第120話 イネちゃんとお芋掘り

「ここが直通エレベーター……」

「あ、むしろ直通じゃないほうがいいかな、音でバレたりしなくなるから」

「じゃあもうそっちでいいだろ、通常エレベーターで最上階、その上で非常階段の鍵を開けてやる!」

 髭さんがなんだかもうやけくそって感じにイネちゃんに対して言ってくる。

 まぁことが簡単に進む分にはイネちゃん歓迎だし、いいんだけれど……まだ1階だからお父さんたちがすっごい笑顔で見つめてきてるからそれでずっと協力的なんだろうけれどね。

 ともかくバレないように髭さんとイネちゃんがエレベーターに乗って上にあがっているところで。

「くそ、なんでうちがこんな目に……」

 と大きな声で愚痴ってるくらいなんだから色々複雑な感情が混ざってるんだろうなーとは思うけど、流石に当事者に聞こえる感じなのはどうなのかなーとイネちゃん思ってしまうのである。

 特に会話もなく最上階について非常階段の鍵を開けた髭さんは。

「と、とにかく上の奴を何とかしてくれ!こうなったらもう子供だろうがかまわん、本当になんとかしてくれ!」

 うわぁと思わなくないけど、まぁこの人もかなり切羽詰まってるんだろうね、動画でしっかり撮影されてて、さらにムツキお父さんが自衛官だって散々知らされた上でイネちゃんだけって状況を自分で作っちゃったわけだからなぁ。

「やることはやるけど、生死問わずになっちゃうから、そこを問題にしないでね」

 流石に病院に向けて対物銃を撃ち込んでる相手の精神状況とかやばそうだし、こっちの世界の基準でも民間人を狙ってる扱いで色々と権利が剥奪されたりしそうだし……まぁイネちゃんのポジションもかなり微妙だと思うけどね、民間人とそうじゃないで意見分かれそうだし。

 いくらこの区域が武装が許されてるとは言っても、対人に使うのは色々規制されてるしなぁ。

「わかったから早くやってくれ」

 あ、これもう面倒になってる感じだね、さらに気持ちはわからないでもないけれど。

「じゃあおじさんも避難しといてね、相手は躊躇せず大火力使ってくるだろうから」

 イネちゃんがそう言うと髭さんは青い顔になってすぐに走っていった。

 まぁそうだよね、1km先の病院に対物銃撃ち込むような人がいるって証明されて、その人物がすぐそばにいるなんて一般人の反応としては髭さんは凄く正しいとは思う。

 最近のイネちゃんの周辺が一般人から離れているだけなんだなと改めて感じちゃうね、というかステフお姉ちゃん一般人じゃないのかとイネちゃんの中で疑問が生まれてしまった。

 そんな疑問を考えながらも今は答えがでないし、音が出ないように階段を上がり、扉を開けると空気が破裂するような大音量が耳に痛いくらいに響いてきた。

 どうやら今発射中のようではあるけれど、イネちゃんは慢心せずに行く、ムツキお父さんに教えてもらったお芋掘り術とは徹底して音を消して確実に仕留められる場所から一気に仕留めるとあるしね。

 というわけで、音を殺しつつ、それでいて爆音が響いくタイミングで大胆に。そうやって慎重に急いで残り5mくらいのところで流石に気配を感じ始めたのか対物をリロードするタイミングでこちらを振り向くようになったけれどそこはさすがオフィスビルの屋上、遮蔽物はたっぷり満載で室外機やらでイネちゃんの身を隠す場所はいっぱいある。

 次に爆音がなったタイミングで突入かなと思いつつ、P90を準備して鏡で様子を見てみるとイネちゃんはそれに気づいてしまった。只と表現されるあの地雷が設置されていることに。

 いやまぁ何の対策もせずに悠々自適に狙撃なんてしないよね、うん。

 しかし困ったことになった、ここまでは遮蔽物がいっぱいあったからこそ只さんが反応せずに近寄れたんだろうけれど、ここから狙撃手までの間には遮蔽物がなく、回り込もうにも近寄れる位置にはしっかり只さんが仕掛けられている。

 只さんは空間制圧みたいなものだからイーアに手伝ってもらったところでイネちゃんが回避できるような代物じゃない、ココロさんやササヤさんなら爆発から全弾回避余裕でしたするかもしれないけれど、イネちゃんはそんなことできないので只さんを逆に利用できないか、できないようならどうやって反応させずに近寄るか、それともここから射撃戦をするか……凄く悩む。

 P90でも流石に5mは射程内だしやれないことはないけれど、下手したら只さんが反応しそうでちょっと怖いんだよね、イネちゃんアレを扱ったことがないから有効半径がわからないし。

