第30話 イネちゃんと本格参戦!

「ところで、なんで師匠たちもついてきているのでしょうか」

 ココロさんが町を出た辺りにそんなことを言う。いや、確かに気になるよね。

「あら、あそこに行くのは久しぶりですから、いい機会ですしご挨拶をと思って」

「少し遠出の森林浴もいいじゃん、この森はゲートもあるし他より安全が確保されてるし」

 とササヤさんとリリアさんがついて来ているのだ。気にならないほうが嘘だよね。

「まぁ本当のところを言うと、そろそろ定期的な会合の時期だったからついでね」

 それはご挨拶で大きく外れていないと思うのですが。

 リリアさんのほうは森林浴ピクニックって真剣に返されても信じちゃいそうなバスケット持ってるし……。

「はぁ、とりあえずそろそろ付きます。ですが比較的というだけで完全に安全ではないのですから、リリアはもう少し気をつけてくださいね」

 ココロさんがそう言ったのと同じくらいのタイミングで検問所が見えてくる。なんだか頻繁に戻ってきてるなぁ……。

「なんだかまた人数が……あぁ教会の方でしたか」

 イネちゃんたちを確認した職員さんが最初は呆れた感じの口調だったけど、ササヤさんの顔が見えたあたりで安堵に似た感じの口調に変わる。流石にあからさまじゃないかな!少し鼻の下伸びてるし!

「私たちは定期会合の予定を少し早めて来ただけですが……それ以外にも少し用事はありますけど」

 ササヤさんもちょっとセクシーすぎやしませんかね、口調。

「それより、キャリーさんの検査の奴で何かあったと聞いてきたんですけど」

 話しがずれていきそうな予感がしたイネちゃんは、そうやって割り込んで職員さんに聞く。すっごいだるだるな表情は流石にダメだと思うな!

「と、その件だったら聞いてるよ。見つかったって。確認するなら入場を許可するから行っておいで」

 イネちゃんの言葉でハッとした感じでキリっとした表情で言っても、既にだるだるな表情を見ちゃってるから意味ないよ。まぁお仕事はちゃんとしてるしいいけど。

「キャリー、大丈夫かい」

 ヨシュアさんが心配するようにキャリーさんの肩に手を置く。

 自然にそういうことできるのは素直にすごいなぁと関心するけど、場合によってはセクハラとか言われちゃうよなぁ。

「はい、本当に急すぎて何とも言えない気持ちですが」

 イネちゃんも数日かかると思ってたから、今回のこれは本当に急だと思う。

 ただ単にあっちの人たちが急いで調べてくれただけなのかもしれないけど、半日程度……というか半日も経ってないのに判明って逆に怖いよね。

 そんなやりとりをしつつ、ロッジの中に入ると職員さんと一人の女の子が立っていて、ロッジの戸を開ける音で振り返るとほぼ同時。

「キャリー姉さま!」

 そう言って女の子が駆け寄ってきて、キャリーさんに抱きついた。勢いが良すぎてヨシュアさんが支えてなかったら倒れてるかなって勢い……。

「ミルノ?」

 キャリーさんのほうはちょっと疑問形のほうが強い?

 とりあえず再開できたっぽいのはいいとして、なんでこんなに早かったんだろう。

「DNA検査自体は10分程度で終わりますからね、ちょうどゲート近辺の難民用孤児院に引き取られていたみたいで、照合検査の一発目で適合率の高い子が居たから確認してもらうため写真をと思ったところ、何かを感じたらしくて直接会いたいと来てしまったんだよ。でもちゃんと肉親みたいでよかったかな」

 職員さんが説明してくれるけど、キャリーさんが時間が経ってきてもなんだか困惑している表情をしているんだよねぇ。顔が一致しないとかなのかな。

「どうしたの、キャリー姉さま……って何!?」

「おいたをする前に、ヌーリエ教会の巫女の一人として禍祓いをさせてもらおうかしらね」

 ササヤさんがそう言って、キャリーさんの妹ちゃんと思わしき女の子の襟首を掴んで剥がしてから、職員さんのほうを見て。

「どこか清潔が保てるお部屋はあるかしら、魔法的なものを取り除く儀式をしたいのですが」

「助けて!キャリーお姉さま!」

 淡々と進めるササヤさんと、キャリーさんに助けを求める妹ちゃんとでロッジの中は軽い騒動になっている。とりあえず誰か状況の説明して!お願い!

