第50話 イネちゃんとゴブリン滅却作戦

「クリア!」

 私が小さい声で言うと、ヨシュアさんとウルシィさんが前に出て通路先を警戒してからリリアさんが進み、精神魔法の応用でゴブリンの位置を確認して、私が後方を警戒しながら後ろに付く。

 クリアした場所は入口から入って20mくらい進んだ場所で、そこそこ大きめの広場になっていて、ここを探索の拠点にするには丁度良さそうな感じになっている。

 それと同時に4本くらい道が伸びているから多少リスクはあるけど、これは2人をこの場を確保、もう2人が1本づつ道をクリアしていくことで対応できるからね。

 しかしそれよりもリリアさんの目がずっと赤いままなんだけど、魔法ってずっと使いっぱなしでも問題無いのかな。

「ん、イネさん何か気になることでもあるの?」

 とリリアさんが聞いてきた、そんなに見ちゃってたかな。

「あぁいや、精神魔法って使いっぱなしでも問題ないのかなって」

「別に魔法は使ってないよ、無駄に発情させちゃうかもだし……まぁ魔法じゃなくても生き物がどこにいるとかはなんとなくわかるんだよ」

「それってサキュバスの?」

「うん、そうだって祖母ちゃんと母さんに聞かされてる」

 種族としての能力なのかな、ササヤさんもなんだかそれっぽい感じのことしてた気がするし。

「リリアさん、探知のほうを」

 と、ヨシュアさんが促してきた。

 確かに敵地で話す内容でもなかったよね、反省。

「えっと、ちょっと待って……」

 そう言ってリリアさんは部屋の中央に立って目を見開いて、洞窟の奥を見るような感じに見渡したあと。

「近くにはあまり居ないっぽい、こっちとそっちはむしろ反応が無い感じだったよ」

「どんな風に見えるのかは私たちはわからないけど、結構曖昧だね」

「母さんだったら気配とかで概ねわかるだろうし、それこそ祖母ちゃんだったら数も把握できるんだろうけど……ごめん、私はまだ未熟だから」

「いやいやいや、なんとなくでも全体を把握できるって凄いことだからね、むしろ誇っていいくらいだと思うんだけど」

 私たちにはできないことだし、お父さんたちから装備をもらってきたとしても有視界範囲しかわからないし、ゴブリンが松明を使っているらしく洞窟内は足元に注意しなきゃいけないような暗さでもないから、サーモとか渡されても逆にわかりにくくなりそうだし本当に助かってる。

「でももっと力を制御できるようにならないと……今度聖地に行くことがあったら祖母ちゃんに色々聞いておかないといけないかなって思うくらいに、今回のゴブリン災害は自身の未熟を実感させられてばかりだよ」

 リリアさんはどれかといえば強大な力を持っていて持て余し気味なんだねぇ、いやまぁササヤさんの娘さんっていう要素だけで納得できちゃう自分がいるけどさ。

「じゃあここを確保しつつ、1本づつ道を制圧していこうか。お父さんたちのことを考えれば私たちは一気に最奥を目指してもいいけど、挟み撃ちされるのは避けたいからね」

 ゴブリンが逃げる判断をしてくれれば突撃でいいけれど、迎撃するって判断されてたら挟撃される可能性が高くなるからね、ヨシュアさんが居るから対応できそうだけどリスクはできるだけ減らしていかないとね。

