第20話 イネちゃんと火の番
「ごちそうさまでした」
結局皆でタコさんを美味しく頂いたところで、イネちゃんは手を合わせて感謝を示す。美味しいご飯になってくれてタコさんありがとう。
「え、なにそれ」
ミミルさんがイネちゃんの感謝の意に関して質問してきた。
「イネちゃんの居たところだと、食事の前後にこんな感じに感謝するんだよ。割と忘れたりするけど、今回は無意識レベルでごちそうさましたけど」
「食べ始めるときは違うの?」
「うん、そっちはいただきます。食材やそれを用意してくれた人、作った人に感謝を示すの」
「へぇ、面白い文化ね」
本当は宗教から生まれたものらしいけどね、イネちゃんはそのへん詳しくないけど。
「よし、焚き火番は僕がするから皆は寝ていいよ」
ヨシュアさんが焚き火に薪をくべながら皆に向かって言う。いや、いくらチートな存在だからって単独でとか普通に無理でしょ。
「イネちゃんが交代要員になろうか?一人で一晩まるまるとか普通に過労で倒れちゃうかもしれないし。今まではどんな感じにしてたの」
「今までは僕がメインで火の番をしてたかな、ウルシィとミミルと一緒に旅するようになってからは交代してもらうことも多くなったけど」
疲労まで意図的に回復できるのかな、このチートさん。そう思わざるを得ないレベルのこと口走ってるんだけど。
「でも大丈夫かい、イネは昨日今日と結構大変だったと思うけど」
「サバイバル訓練はお父さんたちから受けてるからなぁ、三日くらいは寝ないでも動けるけど……昨日ぐっすり寝たしイネちゃんは大丈夫だよ」
M24とXM109を担いだりしたのは想定外ではあるけど、ウルシィさんが手伝ってくれたこともあって疲労はそこまで感じてない。自分が感じてないだけって可能性は否定しないけど、眠気もあまりないから交代で火の番をする分には大丈夫だと思う。
「いっそ2、2で交代するっていうのはどうかしら。トイレとかに行きたくなっても一人じゃその、辛いし」
少しもじもじしながらミミルさんが提案する。むしろ今おトイレかな?
ミミルさんの提案を聞いてヨシュアさんが少し考える素振りを見せる。本当に考えているかはわからないけど。
「そうだね……それじゃあ僕とイネが最初、ウルシィとミミルが後で火の番をしようか」
ヨシュアさんの言葉を聞いて、目に見てわかるほどミミルさんの表情が変わる。
「え、なんで?もしかしてイネみたいな子が……」
「違うからね。少し話したいこともあるし、皆も仲間になった直後の野営ではこんな感じだったでしょ」
「う、そうだけど……」
更にヨシュアさんの言葉で、ミミルさんは小さくなっちゃった。今のミミルさんは子犬っぽい。
「じゃあそういうことで、皆はお休み」
とヨシュアさんのお休みで皆がとりあえずで作った寝床で横になったのを確認してから、ヨシュアさんは焚き火の側に座った。
「イネちゃんはまず薪を作ってくる、タコさんが引っ張ってきたのとかで手頃なのがありそうだし」
「うん、だけど目に見える範囲でね」
こういうツーマンセルのときは当然のことを言われてしまった。そんなに心配させる要素……今日はドジっ子したから素直に聞いておくことにしよう。
タコさんの近く、比較的持ちやすくて薪にできそうな枝を4本ほど持って焚き火のところまで戻ってヨシュアさんの対面に座る。……長いから少なくていいんだよ、重いし。
「とりあえず生木だし1本入れておくよ」
断りを入れながら持ってきた枝を小さく割って、木の皮を少し剥がしてから焚き火に放り込むと、弾ける音がしてから投げ入れた枝にも火が移るのを確認してから残った枝も同様に短く、皮を剥がす作業に入る。
準備できるキャンプ……というかあっちの世界と違って、乾いた薪の入手難易度が違う以上こういう方法もちゃんと教えてもらっているのだ。
焚き火が消えないよう、いくつか枝を投げ込んだところでヨシュアさんの口が開いた。
「それで……イネの居た世界のことでいくつか聞きたいことがあるんだけど」
うん、やっぱりそうだよね、高い確率でそれを聞かれる予感してた。
「とりあえず聞かないと答えられるかどうかわからないよ」
と話してくれるのを促してみる。イネちゃんとしてもどうやってチートキャラとしてこっちの世界に爆誕したのか聞いてみたいし。
「イネは、どの国に……いや日本語だし日本か。でもどうして銃を持っているのか、行き来の自由度とか聞きたいんだ」
