第31話 イネちゃんと出発準備
「ご迷惑をお掛けしてしまったようで……それと、キャリーお姉ちゃんのことを守ってくれてありがとうございます」
部屋から出てきた妹ちゃんが開口一番皆に向かってお辞儀する。
「いいえ、私たちがこの場に居たのはよかったです。師匠のほうは少し貴女に負担が大きい方法を取ろうとしていましたし」
「勇者様のやり方では、精神魔法をかけた相手を捕らえられないでしょう」
うわ、ココロさんとササヤさんがなんか笑顔でそんなことを言い合ってる!漫画とかならここにゴゴゴゴゴ……とかいう効果音がつきそう。
「まぁどっちが間違いとかじゃないしねぇ、どっちも正しい。けど何を優先したかの違いだし」
「ヒヒノ姉ちゃんの言うとおりだよ、母さんは問題の根っこからの解決を優先して、姉ちゃんたちはその子の安全を優先したってだけだから。まぁ母さんならその子の安全は確実に保っただろうけど」
ヒヒノさんとリリアさんがそれぞれを補完する説明をするけど、やっぱり勇者様もササヤさんもチートでいいんだね、今のリリアさんの言い方だと。
「そ、それでも私が皆さんにご迷惑をお掛けしたのは確かですし、ヨシュアさんたちがお姉ちゃんを守っていてくれたのも確かです。ですので……ありがとうございました」
妹ちゃんがそう言いながらもう一度深々とお辞儀をすると、今度はキャリーさんも合わせて頭を下げた。
「それで、キャリーの妹……ミルノに精神魔法をかけた相手と、その目的については何か思い当たるところはないかな」
場の空気がループしそうになったところでヨシュアさんが切り出す。そのへんが今後の行動方針にもつながるからまぁ、妥当だよね。
「勇者としての力で精神魔法の回線をその存在自体消失させたからわからないわね。本気なら概念自体焼けることを考えればちゃんと手加減できていたのはわかるけど、手がかりは何時かけられたのかと、あちらの世界に渡った後も回線自体を残し続けられるだけの精神魔法の使い手を抱えている勢力。このあたりくらいね」
そして質問にササヤさんが答えた。
まぁ、そうだよね。状況証拠とか物的証拠がないわけだし、被害者に聞くしかできないよね。
「まぁ十中八九ヴェルニア領を民を扇動した奴が犯人でしょう。教会と勇者の監査で叩けば埃の1つは出ると思うわよ」
そういえばこっちは証拠を集めて叩きつけるとかあまりないんだった。
イーアの村があった、今イネちゃんたちの居る地域のトーカ領はかなり開明的でかなり法治って概念が浸透しつつあるけど、基本的には文明レベルは中世以前だし、仕方ないよね。
でも実際一番中立を謳ってるヌーリエ教会の人がそれを言ったらダメだとイネちゃん、ちょっと思うな。
「ま、まぁまずはミルノにヴェルニア領から脱出してからあちらの世界に行くまでの経緯を聞いてからでも遅くはないですし」
あ、ヨシュアさんがちょっと慌ててる。
ヨシュアさんはあっちの世界とは違うけど、日本出身っぽいからこういう時はかなり穏健的ともとれる判断するよね、冒険者とかよりは商人とかのほうがっぽいかも。……いや商人さんのほうが場合によってはダメか、商談とか大変だろうし。
「それならギルドのほうに照会を取りましょう、ミルノを脱出させるときに頼ったのはギルドの冒険者でしたので」
「確かにギルドは登録している人間の行動を記録しているからわかるとは思うけれど……あちらも中立であるために情報を出し渋る可能性は否定できないわよ」
キャリーさんの言葉にササヤさんが水を差す感じの言葉を発する。
まぁイネちゃんとしてはわからないでもない、冒険者さんや傭兵さんの登録証に探知魔法を仕掛けてっていうのは、あっちの世界で言うところのGPSで社員の位置を把握しておくと置き換えられるし、その行動記録はプライバシー保護って意味で開示できないか、ギルドが特定勢力に肩入れしないスタイルを保つために隠す可能性は確かにあると思う。だけど、ね。
「それなら、フルオープンで開示する可能性もありますよね。双方に対して今回の事件に対しての情報を開示するっていうのも中立を保つ上では問題ないしね」
組織のためというなら、冒険者さんや傭兵さんのプライバシーはこの際気にしないって可能性はあるもんね、トーカ領だと難しいかもだけど。
イネちゃんの言葉にヨシュアさんが方針を固めたようで、一度力強く首を縦に振ってから口を開く。
「ともかく、一度ギルドに行こう。勇者様と一緒に行くにしても依頼を受けないといけないから、どういう判断をするにしても行かざるを得ないからね」
確かに!