「いくらヌーリエ教会の方でも、なんの説明もなしに……」

「そうですねぇ、以前お会いしたときに私は人の思考を読むことができるというのはお伝えしたと記憶していますが……この子、寝ていますよ」

 ササヤさんの言葉に襟首が掴まれている妹ちゃんも含めて、動きが止まる。

 いや、思いっきり動いてましたけど、寝ているって……。

「ヌーリエ教会の巫女がいるとはな……」

 あ、襟首掴まれながら何か言い出した。イネちゃんお父さんたちの漫画でこんな展開見たことあるけど、流石に襟首掴まれながら凄みだすのははじめてみるかな。

 ササヤさんもとりあえず何を言い出すのか待ってる感じで、微笑みを浮かべながらしっかりと掴んでる。これが強キャラって感じなのかなぁ。

「しかしどうする、この娘は私が支配しているのだ。これには例えヌーリエ教会や異世界の技術と言えども手が出せまい」

 まぁ、そうだね。拘束されちゃってる人のセリフとは思えないけど。

「ココロおねぇちゃん、制御お願いねー」

「この程度の相手なら出力はそんなに上げなくていいですよ、ヒヒノ。調律は全部任せてください」

 そう言って双子勇者様が前に出て来る。ヒヒノさんの肩にココロさんが手を置いた体勢でヒヒノさんは指パッチンの形を作って自分の顔の前に持っていく。

「本当は捉えたいのだけれど異世界でも切れない精神魔法だから仕方ないか……二人共、やっちゃいなさい」

 ササヤさんの言葉が終わると同時、ヒヒノさんが指を鳴らすと妹ちゃんの体から力が抜けた感じに脱力して、寝息が聞こえてくる。

「え、一体何が……?」

 キャリーさんの疑問は最もだよね、勇者様とヌーリエ教会の人たち以外がポカーンって感じに開いた口がふさがらずに状況を見ていた。

「ん、精神魔法だったからその接続線の存在を燃やしただけだよ。強い精神支配って案外制限多いっぽいからねー、物理的な接続っぽく魔力の線を常時繋げるんだけど、その子が本来やるようなことくらいしかできなくなる。無理やり嫌がることをやらせようとすると精神が壊れちゃうから、ササヤ叔母ちゃんが捕まえて私たちが接続を切ったってこと」

 なんかさも当然のように説明してくれてるけど、多分ここに居る疑問を持ってる人たちはその基本情報知らないからね!精神魔法っていう基礎情報が!

「精神魔法って、お昼ご飯の時にササヤさんがちらっと言っていたけどどんな魔法なの?」

 イネちゃんが聞くと、ササヤさんは。

「説明をすると少しややこしくなるから、今はこの子の介抱を優先しましょう」

 と先送りにして、襟首を掴む形からお姫様だっこに体勢を変えながら周囲を見渡して。

「ゆっくりと寝かせてあげられる布団とか無いかしら」

 それを聞いた職員さんはハッとして。

「え、あぁそっちの部屋が仮眠室で、他には2階にちゃんとした就寝部屋もありますが……」

「仮眠室でいいわね、ちゃんとした寝室でなくても布団はありそうですし」

「少し煎餅になっていますが……重ねれば大丈夫かと思います。こちらです」

 職員さんの先導にササヤさんがついていくのを、イネちゃんたちは見送る形で急すぎる流れを見ていた。いや、なんというか思考とか色々追いつかないって。

「いやぁ置いてきぼり感、すごいね……」

 あ、ヨシュアさんも同じだったんだね……。チート系ハーレム物の主人公さんしてるけど、流石にこの勇者さんやササヤさんのテキパキしすぎな感じはイネちゃんも難しいと思うな、うん。