 このまま膠着してもずっと病院が狙撃されるだけだし、なんとかしたいなぁとイネちゃんは自分の装備を改めて確認する。

 主武装であるP90、今これは手に持ってる。

 副兵装のファイブセブンさん、顔を出したら只さんがボーンもありえるから却下。同じ理由でナイフも却下。

 となると他に銃は持ってこなかったから……ってあぁこれがあった。

 マントにしまっておいたフラッシュバンを取り出してピンを抜き、只さんに当たるように1個投げる。

 すぐに2個目を投げれるようにピンに指をかけて爆発を待ち、爆発音が2つ聞こえて聴覚が少し麻痺したタイミングでもう1個、フラッシュバンを投げ込んでもう1階爆発音が聞こえてから突入する。

 鏡で確認した只さんは今の2回で対処できたはずだし、回り込んだところに仕掛けてあったものはそもそも今から突入する場所には反応しないので、大丈夫なはず……相手さんが対閃光、対ショック装備してなければだけれど……流石にフラッシュバン専用対策装備なんてそうそうしてないでしょと突入したイネちゃんの目に飛び込んできたのは、UZIをこちらに向けた相手だった。

 完全に油断していた、目を瞑っているのは確認できるのでフラッシュバンは有効だったのはわかるけど、どんな人間でも数秒動けなくなるはずの閃光と音で相手は対策装備をしていないと括った腹が招いたこととは言え、相手はばらまくだけが目的なのだから引き金さえ引ければいい。

 イネちゃんはこの状況で突入に集中したのために少し前のめり、つまりP90の銃口は下を向いていて同時に引き金を引いたとしても銃口から発射される弾は相手のほうが有利、例え相手の目と耳が死んでる状態であったとしてもである。

(イネ跳んで!)

 イーアの声に引き金を引くよりも更に腰を低くして相手の懐に飛び込むように地面を蹴ると、少し前まで私の居た場所にUZIの銃弾が何発か通り過ぎていた。

 危なかったと思いつつも懐に飛び込んだことで銃を使うよりも肉弾戦のほうが有効な距離まで詰めてしまったので、P90の銃床で相手の股間を殴り上げて戦闘不能を狙ってみる。

 とこれがクリーンヒット。

 急所にP90の銃床の強打を喰らった人は悶絶したのか、UZIの発射音が止まり倒れ掛かってきた。

 さすがに相手さんの体格は結構大きく、体の小さい私がのしかかられると押しのけはできなくはないものの、意識がない人間の重さは割と洒落になってないので股下を抜ける勢いで再び地面を蹴って前に……。

(イネそれはダメだって!)

 イーアの声に反応はしたけれど既に地面を蹴ってしまっていたので慌てて身をよじり、ビルのへりを左手で掴んで体を半回転。ビルの外に投げ出された身体をむしろ勢いをつけて下に落とすようにして、振り子のようにビルに叩きつけられる直前に壁面を強く蹴って再び勢いよく身体が左手だけで逆立ちするような格好になると左手で地面を押してビルの方へと身体を投げ出して落ちずに済んだ。

(イネ、曲芸やりすぎ)

 普通に私の筋肉量だと今のは不可能だと思ってイチかバチかだったんだけれど、うまくいきすぎて自分でも怖いくらい。ムーンラビットさんに言われたように無意識に魔法や魔力で身体強化してる結果なのかな。

「うっ……」

 私がビルのおくじょうに戻ってきたとほぼ同時にうめき声が上がる。

 さて、ここは制圧できたけれどやることはいっぱいある。

 まずは結束バンドでこの人の親指どうしを繋いで拘束。次は只さんの解除をしてから対物銃の解体……なんだか色々改造とかされてて結局イネちゃんには種類がわからなかった、なんだったんだろ。

 しかしまぁたくさん持ち込んでるなぁ、手運びだと1人で持ち運ぶ限界積載量に近いんじゃないかな、イネちゃんみたいに軽量化が付与されたマントとかじゃないとちょっと難しいよね、それでも対物の大きさだとマントに保持できないから結局手持ちになっちゃうし。

 そう思いながらまだ借りたままのルースお父さんのスマホでコーイチお父さんに連絡を取る。

「終わったか?」

「うん、ちょっと危ないことあったけど」

「何!怪我はしてないか!」

「いやそれはない……っていうかコーイチお父さん、戦闘なんだから怪我しても騒がないでよ」

 もう、コーイチお父さんはいつもこれなんだから。

「それで連絡入れたってことは拘束とかも終わったのか」

「うん、ちょっとイネちゃん1人じゃ運びだせないと思って。清掃員偽装の時のキャスターもあるんだけれど、流石に大人1人に対物銃は厳しいかなって」

 いくら管理用エレベーターがあるって言っても室外機とかの障害物がある屋上で運ぶのは一苦労だしね。

「わかった、ムツキが向かうらしいからイネは到着まで警戒しててくれな」

「はーい、コーイチお父さんも戦闘能力があまりないんだから気をつけてね」

 娘に心配された……とか電話越しにちょっと聞こえたけれど、気にせずに通話終了を押してムツキお父さんを待ったのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る