第29話 イネちゃんとキャリーさんの妹の行き先

「さて、それではヨシュア君たちが教会を訪れた理由はなんだったかな」

 皆が食べ終わるのを見届けて、リリアさんが食器を片付けた終えたタイミングでタタラさんが話を切り出した。

「この子、キャリーの生き別れになった妹の行方を教会が把握していないかを調べにきました」

 ヨシュアさんは素直に答える。まぁ隠す必要なんかないもんね。

「ふむ、ではまず謝罪とその理由を述べよう。教会はその中立性を保つために特定の外部の存在と手を結ぶことは極力しないし、献金のようなものも基本的にはお断りしている。その延長になるのだが、その子は貴族であろう」

 タタラさんが視線を移すだけでキャリーさんのことを示すと、キャリーさんは静かに頷いた。やっぱり嘘を付く理由がないもんね。

「となればどのような状況、情勢、経緯においても教会は力を貸すことはできない。出来うるだけ関わらないことにより中立性を保っているために、そのような争いごとに巻き込まれる可能性が高いものの保護は、教会とは真逆の方向性で中立を保っているギルドに任せているからだ、すまない」

「つまりは、生き別れた妹も貴族である以上保護はしていない。ということでしょうか」

「そのとおりだ。そしてギルドから身分を隠した上で保護を受けているという情報もないし、この教会でも受け入れていない。例外としては国や領土を戦争という形で失った場合に置いては保護もすることはあるが……ヴェルニア家の件については統括領主のオーサが奪われた領土に関しては未だにヴェルニア家に統治を任せているという声明を教会に送ってきているため、教会は関わることができないのだ」

 あぁ色々面倒なしがらみだね、うん。

 でもこれでキャリーさんの妹さんは教会には居ないってことが確定したわけだね。

「教会が関われないというのは、キャリーはその妹が領主という扱いになるから。でいいのでしょうか」

「その認識で問題無い、教会としてもヴェルニア家のそのほとんどが処刑されたことは把握しているし、それが別の貴族の扇動であったであろう疑いが強いという情報も掴んでいるが、教会は関わることはできない」

 ん、なんだかタタラさんの言葉に違和感。

 イネちゃんだけじゃなく、ヨシュアさんもそのへんに気づいているとは思うから少し黙っておくけど、気づいていなかったら少し割り込ませてもらおう。

「なる程、関われないのですね」

「そのとおりだ」

「つまりは歴史的にも更に中立である勇者様たちはその限りではない、と」

 ヨシュアさんがそれを口にしたところで、タタラさんが笑う。

「ヌーリエ様のお導きでしょうね、あなた方が教会を訪れるより前にココロとヒヒノに出会われたのは。仰るとおりにヌーリエ様の神託を直接受けた勇者という存在は立場の上ではヌーリエ教会所属ではありますが、その縛りを受けることはありません」

「勇者様のお二人がここにいる理由を考えてみたんですよ、現時点でこの世界でゴブリンを除いた動乱の種は、僕の知る限りではキャリーの、ヴェルニアという貴族の問題だけですので」

 あぁそうなんだ、イネちゃんは教会としては関われないけど個人的にはとかそんな流れなのかと思ってたよ。

「今、貴族から魔王と呼ばれている存在は穏健派ですからね。海岸に現れる魔族を配下に置いて漁業と養殖技術を持っていて、その軍事力も侮れないものの最初の接触はギルドの冒険者であったのが幸いでした」

 貴族の調査隊とかだったらドンパチ賑やかなことになってたんだろうね、今の言い方だと。

「まぁ勇者って言ってもまずはお話からだけどね。双方の意見を聞いて、実態を把握した上でどうするかを決める。場合によってはドーンって武力を行使するけど」

 ヒヒノさんが勇者様の方針を説明してるけど、それどこかで聞いた感じだなぁ。大抵話し合いが破断して巨大ロボでドンパチするとか、コーイチお父さんのコレクションにあったアニメにあった気がする。

「ヒヒノはこう言いますが、正直なところ貴族の方の中には最初から話し合いの場に立たないという方もいらっしゃるのが悲しいところですがね」

「勇者様だってわかっていても反発してくるんだ」

「そうですね、今まであった言い訳では『えぇい、こんなところに勇者様が居られるわけがない!勇者様を騙る偽物を討伐せよ!』というものが一番滑稽だったでしょうか」

 あ、それイネちゃんあっちの世界の時代劇で見たことある。暴れん坊さんの一番盛り上がるところだ。

「あぁあの時かぁ、結局私が一発ドーンってやってすぐにごめんなさいしてきたよね」

「その一発が屋敷の半分を綺麗に蒸発させたのだから当然でしょう……ヒヒノはいつも規模が大きすぎるんです。あの時は中に人がいなかったからよかったものの、いたら大惨事でしたよ」

「ごめんなさいだって、あれからはまずはココロおねぇちゃんに任せてるから、ね?」

 さすが勇者様の言動は規格外だなぁ、一発で貴族さんのお屋敷を半分蒸発って……え、蒸発?爆破とかじゃなく?

