きっぱなしだけれども、いつもの装備に伐採用の手斧は持っているからまぁ、なんとでもなるかな、相手がイネちゃんの装備を鹵獲して運用するなんてまず持って知識がないし、万が一あったとしても練度が足りなくてMINIMIとか扱えないだろうしね。
「何者だ!」
と、ここで会敵か。
「ちょっと通してもらうよ、指揮官さんに用があるからね」
そう言い残しながら勇者の力を発動してヌーカベのように走り抜ける。
とは言え既にそれなりの数の建物ができているので最高速度は出せないからソニックブームで吹っ飛ばすというわけにはいかず、横を通り抜けるだけだけれども。
「な、は、速い!」
でもまぁ馬以上、バイク以下の速度で移動してればスルーできるわけなので問題はない。
「抜けられただと?えぇい迎撃!どうせ力量もわからず突撃してきている無能だ!」
「あーはい、無能でいいのでその首いただきますね、あなたの首1つで侵攻を止められそうですからごめんなさいっと」
左手で腰に肘をつける形でP90を撃ちつつ、右手で斧を抜く。
コーイチお父さんの持ってたアニメでロボットがやってた突撃方法だけれど……あれは噴射誘導グレネード投げてからだっけ、そんな技術を使った使い捨て武器なんて現実には存在してないからやれないけど。
「ぐぇ」
呆気ない断末魔……まぁ実際にぐぇって言ったのかはわからないけれど短い言葉で馬から落ちたところに止めで斧を振り上げたところで……。
「ま、待ってくれ!命だけはお助けを!」
「命乞いするんだ、村の人を害する命令をだしていたのに」
「わ、私だって命令で動いているのだ……助けてくれぇ」
うーん、P90で風穴空いたわりには元気に喋るなぁ、怪しい。
貫通力が高いからくさび帷子とかその程度じゃ防げないはずではあるけれど……フルプレートすら着込んでいないこの人がP90でダメージを負わないってことはないとは思うけれど……なんだかバタバタ動いている割に血が少ないのも気になるんだよなぁ、やっぱり首、落としちゃおうか。
「イネ!離れて!」
集会場の中からリリアの叫びが聞こえたと同時、倒れていた指揮官も叫ぶ。
「消し飛べ!」
指揮官がそう叫ぶとイネちゃんの視界いっぱいに光が広がって爆発を起こす。
「消し飛べ!消し飛べ!消し飛べ!消し飛べぇぇぇぇぇ!」
叫び声が聞こえる度にイネちゃんを中心として爆発が起きて本格的に何も見えなくなる。
これは……やっぱりあの痛がりようは演技だったのかな、それでイネちゃんが考え事をして油断している感じになったところで最大火力を一気に叩き込んできたわけか。
「やりましたね!グレスト様!」
おや?
「魔神相手にも有効な光烈の奇跡!跡形もなく消しとんだに違いない!」
おやおや?
「さぁ、この調子でこの村を接収し、資源確保の橋頭堡にするため邪魔者を排除していくのだ!女は好きにしていいぞ!」
「さすがグレスト様!」
「話がわかりますね!」
これは、あれだ。
イネちゃん、仰々しく実は生きてましたやらなきゃいけない流れだ。
「はっはっは!女共が私に奉仕すれば命は助かるかもなぁ!」
あ、混乱してるっぽいね、調子に乗ってるだけかもしれないけれど。
部下に好きにしていいって言った舌の根も乾かないうちに自分に奉仕させるって部下が困惑するんじゃないかな。
「ほれ、早くしないと俺たちがおこぼれもらう時間が減っちまうだろうが!」
あぁそういう、割とこの人ら色々フラグをてんこ盛りするの好きだなぁ。自覚はこれっぽっちもないんだろうけれどイネちゃん、すごく期待されている気がしてきてハードルが上がっているんですが。
「ほう、早速女が出てきたようだ、どう奉仕してくれるのかね?」
おや……これは、少々まずいかな。
「イネに、何をしたぁ!」
イネちゃんがまださっきの光で視力があまり戻ってない状態……っていうか土煙も収まってないから動けるまでもうちょっとかかるってところで、リリアの叫び声が聞こえた。
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