「よし、じゃあ僕がこっちの道を見てくる。イネとウルシィとリリアさんは……」

「いや、ちょっと待ったなんで単独行動?」

 ヨシュアさんはなんで単独行動を取ろうとしてやがりますかね。

 もしかしてチート能力周りで単独のほうが動きやすいのかもしれないけど、万が一が無いとも限らないので今はできるだけそういうのは無しにして欲しいんですが。

「女の子にあまり無茶はさせたくないからだけど……」

「この場にいる時点で、単独戦闘能力がほぼ無いリリアさん以外はその心配いらないからね?」

 と言ったところでヨシュアさんの肩をぐいっと引っ張って耳打ちの体勢を取る。

 これで小声ならウルシィさんとリリアさんには聞こえないだろうから、本当の事情を聞けるだろうからね。

「で、本当のところは。チート的な何かで一瞬で殲滅とかできるとかそういうのがあったりするの?」

 私がそう聞いたところで、少し顔を赤くしているヨシュアさんが観念した感じに小声で答えてきた。

「えっと、インベントリから色々やりくりするだろうし、何より爆発するようなものも使う可能性があるから……」

「それだったらボブお父さんから受け取ったこの只さんがいるから、あとそんなに武装を切り替えるよりは閉所で取り回しのきく武器に絞ったほうがいいよ」

 マントの医薬品を入れていたポケットに入れたクレイモア地雷を見せながら言う。

 ヨシュアさんなら短剣……まで行かなくてもミドルソードがあれば十分だと思うし、そこまで取り回す理由がわからない。

「……マッピングした感じ、何か大きな椅子っぽいものが確認できたんだ。もしかしたら群れのリーダーみたいなものがいるかもしれないから」

「それだったらむしろ私は怒るよ、いくらヨシュアさんがササヤさんやココロさんみたいに戦えたとしても、なんだかんだでやっぱり無茶に分類されるからね、それ」

 まぁ例えにだした人たちは無茶でもなんでもなく、鼻歌交じりでやりそうではあるけど。

「それにね、ゴブリンにそういうのが居たとして、それを真っ先に倒した場合どうなるかを想像してみて」

 統率を失った集団は散りじり行動を始めて、場合によっては一斉にこの広場に押し寄せる可能性が高い。

 今現在その様子が無いのなら、むしろ厄介になるだけだと思うのだ。

「とりあえず各個撃破。ヨシュアさんが行こうとした道にはクレイモアを仕掛けておくから、ウルシィさんと一緒にあっちのほうから潰していって」

 こういう時はしっかりと代替案を提示しておくと引きやすくなるよね、ヨシュアさんはみんなを守りたいんだろうからこそ、この提案はギリギリの範囲だと思う。

 出口側にリリアさんを置いて、強そうなのがいる場所には地雷を設置、その上で私が警戒をしておけばいいし、最悪リリアさんにお父さんたちのところまで走ってもらうことだってできる。

 ヨシュアさんは少し考えている表情をしてから、溜息を1つ。

「わかった、僕が先走りすぎたかもしれない。でもイネはそれでいいのかい」

「最初の段階でゴブリンとエンカウントさせまいとした人の言葉がそれかなぁ」

「うっ……そこはごめん。でもトラウマをえぐるようなことはしなくていいからね」

 それは言われなくてもわかってる。

 でもお父さんたち、いやササヤさんもかな。多分だけど私が先走らないようにリリアさんを参加させた上で、向き合わせる流れを作ったのだから、私はゴブリン災害っていうものと向き合う必要があるってことなんだと思う。

 だからこそ、私は今ここに立っているわけだし、イーアとイネちゃんの脳内会議も満場一致でゴブリン殲滅ヒャッハー状態だもの。

「よし、じゃあそういうことで。私は突っ走らないから、ヨシュアさんも突っ走らないこと。ゴブリンの滅却を全部自分でできないのは残念ではあるものの、そもそも今の実力でそれができるかと言われたら、現状が妥当だもん。目的が果たせるのなら手段は問わないってわけではないし、誰かが犠牲に得られる殲滅は誰も、私も望んでいないって断言できるからね」

 だからこそ、最も安全かつ確実な手段を選ぶ。今回は準備期間がなかったから流れに身を任せる形にはなってしまったけどね。

「ヨシュア、イネ、もういいかな」

 ウルシィさんが声をかけてくる。流石に話が長くなりすぎちゃったかな。

「うん、大丈夫。先走ろうとしたヨシュアさんは説得できたから。ウルシィさんはヨシュアさんと一緒に反対側の通路を見てきてもらっていいかな」

 ポケットからクレイモアを出しながら言うと、ウルシィさんの表情が一瞬笑顔になったあたり別の意味での『もういいかな』だったのかな。

 ともあれヨシュアさんはウルシィさんを連れて道に入っていくのを確認してからクレイモアを仕掛ける。これでこっちの道からは奇襲を受けなくていいから、後2つの道を警戒する形でリリアさんを出口側に廃する形で待機する。