「とりあえず話を戻しますと、ヴェルニア家の問題に関しては勇者が介入することになっています。現地の問題に関しては私とヒヒノでなんとかしますし、その後特別呼び出しなどが無ければ妹さんの捜索のお手伝いもさせていただきますよ」

「私たち、じんどー的だからね!」

「いや、ヌーリエ様の教えで困っている人を助けるのが勇者の使命なのが一番です。勇者でなかった場合、関わることすらできませんし問題の認知すら難しいでしょうからね」

 勇者様って、そういうのを把握できる力とかもあるのかな、ココロさんの言い回し的にそう捉えることもできるけど。

「でも、でしたらなぜ直接オーサ領に向かわず、この町に?」

「単純な理由ですよ、情報収集です」

「うん、そうだよね。あっちの世界に興味があったし、リリアちゃんが元気なのか知りたかったもんね」

「ひ、ヒヒノ!何を!」

「どれも情報だよねー」

 うん、本当に仲がいいなぁ。ステフお姉ちゃんのことを思い出すくらいのじゃれあいを見て、勇者様も人間なんだなぁって思える。

 勇者っていう遠い存在に、こうやって親近感を覚えられる言動ってすごく好感が持てるとイネちゃんは思う、いいぞもっとやれっていう感じで。

 と、イネちゃんが癒される感じに思っているとココロさんが咳払いをして話を戻す。

「と、とにかくです。ヴェルニア家の案件に私たちが関わる上で、キーパーソンとなるキャリーさんと共に行動をするのは、必須ではありませんがかなり重要な位置にあるのでしばらくあなた方と行動を共にするつもりです。別に強制ではありませんが、可能なら同行を許していただければ幸いです」

「え、勇者様が一介の冒険者と共に行動するということですか?」

 ヨシュアさんがココロさんの提案に驚きながら聞き返してる。気持ちはよーくわかるけどね、突然勇者様がパーティーインって。

「冒険者だから、かな。非人道な依頼は拒否できるし、教会と同じ中立。教会からも依頼って形で調査協力依頼とか出されるんじゃないかな。ね、タタラ叔父さん」

 ヒヒノさんが答えると同時にタタラさんに確認を取ると、タタラさんは首を縦に振った。

「元を言えばオーサ領現当主から、完全中立であるヌーリエ教会とギルドに対して第三者視点からの調査依頼が来ていたからな。教会側は勇者の派遣を、ギルド側は冒険者への調査依頼を出す形でそれに応えたわけだ」

「教会は関われないのにですか?」

「先ほども言ったが、勇者は立場的には教会所属。教会にそのような要請をするというのは同時に勇者派遣要請でもあるのだ。その上で教会は勇者を守るためにギルドにも協力を要請する、お互いが中立であるのならば教会の動きに制限はかされないからな」

 勇者様に護衛は必要なのかとか、教義とかの決まりに大きい穴が空いてるんじゃないとか色々言いたいことはあるけど、とりあえずそういうことになっているんだろうってことはイネちゃん把握した。理解まではできてないけど。大人の世界って怖い。

 あ、でもふとイネちゃんは思い出したことがある。まぁ今すぐ判断しなくてもいいしもしかしたらではあるんだけど、言っておいたほうがいいよね。

「……イネちゃんは登録上ではあっちの世界からの傭兵冒険者さんなので、もしかしたらその依頼を受けちゃいけないかもです」

 あっちの世界からこっちの世界に来ている人間に課せられた縛りなんだけど、情勢を大きく変えるような出来事には関わってはいけないって言われてるんだよね。

 キャリーさんの妹ちゃんを探す分は問題ないだろうから自由に動いてたけど、貴族さんのあれこれで、勇者様も出て来るような事案にまで許可が下りるのかは怪しいとイネちゃんは思っちゃったわけなのです。

「そういえばそのような決まりがあったな……」

 タタラさんが思い出した感じにイネちゃんの発言を補強してくれた。もしかしたら受けたくないだけじゃーって思われると思ってビクビクしてたけど、教会の神官長さんの言葉もあるから大丈夫だよね。

「あちらの世界、特にこの町の近くにあるあそこのゲートの繋がっている国では特に遵守徹底されているようですからね……ですが一度聞いてみてはいかがでしょう、午前中に行ったキャリーさんの検査データを用いた何かを行った結果を聞きに行く必要があるでしょうし、そのときに聞けばよろしいかと」

 ココロさんに至っては方針まで示してくれた。少し時間がかかるだろうけど、一番無難で安全な方法だしお言葉に甘えようかな……。

「そうですね……イネさんに迷惑をかけるのは私も嫌ですし……」

「いやいやいや、キャリーさんを助けたいっていうのはイネちゃん個人の思いだし考えだからね、まぁ、決め事が原因で直接的なお手伝いとかは出来なくなりそうかもだけど……まだそうだと決まったわけじゃないから、ね!」

 直接的に関わるのがダメっていうなら、間接的にお手伝いすることはできそうだしね、教会の人たちと同じ立場になるってだけで。

 とそこで何やらいい雰囲気になっていたところに、食器のお片付けをしていたリリアさんが入ってきて。

「なんだかギルドのほうから連絡が来て、キャリーさんからの要望について報告がありますって検問所から連絡があったらしいよ」

 物事は、案外早く進みそうです。

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