「うーん、日本は確かに銃とかは持っちゃいけないけど、こっちの世界で傭兵さんとか冒険者さんをやる人は例外として、国の偉い人が用意した種類から買えるんだよ。まぁイネちゃんの場合お父さんのうちルースお父さんとボブお父さんが元はアメリカって国の出身だからそっち経由でも買えたりするんだけど」
「ゲートって、いつから出来たんだい」
「10年前には無いと、イネちゃんここに居ないからなぁ。それ以前に開いていたとかは知らないけど」
今の受け答えで、ヨシュアさんがすごく考え込み始めた。あれ、地球人じゃないの、でも日本語とか理解してるしなぁ。
「答えられないなら仕方ないことだけど聞いてみる、西暦何年だった」
「イネちゃんが助けてもらったのが2010年、出発したのが2020年だよ」
別段秘匿情報でもないことだし素直に答えると、すごく頭を抱えだした。
「……僕が居た日本も、2015年くらいだった。だけどゲートがあるとかいう話は無かった」
んーイネちゃんがお父さんたちに引き取られてからすぐに、あっちの世界では周知されたから整合性が取れない。となるとヨシュアさんはイネちゃんが居た世界とは別の世界からで、でもそっちも地球の日本……?こんがらがってきた。
「どうやら、あっちの世界……ゲートを通っていける地球は僕の居た地球じゃないみたいだね」
あ、かなりがっかりしてる感じ。でも意気消沈とかまでは行ってないようだけど。
「あ、今度はイネちゃんから質問いいかな」
思い出したようにヨシュアさんに聞いてみる。まぁ実際今思い出したんだけど。
ヨシュアさんも顔をあげて。
「僕に答えられることなら……」
あ、やっぱ意気消沈までいってるのかな……。でも聞いちゃったんだから聞かないと逆に失礼だよね。
「ヨシュアさんって、イネちゃんたちのことをゲームのデータみたいな感じにステータスとかが見えてたりする?」
とりあえず一番気になることを真っ先に聞いて見る。
ジャクリーンさんが残したお手紙の匂いで、ウルシィさんが飛びかかって来た時にヨシュアさん無反応だったのが気になったんだよね、間違いなく身体能力的には止めれたはずなのに止めなかったから。
「……なんで、そう思うんだい」
「だって対物ライフルの弾と同じくらいの速さで動けるのに、ウルシィさんがイネちゃんに飛びかかってきたときは動かなかったでしょ。多分だけどヨシュアさん、イネちゃんは犯人じゃないって把握してたと思うし」
しまったーって顔なのがよくわかる。ヨシュアさん、元々は結構顔に出ちゃう人なのかなぁ。
「正直に言うと、見えてる。でもこんなこと基本信じてもらえないからね」
「あぁうん、そうだよね。創作物とかで知識はあるイネちゃんでも半信半疑だし。出会ってから今までの情報で消去法していくとどうしても信じざるを得ないというか。あぁ後あれだ、ビーム出したハンドガン。あれ取り出す動作が見えなかったのもね、イネちゃんの予想としてはゲームのインベントリみたいなのがあるんじゃないかなぁと予想してるんだけど」
「……君はなんでそんなに受け入れちゃってるのか」
ヨシュアさんが今度は呆れ気味に!
「イネちゃんとしてはそういうものが存在してもいいと思うのです」
ゲーム的なインベントリとか、すごく便利そうだもんね、弾薬無尽蔵に持ち運べたり重い銃も持ち運びが楽だろうし。あぁそうだ……。
「ところでインベントリ……って便宜上言うけど。重量とか無視できないかな。できるタイプならその……XM109とかを持っていただきたいかなって」
「それは、構わないけども……イネは銃のことを型番で呼ぶんだね」
「いや、型番で呼ばないと性能とかで細かく違うし、わからなくなるよね。最もイネちゃんの装備は基本ベースだけがそれで、イネちゃんが使いやすいように魔改造してある……ってお父さんたちが言ってたけど」
イネちゃんが組立や解体ができるのは、お父さんたちからの反復練習を受けたからだけど、正直パーツの細かい調整とかはできない。カタログ
お父さんたちは素人相手ならこれでいいとも言ってたし、ヨシュアさん相手なら問題ないよね。
「そういうものなのか……」
「ところでヨシュアさんが聞きたかったことは、終わりかな。イネちゃんのほうもとりあえずヨシュアさんに聞きたいことは終わったけど」
「あ、うん大丈夫。一番聞きたかったことはアレだけだからね。他にも色々細かいことは聞きたいことはあるけど、特別今すぐに聞かなきゃいけないことはないからね」
お互いが聞きたいことが無い、と言ったところで焚き火がパチっと弾けた。
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