 私がリリアさんのところに戻ったとほぼ同時に、ヨシュアさんとウルシィさんの入っていった道から金属音が聞こえてきた。

「い、イネさん……今の音って」

「……ゴブリンが金属製の武器か防具を使ってる?」

 イーアが捕まっていたときにも、それっぽいものは見たことあるし、人の道具を襲ったときに回収してたりするのかな。

「あの2人、大丈夫かな……」

 言葉が微妙に定まらないのは、恐怖と緊張からだろうし、自身がこと戦闘においてまともに戦えないという認識があるからだと思うけれど……。

「ヨシュアさんとウルシィさんなら大丈夫だと思う。少なくともヨシュアさんは多分だけれどもこの世界でも結構上位な強さなんじゃないかとも思うし」

 転生系チート主人公なら最強とかもありえるし。

 そして今気にするべき事案は2人の安全ではないんだよね。

「リリアさんは下がって、私の後ろから撃ち漏らしそうになったのに精神魔法かけてね」

 リリアさんに指示を出しつつ、右手にP90、左手にスパスを構える。

 本来ならスパスが右手のほうがいい気もするけど、ボブお父さんから叩き込まれたのはメインは右、サブは左ってことでこのスタイルが一番練習したものだから仕方ない。装弾は……その時考えよう。

 クレイモアは反応していないから、今対応すべきは他の2本。スパスにはバードショットだからばらまき牽制を考えるとして……場当たり対応しかないね、戦力わからないし!

 そう覚悟を決めたところでゴブリンの第一陣が2つの通路から同時に姿を現す。

「来た!」

「わかってる!」

 リリアさんに返事をすると同時、まずはスパスの引き金を左手側の通路に向かって発砲。左半身の反動を殺しつつP90をフルオートで右手の通路に発砲して牽制する。流石にこの構えで指切りをする余裕も無いからマガジン使い切るのは仕方ない。

 むぅ、これはどっちかに専念する形のほうがよかったかなぁ。

「さっきまで静かだったのに、なんで急に!」

 リリアさんが叫んでいるけど、割とわかりやすかったよね、今までの流れ的に。

「町のほうへの散発的な襲撃だけど、関わった2回だけで割と組織的な動きを疑うところはあったし、そのリーダーが今この洞窟の奥にいる可能性は高いよ。その上でヨシュアさんたちの戦闘音が聞こえたら挟撃とかをしてくる可能性は十分ありえたから、今のこの状況は想定内だよ」

「そ、そうなん……ってゴブリンが組織的ってあまり特別なことじゃない気がするんだけど、ほら、蟻とか蜂みたいな種族構成だって研究発表されてるし」

「1回だけなら確かにリリアさんの言うとおり特別とは言えない、けど軍隊的な行動は、偶然はあっても3回以上続けば必然だよ」

「3回以上って……?」

「ササヤさんがヴェルニアの町に行く直前のが偵察、到着したタイミングのものが威力偵察として、次が波状攻撃。そして今、ここで私たちを挟撃しようとしてまとまった部隊を動かしているよね。更に言えば逃げ道を爆破して塞がれたのに、慌てていないのは、統率が取れているってことじゃないかな」

 とは言えメタ的に対策を講じた以上、私たちにとっては戦力の逐次投入って感じになってるから、こっちのほうが状況優位ではあるけど。

「それって……前代未聞じゃないか……」

 イーアが襲われてから10年の間に、こういった事案はなかったってことだね。

 ということはこうなる原因と要因が何かしらありそうだけど……。

「今は目の前を片付ける。この話をするのは無事に帰った後で、ね!」

 弾が切れたP90をマントに戻して、焼夷グレネードを手に取り、片方の通路を塞ぐ形で投げながら私はリリアさんに向かってそう言った。

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