第49話 イネちゃんと突入

「よし、戻ったな」

 私たちが森を抜けて、皆が待っている洞窟前の広場に出るとボブお父さんが声をかけてくる。

「あぁ、本当にコーイチお父さんもいるぅ……」

「店は閉めてきた、今日中に消費しないといけない食材で使い切れなかったのはジェシカさんに渡してきたから安心していいぞ!」

「いや、そういうことじゃないし。というかもうお父さんたちだけでなんとかできそうなんだけど」

 実際10年前はお父さんたちだけで、この洞窟内にいるゴブリンは全部殲滅、滅却して私を助けてくれたのだから、今回も多分お父さんたちだけで十分ってなっちゃいそうだよね。

「イネ、お父さんたちな……ムツキ以外は体が割となまっていて役に立つかはわからないんだぞ」

「……まぁ昔と比べてこっちの世界で趣味のサバゲー(害獣駆除)の頻度が少なくなったってジェシカお母さんから聞いたことあるけど、明らかにブランクを感じる装備じゃないんだけど」

 ルースお父さんは相棒にアタッチメントをたっぷりつけてるし、コーイチお父さんもノートPCにドローン……しかもマグナム外付けしたタイプ使ってるし、ボブお父さんに至ってはデェェェェェェンって効果音が聞こえそうな状態になってる。

 そんなものを見て、体がなまっているっていう発言を信じる人間がいるのだろうか。

「イネさん、無理言ったらダメだよ」

「そうだぞ、イネ!」

 信じる人居たぁぁぁ!

 いやまぁ確かに装備の総重量とか強さを知らなければそんなものなのかもしれないけど!

「というわけで俺たちは外で殿しんがり兼後詰をする。装備全体で言ってもムツキ以外は外で大味な戦いしかできないからな」

 まぁ、それはわからなくはない。

 デェェェェェェンしてるボブお父さんはレミントンのショットガン以外はグレネードランチャーとクレイモア、果てはSMAWロケットランチャーまで取り揃えている。

 何、最近のゴブリンって戦車まで持ち出すのって聞かれちゃうレベルの火力だもんね、ボブお父さんに関しては外じゃないとっていうのはわかるよ。

 コーイチお父さんに関しても、洞窟内でドローンは流石に無理があるのはわかる。

「で、ルースお父さんも大味なの?」

 M4ライフルに近接戦アタッチメントとライト、拡張マガジンまでつけてるのに流石に大味というのは無理がないかな、むしろテクニカルなんだけど。

「お、俺はイネの成長を腹で感じたからな……一応負傷兵分類だ」

「近接戦アタッチメントつけた負傷兵って……。まぁそれはいいけど、ムツキお父さんは?」

「ん、俺は遊撃だな。万一マッピング漏れや封鎖後に掘削するゴブリンが出ないとも限らないから、最も動ける俺が外にいるのは妥当だぞ」

 う、ムツキお父さんのは説得力ある。

 実際さっき、謎生物を倒した時の動きは流石現役って感じだったし、あの踏破能力ってウルシィさんやミミルさんを除くと私たちの中には居ない気がする。

「これは、イネの負けかな」

 ヨシュアさん、確かに大勢は私の負けだけどルースお父さんに関しては私、納得してないよ。

 でもまぁ、ここは従うかな……実際のところお父さんたちが4人で動くってことはここ最近なかった気もするし、たまには男だけで楽しくドンパチとかさせてあげないとね。

「はぁ、でもちゃんとお仕事すること。あと1つ……ミミルさんに手を出したらだめだからね」

「だとよルース」

「いや、エルフの綺麗どころならコーイチのほうが……」

「わかった、お父さんたち」

「はい……」

 少し低めの声で強く言ったから大丈夫……だと思う。

 まぁそこはボブお父さんとムツキお父さんに監視役になってもらおう。

「じゃあ最後の編成確認。私と一緒に内部突入するのは……」

「僕とウルシィ、かな」

「いや、私も行くよ」

「私、ヨシュアさん、ウルシィさん、リリアさん……の4人だね」

 RPGだと一見バランス良さそうだけど、回復さんが時間がかかる上にその後少し衰弱しちゃうリリアさんの儀式しかないのが辛そう。

 最も今からやるのはゲームじゃなくて害獣駆除の滅却作業だから、回復は考えなくていいんだけど。

「外は俺たち4人にエルフのお嬢ちゃん、後は念のため冒険者チームが4つほど。ケイティさんの推薦を受けた連中だから、まぁそれなりにベテランで組まれているだろうから安心しておけ」

 とルースお父さんが説明してくれた。

 この安心しておけっていうのは後ろから云々ではなく、その冒険者さんたちがやられる心配は無いだろうということである。

 冒険者さんは何でも屋みたいな荒事家業で、他に例えるのなら警察などの治安維持組織が近いので、不埒な行いをする人のほうが圧倒的少数なので、その辺を心配する必要は無いけど、その分実力がピンキリなのである。

 お父さんたちみたいなベテランっぽい人から、それこそヨシュアさんからチートを抜いたような夢見る少年少女ってこともあるからこそ、数で圧殺してくるゴブリンへの対応で場合によっては命を落とす可能性を考慮しての『安心しておけ』だよね。