「流石は調停を日常的にやってる教会と、勇者様ね……」

 あ、あれいつもの流れ的なものだったんだ……ミミルさん説明ありがとうございます。

「日常的ってことは、国家間や領主間の問題も?」

「表向きに大きな事案に関しては、調停式などで双方に嘘偽りがないか等を確認しつつ、暗殺等が発生しないように監視する……って聞いたことがある程度ですけどね」

 ミミルさんも又聞きって感じだね。

「ミルノ……」

 あ、キャリーさんが妹ちゃんのことを心配そうにしてる。

 ……そういえばキャリーさんってなんであそこまで戸惑っていたんだろう。

「そういえばさっき、妹ちゃんのやりとりの時戸惑ってたよね」

「イネさん……ミルノは私のことを公的な場ではお姉さまだったのですが、非公式な場ではお姉ちゃんでしたので」

「あぁ、今って非公式だもんね、確実に」

「それ以上に貴族としての立場がほぼ形骸化しているので、私もミルノもあの日にそのことを自覚していましたので……」

 家族の人が目の前で処刑だったっけ……辛かっただろうなぁ。

 ……あぁイネちゃんがイーアだったときのお話をするとき、皆はこんな風な感じだったんだね。なる程、それは確かに当人があっけらかんとしてると複雑な気持ちになるかも。

 ただイネちゃんとしてはキャリーさんと違って結構な年数が経っているからなぁ、まだ半年くらいしか経ってないキャリーさんの辛さは、なんとなくだけどお父さんたちに助けられてから1年くらいの、落ち込んでたなんだろうなと思ったりする。

「ひとまずはササヤさんの後を追いかけようか、説明通りなら目を覚ませば元通りのはずだし」

「そ、そうですね。えっと、私……」

「うん、行ってきなよ。僕たちはここで待ってる……あの部屋、全員は入れなさそうだしね」

 ヨシュアさんの言葉に、キャリーさんは首を縦に振ってから走っていった。

 さて、とりあえずキャリーさんの妹ちゃんを探すっていうお手伝いは終わったけど今後イネちゃんはどうしよう。

 できれば最後までお手伝いしたいけれど、お役所のほうがどう判断するかだしなぁ。

「あ、職員さん少し確認したいんですけど、今大丈夫ですか?」

「は、はい。大丈夫です」

 まだ呆気にとられていた職員さんを捕まえてイネちゃんは事の経緯と教会で話した内容を可能な範囲で説明した。その結果……。

「私の権限では何とも……少し確認いたしますのでお待ちください」

 ですよねー。

 キャリーさんが戻ってくるまでの間暇だし、待つのは問題ないんだけどね!

「大丈夫そうだったかい?」

 ヨシュアさんがイネちゃんに話しかけてくるけど、このタイミングならなんて言われたか聞こえてるよね、絶対。

「お役所仕事~……」

「あぁ……時間がかかりそうだね。でも確かに前例は少ないだろうし、基本は関わらない決まりらしいから、厳しいかもね……」

「んーどうだろ。完全に決まっているなら、ここの職員さんが即答でダメって言ってるだろうし、グレーゾーンだったりするのかも」

 領地争いではあるけど、統括当主のオーサって貴族さんはキャリーさんのお家に統治を任せているって声明だしてるわけだし、額面通りならテロ鎮圧に分類されそう。

「えー、管理者がオーサ領当主に問い合わせを行ったところ、教会に要請した調査協力という形であるのなら私たちが介入しても問題はない。とのことらしいので大丈夫です。その際に発生する戦闘等に関しても賊退治と認識して問題ないとの言質も録音いたしましたので、そのように認識なさってくださって問題無いと思います」

 職員さん、完全にあっちの世界が受身だってバラしてるよ、絶対わかっちゃうよ。

 まぁそれ以上にオーサって貴族さんの判断が柔軟すぎるだけの気もするけどさ、利用できるものはとにかく利用しようって感じ。

 でもこれで、イネちゃんの今後の方針は決まったね。

「イネちゃんは、キャリーさんのことを手伝っても問題ないみたいです」

 人を撃つことになりそうだけど、うん、イネちゃんは既に1度撃ってるし、できるだけ死なない場所を狙うだけだね。P90の連射でできるかどうかの問題はあるけどさ!

 職員さんの言葉を一緒に聞いていたヨシュアさんは、イネちゃんの言葉も合わせて笑顔を返して答えてくれた。

「今後もよろしく、イネ!」

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