第118話 イネちゃんと病室の状況確認

「……多方面同時作戦か、まぁ証拠処分ってことなら当然だな」

「いやムツキお父さん落ち着いてていいのこれ、ステフお姉ちゃんのほう大変そうなんだけれど」

 ルースお父さんのスマホを通話中にしたままにしていると、スマホの向こうから銃の発砲音と何かが溶ける音が聞こえてきている。

 発砲音は相手さんだろうし、溶ける音はヒヒノさんが防御した音なんだろうけれどココロさんとヒヒノさんがいる状態で膠着しているのだったら本隊はあっちのほうだたのかもしれないと思えてくる。

 いや最初の目的ってミルノちゃんとウルシィさんの確保だったんだしあっちが本隊か。

「ヒヒノ!窓の外からの攻撃!」

「はーい」

 スマホがスピーカーモードになっているからあっちの状況が逐一聞こえてくるのはいいけれど、あっちは動かせない護衛対象がいるからこう、終わりのないディフェンスってどこかで聞いたようなフレーズがピッタリ来るような状況っぽいね。ヒヒノさんの声がなんかもういつもどおりだったからきつくはないんだろうけれど、問題はココロさんになるのかな、結構動き激しいし、銃弾を防いでると考えるとステフお姉ちゃんやティラーさんが代わりをやるわけにもいかないからね。

 となるとイネちゃんがあっちに行ければココロさんと交代できて、更にムツキお父さんたちも連れて行けるから事態の解決に貢献できそうかな。

「田中さんいるかな?」

 向かうにしても装備の有無で結構違うし、許可をもらおうと田中さんを呼び出して見るけれど……。

「イネか、すまん田中って人はちょっと出かけてたんだ、屋上の受け渡し手続きとかしにいくとか言ってな」

「ティラーさん?そっか……イネちゃんの装備をあっちで冒険者さんする時の基準にしていいか聞きたかったんだけれど」

 まぁあそこまで重装備はするつもりはないけれど、市街戦ならP90が活躍できる環境だし過剰火力は関係のない人も巻き込みかねないからスパスとか持ってくる気はないし。

「持ってきちゃっていいんじゃないかな、田中さんが寄こしてくれた援軍ってもう沈黙されちゃってるし。正直廊下のほうはココロおねぇちゃんだけで持たせてるからあまり長い持久戦はまずいしねぇ」

「ココロさんでも流石に体力きつい状況?」

「いえこの程度、それほどでもありませんが……この状況が続くと飲食の問題が出てきますのでその点だけ少し心配ですね」

 制圧射撃の範疇に入りそうな音がスマホから、ちょっと遠いけど聞こえるのにこの程度で済んじゃうんだ……勇者ってファクターとササヤさんの弟子ってファクターが合わさって納得できてしまうイネちゃんは、異常なレベルに慣れ親しみすぎてるかもしれない。

「病院に戻ってこれないにしても、外からこの部屋を攻撃してきている方を無力化してくだされば、建物内部にいる方々は私とヒヒノで鎮圧致しますが……難しいでしょうか」

「ふむ、病院内部と病室を狙撃している奴、できれば同時に対処したほうがいいな」

「貴方は?」

「イネの父親の1人のムツキだ、それよりも廊下のほうにはどのくらいの敵がいるんだ?」

「無関係の方に被害が出るのを避けている節はありますが、ナースステーションという場所に居た方に被害が出ているようです。それにこの階にはミルノさんのような方もいらっしゃるのでもしかしたら……」

 それだともうなりふり構わずって感じがするなぁ、国際的に非難される覚悟で英語圏の国の人がそこまでのことするかなと思ったりするけれど、現在進行形でミルノちゃんたちが狙われているんだよね、病院を完全に巻き込む形で。

 この地域は分類的に日本ではあるし、一部ではヌーリエ教会の法が適応されたりする場所なんで作戦の成否にかかわらずに割と面倒なことになるからって穏便に話し合いでやっているのに、こんなことしたらこっちの法とあっちの法で本当面倒な……。