 ルースお父さんは言動があれだけど、そういうところに気が回る優しさを持った自慢のお父さんの1人である。

「よし、各所の確認完了。ボタン1つで始められるぞ」

 コーイチお父さんがノートパッドを見ながらここにいる全員に向かって言う。

「確認用のドローンは今どこだ」

「全ての場所から丁度中間点になる場所、現地の映像確認は緊急ってこともあって勘弁してくれよボブ」

「そこは仕方ないな、本当なら3・4日は準備に使うところだったが、今回のは緊急だったからな」

 そんな会話をしてボブお父さんは全員の配置を確認してから。

「よし、開始だ。これよりヒアリの巣滅却作戦を開始する」

 ゴブリンと比べたらヒアリが可哀想な気も……いやまぁヒアリも大概だっていうのはニュースを見て知ってるけどさ。

「3・2・1……今!」

 コーイチお父さんのカウントダウンからの発破。

 森の中で電波の送られたC4が一斉に爆発し、各所で色々と崩れる音が聞こえてくる。

「コーイチはドローンでまず確認!ムツキはいつでも動けるように待機……冒険者連中は側面に逃げようとした奴を頼むぞ!」

 ボブお父さんがダネルMGLを構えて備える。

「第一波、来るぞ!」

 ボブお父さんの大声と共に洞窟の中からゴブリンがゾロゾロと姿を現し始めた。

 私もXM25を構えて引き金を引く。

 ボブお父さんもほぼ同時に発射したのか、2発のグレネード弾がゴブリン目掛けて飛んでいくのが確認できる。流石低速……いや、でも低速にしては遅くないかな?

 というか炸裂までの時間も……。

『大丈夫、スローに感じているだけだから』

 頭の中にイーアの声が聞こえる。なる程、これがバレットタイムとかスローモーってやつなのかな。

 と納得したところで、ボブお父さんの弾が地面で、私の弾が空中で同時に爆発して戦闘に居たゴブリンが爆風に呑まれ、蒸発した。

 爆発とほぼ同時に2射目を発射してゴブリンが洞窟から出てこられないように爆発で封鎖する感じに全域をカバーするように撃つ……けどボブお父さんは2発目から弾を変えていたようで、洞窟手前に炎が広がっていく。

 流石リボルバー型弾倉のダネルさんだ、あっちなら単発ごとにリロードもできなくもないし、少し羨ましく思う。

 性能は圧倒的にXM25のほうがいいのだけれど、このあたりは流石に適材適所って奴だね、足止めならダネルさん、殲滅ならこっちのほうが上な感じなんだよね。

「ボブ!一箇所微妙に穴が開いてる!地殻の計算が間違っていたんだろう、必要以上に破砕しちまったみたいだ!」

「そうか、ムツキ、カバー頼む。最近少し雨量が多かったからそれが原因だろう」

 う、確実に私の仕掛けたところだよね、これ。

 ムツキお父さん、ごめんね?

「イネ、子供の失敗は親がカバーする。当然のことだ。今は目の前の奴らの殲滅に集中しろ」

「う、うん、ごめんね」

「謝る必要はない、今は親と同時にチームメンバーでもあるからな。俺たちの夢が1つ叶ったから嬉しさのほうがでかい」

「できれば酒も一緒に飲みてぇけどな、流石にそれをやったらジェシカにぶっ殺されかねない」

「ボブお父さん、ルースお父さん……」

 割とフラグっぽい感じになってきちゃってるよ、今回の場合突入する私のほうがやっばいよね。

「よし、リロード。イネのほうも6発撃っただろ!」

「おし、俺の出番だ!エルフのお嬢ちゃんも頼むぜ!」

 ボブお父さんの言うとおりにリロードを始めると、今度はルースお父さんがM4ライフルの斉射を始めた。6発目の爆発に合わせて初弾発射しているあたり、やっぱりお父さんたちの息はピッタリだなって関心する。

「えっと、この状況だと……だ、大地よ、その身をもって彼のものを貫け!」

 ミミルさんは少し遅れて魔法を発動させて、アーススパイクって呼ぶにふさわしい物が大量に洞窟の入口を塞ぐように広がる。

 魔法って銃と比べると大規模ですごいと思う。特にミミルさんの使うのってそれが顕著な感じがするけど、今度聞いてみよう。

「よし、内部にグレネードを投げ込んでやれ!」

 ボブお父さんが叫ぶとルースお父さんとミミルさんが公的を止めて、私とボブお父さんが再び、6発の弾を撃ち込む。のはいいのだけれども、実のところXM25の弾って恐ろしいお値段してるから、持っている分はこの6発で終わりなのである。

「撃ちきった!エアバーストはもうないよ!」

 正直この短時間に840ドル吹っ飛んでるんだよなぁ……もうちょい安くなりませんかね、このエアバースト弾。

 昔は1発1000ドルの時代もあったって言うから1発70ドルは価格下げは成功してるんだろうけど、やっぱりまだ高いよねぇ。

「よし、焼夷の火が弱くなったところで突入開始だ、突入班は心の準備をしておけ」

「あ、じゃあXM25は置いていくね。ショットガンもバードショット中心でいいと思うし、室内ならP90も十分活躍できるだろうから」

 まぁそもそも弾が残っていても洞窟内でアレを使うほど度胸がないんだけど、反響音だけでもかなり自爆ダメージ出るし。

「内部は10年前と変わっていなければ大きな広場は1・2ヶ所ってところだ。そこには手持ちのグレネードくらいなら使っても大丈夫なはずだ」

「うん、でも内部を確認してから。だよね」

「そのとおりだ、村が襲撃された等の情報はないが、誘拐被害者が居ないとも限らない以上は注意することを忘れるな」

 私と同じような目に遭ってる人は、確かにいると考えて動くべきだもんね、いくらゴブリンを屠れるからって集中しすぎないようにしなと。

「うん、わかった。お父さんたち……私、イネはゴブリンの巣滅却しに行ってきます」

 敬礼もどきをしたときに、少し遠くの場所から爆発音が聞こえてきた。

「ムツキも閉じられなかった支道を塞いだようだな、タイミングとしてはベストだ。必ず欠員なく戻ってこい!」

 ボブお父さんは米陸軍式の敬礼をして、私たちを見送ってくれた。

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