教会で連絡を受けた後、急いでここに来たから結局ギルドに寄ってないもんね。
「そう、でもこの子はどうするのかしら。精神魔法の回線は切れたからあちらの世界に居れば安全だけど……」
ササヤさんが妹ちゃん……ミルノちゃんの肩に手を置いて、言う。
まぁそのミルノちゃん、キャリーさんの袖をギュッと掴んで離れるのを嫌がってる感じだけど。
「私はミルノに安全な場所にいてもらいたいけど……」
キャリーさんはそう言いながらも、ミルノちゃんを見てから。
「できれば離れたくはないと思っているのも事実です。ミルノは私と一緒に居たい?」
「お姉ちゃんと離れたくない……もう離れたくないよ!」
いやまぁそうなるよね。
ただミルノちゃんは非戦闘員だし、今から向かう場所は戦闘の可能性が極めて高いのも事実なんだよなぁ……。
「教会で保護することも考えたけれど、この様子じゃ無理でしょうねぇ。というわけでココロ、勇者としてちゃんと守ってあげなさい」
「分かりました、師匠の名を汚さないよう粉骨砕身頑張ります」
……こっちはなんだかすっごく安心できそうな熱血展開っぽい流れをやってるなぁ。明らかに勇者っていうチート枠なんだし、そこまで頑張らないでもなんとかなるんじゃないかなって、イネちゃんは思うな。
「それでは私とリリアは先に町に戻ることにします……リリア、行くわよ!」
「え、あぁもうちょっと……もうちょっと料理のレシピを!」
ササヤさんの呼ばれたリリアさんは、職員さんに教わりながらパソコンで料理のレシピを見ていた。それで今まで会話に入ってこなかったんだね。
そしてササヤさんに担がれる形でロッジを後にしていった。
リリアさんは最後までレシピーって叫んでたけど、本当に料理が好きなんだねぇ。
「それでは私たちもミルノさんの回復を待ってから町に戻りましょうか。皆さんは何かしておきたいこととかあれば言ってください」
ココロさんが提案して、ちゃんとイネちゃんたちの意見も聞く形なのは、チームリーダーとしての行動になれてたりするのかな。
「あぁそうだ、ヨシュアさん手伝ってもらっていいかな、イネちゃんの装備……ロッカーから使えそうなのを持っていきたいし」
暴徒鎮圧用装備とか……流石にそういう装備はお父さんたち入れてないだろうけど、対装甲武装をXM109以外にも用意しておきたいし。せめてフラッシュバンの補充はしておきたいかな、自作するのは難しいものだし。
「あ、うんわかった。イネの装備は今後頼ることが多そうだし、手伝うよ」
「え、私たちも……」
「ミミルたちは待ってて、イネの装備は結構特殊っぽいから持ち運びにも難しいものがあったりするかもだし、人が多くても仕方ないしね」
ヨシュアさんとミミルさんがそんな会話をしていたみたいだけど、イネちゃんは職員さん相手に受付をしてそそくさとロッカー室に向かったからあまり把握できなかった。まぁ端々に聞こえた単語的に人払いっぽい感じだったけど。
「お待たせ」
イネちゃんがロッカーを開ける直前にヨシュアさんがロッカー室に入ってきた。
「さっき何かミミルさんと話してたっぽいけど、何をお話してたの?」
「あぁ、アイテムインベントリにしまうのには流石に見せられないからね……」
まぁ、そんなところだよね。かたくなに隠しているのは何か理由があったりするのかな。積極的に聞きたい内容でもないから別に気にしないけど。
「まぁ深く聞かないけど、あまり秘密にしすぎてもどこかで破綻したりするんじゃないかな。都合のいい似たような魔法具があったらそれに準じた使い方したほうがいいんじゃないかな」
「イネの言うこともわかるけど、僕が調べた範囲ではそういう魔法具はなかったからね、色々と面倒を避ける意味でも察することのできた人の前以外では隠しておくことにしているんだ」
「ということは、そういう魔法具の存在が分かって、入手可能な範疇だったら」
「その時は流石に隠す気はないかな。厄介事はありそうだけど、僕が入手可能であるのなら他にも入手手段は多そうだし」
流石にヨシュアさんはそのへんもしっかり考えているか。確かに無尽蔵に物を、重量や質量を無視して持ち運べるとか、貴族さんから馬車馬みたいに扱われそうだし。
そんな会話をしながらロッカーを開くと、イネちゃんのロッカーはなんというか完全にガンセーフの様相になっていた。え、2・3日でこんなに銃の種類増えちゃう?って思える程の陳列状況になっていたのである。
「……なんだかすごいね、僕は実銃自体を見るのはイネの持っているのがはじめてだったから、こんなふうに陳列されているのは圧巻というか……」
いや、銃砲店とか軍事基地の兵器管理施設じゃないとここまでにはならないよ、うん。