「あ、そういう」

 ココロさんとムツキお父さんの会話を聴いてそんなことを考えていたら、ついイネちゃんは大きな声を出してしまった。

 当然ムツキお父さんはイネちゃんを凝視するし、スマホから音声が途切れる。これは完全にイネちゃんが続きをお話しないといけない流れだよね。

「えっと、この区域だとほら、この国の法律とヌーリエ教会の法がある程度ないまぜになってるし、そもそもこの国だけだとしてもいろんな省庁をまたいでるから……」

「……伝統的に言えば事なかれでなかったことか、責任の所在があやふやだから責任の押し付け合いで犯人が得するパターンだな」

「民を守る行政にそんなことがあるものなんですね」

「気分悪くなるかもだが、ヌーリエ教会のほうはその辺は一本化してるから起こらないだろうしな。まぁ一本化も上のほうが腐れば一気に腐りやすいんだが」

「あぁそれお父さんとムンラビおばあちゃんがいっつも言ってるからへーきへーき、上に立つ人間だからこそ自分を律しろーって」

 そういえばココロさんとヒヒノさんってヌーリエ教会の司祭長さんの娘さんだったね、いつぞや権力側に身内が固まってるからそれはそれで問題って聞いた記憶がある。

「政治体制に明確な正解はありませんからね、民主主義というものは私たちも学ぶところは多いですし……っと今は雑談をしている場合ではなかったですねっと」

 何かがぶつかる音がして銃声が少し途絶える。

「まったく、いくら負傷させてもキリがありませんね」

 そういえばどうやって迎撃してるんだろう、ココロさんの武器って棒だから白兵戦ならリーチはあるほうだけれど、流石に銃撃戦に対応は難しいと思うんだけど。

「よし、あっちはとりあえず任せられそうだしイネ、俺たちは狙撃してる連中を始末するぞ」

「あ、うん。でも装備はどうするの」

「一度家に戻ればいいだろ、多少時間はかかるが返り討ちされる心配を減らすほうがいい」

「そうですね、私のほうは無飲食でも後2・3日は戦えますので、しっかりと準備をお願い致します」

 それ睡眠も取れないよね、って言葉が喉まででかかったけれど飲み込んで、ここはココロさんのお言葉に甘えてイネちゃんたちはしっかりと準備をすべきかな、流石にPSG-1で室内戦とか難しいし、弾も今マガジンに入ってる分しか無いしね。

「ではそういうことでお願いします、あちらも休憩明けなのかまた攻撃が激しくなってきましたので」

 そう言ってココロさんだろう足音と共に再び銃声が聞こえてくる、イネちゃんたちが襲撃された頃から同じ状況だとするのなら既に30分くらいはココロさんとヒヒノさんが戦ってることになるし、ステフお姉ちゃんも銃撃戦は流石に未経験でこわいだろうから早く状況打開しないとね。

 ちなみにイネちゃんはなぜかムツキお父さんとボブお父さんに連れられてプロの人がたくさんいるサバゲーのようなものをやったことがあるので、あぁ敵がいるなくらの感覚になっちゃうんだよね。

「それじゃイネ、こっちは一応充電できるけどそっちは無理だろうし一旦切るよ」

「うん、ステフお姉ちゃんもヒヒノさんから離れないようにね、ヒヒノさんについてれば確実に生き残れると思うから」

「わかったわかった、イネも気をつけるんだよ」

 ステフお姉ちゃんの声と同時に通話の終了を告げる音がスマホから聞こえてくる。

「よし、まずは家だ。こいつらはコーイチとボブに任せればいいし、装備も整えられる……がまず問題になるのは足だな、流石に止血したとは言え血を滲ませてる奴らをぞろぞろ街中を歩かせるわけにはいかない。警察のほうだとこいつら抑えるの厳しいだろうしなぁ、困った」

「イネちゃんたちがカウンターした人たちは?」

「事が片付くまで干からびていてもらう。コーイチのドローンで位置情報はあるんだし警察か公安に任せてもいいが、病院で銃撃戦となるとそっちが優先されてどの道放置だしな」

 いやまぁ予想はしていたけど、夏日に屋上からガン待ち狙撃してたんだし覚悟はしてたろうからムツキお父さんの言うとおり待っていてもらおう。よほど運が悪くなければもう喋らなくなってるだろうし……運悪く生きてたらまぁ、地獄だろうけど。

 今の問題はムツキお父さんの言ったとおり帰る足がなくってどうにも時間がかかりすぎるってことかな、ここから商店街まではそれなりに距離もあるし、病院と駅以外はドンパチしてないから驚かせちゃうだろうしね。

「おーいイネー、ムツキー」

 あまりに欲しい欲しいと思うあまりに幻聴かな?コーイチお父さんがイネちゃんたちを呼ぶ声が聞こえる。

 確かにコーイチお父さんの配達に使う車があればここにいる全員乗れるし、問題が一気に解決できる。コーイチお父さんの車なら地味に装備が常備されてるし、ムツキお父さんの装備が整えられるからね。イネちゃんの装備はイネちゃんのお部屋で整備中の状態だからやっぱり帰らないといけないと思うけれど。

「おーい、イネに無視されるとお父さん泣いちゃうぞー」

 それにしてもこの幻聴しつこいなぁ、コーイチお父さんが本当にやりそうなことを言い始めてる、実際泣かれたことあるし。

「イネ!」

「うわ!」

 幻聴が触ってきた!

「って幻聴じゃなかったんだ、コーイチお父さんどうしたの?」

「どうしたって銃撃戦が一段落ついたからってムツキに呼ばれたんだよ。しかし大丈夫とは思っていたが駅のダメージ凄いな、看板はムツキだろうが」

 ムツキお父さんが呼んでたのか、車なら5分とかからないし……ってそうなるとムツキお父さん、コーイチお父さんにいたずらするためだけにイネちゃんに車が来ること言わず、あえて困った風にしたな。

「有事だったからな、後で基地のほうに請求書送ってもらう」

「いや、流石に出ないだろ。まぁお前貯金してるし大丈夫か」

「流石に看板の代金は払えないなぁ、一括すると生活のほうが困窮する」

 お父さん同士の冗談を見ながらイネちゃんは捕まえた男の人たちを車に誘導するのであった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る