ひとまずはまず、グレネードや弾とかの消耗品を確保して……そういえば対人戦になるかもだよね、P90とファイブセブンさんなら過不足無いとは思うけど、大軍相手だと流石にきついかもなぁ、グレネード投げるにしてもウルシィさんを巻き込まないようにしないといけないし、この前ルースお父さんに言われたようにショットガンとかあるといいかもしれない。
「そういえばイネの銃って、僕が使ったら問題になったりするのかな」
ヨシュアさんがいきなり何か聞いてきた、そういえばイネちゃんはその辺の注意を受けた記憶がない。でもさすがにダメなんじゃないかなと思うけど……。
「ダメと言われてはいないけど、さすがに真っ黒寄りのグレーなんじゃないかな……」
「言われていないんだ……即答でダメって言われると思っていたんだけど」
「さすがに誰かに使わせるとかその辺の前例が無いんだと思うけど……盗まれてとかならあるらしいけど、意図的に横流しはすぐにバレるっていうのもあってね。銃全部にGPSとID番号があって、それを持ち込んだ人と全部紐づけしてあるから」
盗まれたっていうのも、GPSの記録からちょっと目を離したタイミングに盗まれたのが唯一の事例らしい。まぁ録音とかしてないから証言しか無いんだけど。
元は最新の機能で衛生からGPSデータをリンクさせて機械的に射撃を補助するシステムーっていうのを応用しているらしいんだけど、こっちの世界で人工衛星とか打ち上がって無いよねぇと思わなくはない。
「全部は監視しきれなさそうだけどねぇ……」
「それはイネちゃんも思うけど、実際のところ自分の命を預けてる武器を簡単に人に渡すかどうかっていうのもあるから、イネちゃん個人としては避けたいかな。まぁ最終的にはケースバイケースだとは思うけど」
イネちゃん自身が同時に運用できないし、場合によってはキャリーさんにデリンジャーとか使ってもらったほうが、結果的にイネちゃんも皆も安全が確保できるとかありそうだしね。
あ、そういう意味ではデリンジャーみたいな単発銃って暗器として持っていたほうがいいのかな。イネちゃんは格闘術もお父さんたちから叩き込まれているけど、使えない場合も当然出て来るだろうし、あってもいいかも。
その上で爆発物以外で広範囲を一度に攻撃できるショットガンの追加でいいかな、装備の選定基準は隠せる程度の小さい単発銃とショットガン。うん、この辺でいいね。
「ヨシュアさん、万が一で使わないのが一番なんだけど……こう、手のひらに隠せる程度の大きさの銃、その箱に入っていないか探してみて。イネちゃんは良さそうなショットガンを選定しとくから」
「え、うん。別にいいけど……隠し武器ってこと?」
「真っ黒に近いグレーなら、ギリギリセーフってことでもあるからね、万が一に備えてキャリーさんやミルノちゃんに持ってもらえるのがあればいいかなーって」
本当はイネちゃんも持ちたいところだけど、さすがにそんなにデリンジャーみたいな単発銃があるとは思えないからね。
とりあえずざっと見る限りレミントンにウィンチェスター、PAシリーズかなぁ、重量はこの際ヨシュアさんを頼る前提で無視してもいいから、スパスとかあれば……あぁあったあった、あとはバックショットとスラグ弾を30発づつくらいでいいかな?
イネちゃんがそう思いながらロッカーから取り出しているとヨシュアさんが。
「えっとイネ、これはどれを取ればいいんだろう……」
と困惑した感じの声で聞いてきた。
何事なのかと思って振り向くと、ヨシュアさんが開いた箱の中にこれでもかって感じに特殊銃が選り取りみどりって感じにしまってあった。
一体お父さんたちは何を思ってこれを用意したんだろう……、映画とかでしか見たことのないようなものまであるんだけど、果たしてこっちの世界でボールペン偽装の銃は役に立つのだろうか。
「と、とりあえずこれとこれとこれ……後はこれがあればいいと思う、この手の銃は装弾するのも一苦労だし弾も用意しないとダメだから、使い捨て前提で用意したほうがいいかな」
実際使い捨て前提の設計されてるからね、デリンジャータイプの物なら一応リロードできなくはないけど、弾倉の入れ替えと比べたら時間かかっちゃうんだよね。
「……これ、全部を僕のインベントリにしまっておくっていうのはダメなのかな」
……その手があったか。
「じゃあ今イネちゃんが指定したのを手持ちとして出しておいて、箱はしまっておいてもらっていいかな。後できればこの弾も」
ついでとばかりにイネちゃんはショットガンの弾薬も頼むのであった。
ヨシュアさんは乾いた笑いで応えながらも、インベントリにしまってくれた。
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